ウサギのお姉ちゃんと魔法研磨

344.普通の魔法研磨、純粋魔力のみの魔法研磨

 講習会の翌日、さすがにまだ新居は完成していません。


 明後日には完成して午後に引き渡せると言われているのですが……。


 いろいろ魔法を使ったり、聖獣樹の特性を使った建築をしているとは言えど早すぎます。


 朝出勤前に様子を見に行ったら建築ギルドマスターとサブマスターが食い入るように作業を見つめていて、仕事は大丈夫なのか尋ねると『技を盗むのも仕事のうち』と言われましたし。


 さて、この日の午後は完全にフリー。


 弟子たちもコウさんの家に戻り、念のためしばらくは外出禁止です。


 なので、のんびり書き物をしていました。


 そんな中、ギルドマスタールームの扉がノックされやってきたのはエレオノーラさん……となぜかユイ。


 一体どんな組み合わせでしょう?


「エレオノーラさんの用件はなんとなく想像がつきます。ユイ、あなたエレオノーラさんの邪魔はしていないでしょうね?」


「ユイさんは邪魔なんてしてません! 昨日の講習会についてまとめるのを午前中から手伝ってくれていました」


「ユイ、あなたまた午前中からギルドにいたんですか?」


「あ、あはは。その、えっと。ごめんなさい……」


「エレオノーラさんの邪魔をしていたわけでないなら許します。お仕事も手伝ってくれたみたいですし。それで、なぜあなたまで?」


「あの、私でも魔法研磨ってできませんか?」


「ユイが魔法研磨、ですか……」


 ふむ、ちょっと困りました。


 ユイは最大魔力量こそ無理矢理上げたものの、属性魔法の才能は相変わらずからっきしなし。


 土と風を必要とする魔法研磨はダメです。


「……まあ、いいでしょう。でも、エレオノーラさんとは別手順になりますよ?」


「え?」


「だって、ユイ。あなた、属性魔法はまったく才能がないじゃないですか。普通の魔法研磨には土属性と風属性が必要です」


「そんな……」


「なので、あなたは別メニューです。純粋魔力だけで研磨する方法を教えます」


「やった! スヴェイン、愛しています!」


「愛されているのはよく知っています。と言うわけで、このお調子者が一緒になりますが構いませんか、エレオノーラさん?」


「はい。私は大丈夫です、ギルドマスター」


「では始めましょうか。まずは今のあなたの腕を見せてください」


「はい」


 エレオノーラさんは原石を取り出して魔法研磨を始めました。


 回りの余計な岩石を取り除くのは問題ないですね。


 次、風属性で大まかなカットを入れる手順ですが……。


「あっ!」


「ふむ」


 ここで失敗して宝石に大きな傷が入ってしまいました。


 彼女の様子からして、これが一度や二度の失敗ではないのでしょう。


「ユイ、あなたの目から見て失敗の理由はわかりますか?」


「え? ああ、いや……まったくわかりません」


「まあ、研磨を知らない以上は仕方がありませんね。では、エレオノーラさん。僕が研磨をやってあげます。よく見ていてください」


「はい!」


「私も見学します!」


 僕はエレオノーラさんの石と同じ程度の難易度の石を取り出し、研磨を始めました。


 最初の余計な周囲の岩石などを取り除くのは一緒。


 違うのはここからです。


「え?」


「あ、ゆっくりとですが回転してる」


「正解です。全方向から風を当てるのではなく、宝石を回転させながら削っていくのです。エレオノーラさんは見えない部分を削ろうとしたために宝石に傷を入れてしまいました。削るのはあくまでも見える部分だけですよ」


「え、あれ? サンディさんはそんな事……」


「彼女、当たり前すぎて伝え漏れているのでしょう。まったく、〝スヴェイン流〟の講師でもあるなら一から十まで細かく教えなければいけないのに」


 リリスに頼んでお説教と講義のやり直しですね。


 まったく。


「お手本、もう一度見せますか?」


「いえ! まずは自分で試してみます!」


「ええ。では、ユイ。あなたに専用の魔法研磨術です」


「はい!」


 エレオノーラさんが研磨を始めたので、邪魔にならないよう少し離れた場所に移動してから彼女に教え始めます。


「ユイ、あなたには致命的なレベルで属性魔法の才能がありません。そのために土魔法で周囲の土や岩を剥がし、風魔法で大まかなカットを施すことは不可能です」


「わかりました。それで、具体的にどうやって削ればいいのですか?」


 ユイ、職人モードになっています。


 いつものおちゃらけた雰囲気もふたりきりの甘い空気もありません。


「そうですね。まずこの原石を両手でくるんでください」


「はい。こうでしょうか」


「ええ。これからあなたの体を通して純粋魔力を流します。あなたなら感覚でつかみ取れるはずです」


「はい! ……あ、が」


「それが宝石にあたる部分です。回りの土は純粋魔力でそぎ落としてください」


「わかりました……うわぁ。本当に宝石の原石だ」


「申し訳ありませんが、ここから先は根気のいる作業です。純粋魔力を使って端から少しずつ原石を削り落としてください。そして望む形の宝石に仕上げるのです」


「力尽くはもちろんダメですよね?」


「当然です。あまり大きく削ろうとすると割れます。見極めは……宝石の硬度によっても変わるので感覚で覚えるしか」


「そういうのは大得意です! よーし、がんばるぞー!」


 職人モードのユイなら本当にがんばるでしょうね。


 その輝きに見惚れたのですから。


 エレオノーラさんは……こちらはこちらで試行錯誤中ですか。


 僕は書き物にでも戻りますかね。


 結局、ユイは慣れていなかったこともあり終業時間までに最初の一個を削りきれず終了、エレオノーラさんもうまく回転させることができず何度も失敗を繰り返していました。


 ただ、ふたりとも楽しそうに笑っていましたし、根っからの職人なんですね。

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