187.錬金術師ギルドの『精鋭』たち

「そいで、スヴェインよぉ。このをかなえるためにはビンセントから土地をもぎ取らなくちゃなんねぇ。そこんとこどうするつもりだ?」


 冒険者ギルドのギルドマスタールームに場所を移し、今後の動きを話し合います。


 シュベルトマン侯爵はいまだに僕の野望を夢物語と信じている……いえのでしょうが。


「はい。ちょっと予定を前倒しする事になりますが、報酬としてお支払いするものを先見せしたいと考えています」


「報酬……薬草栽培か」


「錬金術師ギルドから少し離れたところに割といい感じの空き地があります。そこはとしてもらえていなかった場所ですが、先ほど商業ギルドに行った時に話をしたら『無料で差し上げます』と言われました」


「はっ、あのがめつい男がねぇ」


「それだけスヴェイン殿の功績が大きかったと言うことだ。畑にもならず、家も建てられない狭小な空き地ひとつ。それくらい手放す程度ではあの男も気が済んではいないだろうがな」


「スヴェイン、お前さん前錬金術師ギルドマスターの豪邸に住む気はねぇか? 確かまだ空き家だっただろう?」


「商業ギルドマスターも頭を抱えていたよ」


「そんな豪邸いりません」


「じゃあ、家を潰して土地として利用するのは?」


 ふむ……土地として再利用ですか。


 そこまで考えが至りませんでした。


「検討課題に入れておきます。ともかく、今はその猫のひたい程の土地で薬草栽培です」


「スヴェイン殿。そのような土地、栄養も足りておらぬのではないか?」


「はい、シュベルトマン侯爵。。肥沃な土地では土壌改良、いえ改悪かな? それから始めないといけませんので」


「……わからぬ。その作業の様子、拝見してもよろしいか?」


「明日は一日がかりの野良仕事になります。それでもよろしいのでしたら」


「私は元将軍。その程度の事気にはせぬ」


「スヴェイン、俺たちは?」


「私からもお願いしたい」


「ティショウさんとジェラルドさんなら口も堅そうですし大丈夫でしょう。あと商業ギルドマスターは……」


「あやつも商売のことでは我々以上に口が堅い。参加者は以上かね?」


「いえ。畑の管理を実際に行っていただく錬金術師ギルドの精鋭たちをこれから呼び集めに行きます。それから初日は指導役として僕の弟子たちも」


「スヴェインの弟子……あのふたりで大丈夫か?」


「最初は緊張するでしょうが指導が始まれば年齢差など気にしなくなりますよ。?」


「すっげー説得力」


「それではシュベルトマン侯爵。私は商業ギルドマスターに話を通して参りますのでお先に失礼いたします」


「僕はギルドの精鋭たちに声をかけに行きます。……シュベルトマン侯爵もお目にかかりますか? 初日にいらしていただいたとき紹介できませんでしたので」


「そうだな。軽くで構わない。あいさつさせてもらいたい」


「はい。では馬車に戻りましょう」


 僕たちは再び馬車に乗り込み、錬金術師ギルドまで戻ってきました。


 シュベルトマン侯爵とともに馬車を降り、受付で軽いあいさつを済ませたら精鋭たちのアトリエへと向かいます。


「シュベルトマン侯爵。ここが今現在、最精鋭の者たちが使っているアトリエです」


「……見習いたちを鍛え直した、と聞いていたが本当に見習いの作業部屋なのだな」


「新しい部屋を与えたいのですが、ちょうど良い部屋が錬金術師ギルド内にはなく」


「一般錬金術師の部屋は?」


「一般錬金術師の方々がダラダラと占拠しています」


「そやつらの腕前は?」


「マジックポーションを六割程度の確率で作れるくらいから進歩してませんよね、ミライさん」


「はい。まことにもって遺憾ながら」


「……その者たち、領都に引き抜いて帰っても構わないか?」


「構いませんが……不良債権を押しつけるようで心苦しいです」


「領都ではそれでも精鋭になりうるレベルだ。ここの錬金術師ギルドも風通しが良くなって良かろう」


「はい、とても助かります」


「では、決定だ。済まぬが後日、手続きを頼む」


「本当に心苦しい手続きです。ギルドの尻拭いを頼むみたいで」


「そなたの言う精鋭たちに期待しよう」


「わかりました。皆さん、スヴェインです、入りますよ」


 ドアの前で一声かけてから部屋の中へと入ります。


 すると、部屋の中ではなにやら狂喜乱舞したあとのような空気がただよっていましたね。


 さて、どこまで研究が進みましたか?


「ああ、ギルドマスター! いいところに!!」


「後ろの方は?」


「シュベルトマン侯爵です。失礼のないように」


「わかりました。……それよりも、ギルドマスター。これを見てください! !! ようやく完成いたしました!!」


 この子たちも礼儀を忘れ始めてますね。


 そう仕向けているのが僕のため、あとでミライさんにお説教をくらいそうです。


「まて、今、と言わなかったか?」


「はい! です! シュベルトマン侯爵様も確認してください!」


「あ、ああ。 ……本当に最高品質の魔力水だ。これはそなたたちが?」


「はい。いやぁ、苦労しました。スヴェインギルドマスターが帰ってきてからだから、これにかかりきりでしたからね」


「納品分のポーションもこなしながらだとやっぱりキツいよな」


「ギルドマスターが教え込んでいる講習会の新人たち、早く来てくれないかな。そうすればのに」


「ねえ、ギルドマスター、サブマスター。あのたち、いい加減追い出す口実はありませんか?」


 ギルドの最精鋭……なのにまだまだ若い錬金術師たちのいい分にシュベルトマン侯爵は目を白黒させています。


 当然でしょう、


 それだけの大言を軽々しく放っているのですから。


「すまぬ。私には君たちがこの最高品質の魔力水を作ったという事実がまだ信じられないのだ」


「ですよねぇ。自分たちも半年前なら『なに言ってんだこいつら』って感じますから」


「では、再現して見せます。……申し訳ありませんが成功率は二割から三割なので数回の失敗は許してください」


「もちろんだとも。最高品質など国内でそうそう作れる人間はいない。本当に作れるなら最高位錬金術師に並ぶのだぞ?」


「……シュベルトマン侯爵。この国の錬金術師って?」


「なに?」


「ああ、それでギルドマスターはあんなに嘆かれていたのか。最高品質まで手が届いて初めて理解できました」


「そ、それは……」


 シュベルトマン侯爵も反論できないでしょうね。


 たかだかんですから。


「さて、それでは始めます。まずは魔力水を横方向に攪拌して……最後は縦方向! よっしゃ、一回で再現成功! ギルドマスター! 今の手順であってますよね!?」


「ええ、手順としては正解です。ですが、まだまだぎりぎり最高品質に届いた程度。見本を置くのはまだ早いと考えてなにも見せていませんでしたが、僕の作った最高品質の魔力水はこのような色になります」


 そう断って僕がストレージから取り出したのは、以前弟子たちに見せたものと同じクリスタルに閉じ込められた魔力水。


 精鋭たちが作った魔力水よりも透き通った青色をしています。


「……さすが、ギルドマスター。最高品質ができただけで喜んでいた自分たちが愚かでした」


「これ、まだまだ上があるって事だよな


「つまり、ポーションやマジックポーションにも実は差があるんじゃないのか?」


「ああ! これだから研究はやめられねぇ!」


「だよな、だよな!? ギルドマスター! この魔力水はお預かりしても!?」


「部屋の一角にでも飾っておきなさい。将来目指すべき指標として」


「「「はい!」」」


 ここまでのやりとりを唖然となって見つめているのはシュベルトマン侯爵でした。


 いけませんね、ホスト役がお客人を放置してしまいました。


「シュベルトマン侯爵、こういった感じなのです。今の精鋭たちは」


「サブマスター。いや、恐れ入った。彼らはとてもではないが領都に引き抜けない。引き抜いても今いる錬金術師全員を『実力不足』として追い出すのが目に見えている」


「そうでしょうとも。まったく、血の気の多さもギルドマスターに似てきてしまい困っているところです」


 なにか失礼な事を言われていますが無視です。


 今は大切な話を伝えねばなりません。


「皆さん。盛り上がっているところ済まないのですが、明日はポーション作りを一日おやすみです」


「そんな!? 今一番盛り上がっているところなのに!?」


「申し訳ありません。今が大切な時期なのはわかっています。ですが、


「……? 最高品質を作るよりも大切な技術ですか?」


「はい。申し訳ありませんが、明日はおやすみなしです。今日休んでいる方々にも連絡を取ってください。明日は夜明け頃にギルド前集合。そこから、僕がもらった土地へ移動します」


「はい、そこで一体なにを学ばせていただけるのでしょうか?」


「これから先のあなた方には必要不可欠な技術、ですよ?」


 それを伝えた途端、アトリエ内では大爆音が鳴り響きました。


 そんなに嬉しかったのでしょうか?


 事前に遮音結界を張って外部に音が漏れないようにしておいて正解でしたよ。

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