第十二部 学ばせる隠者と春の芽吹き

423.新しい春が始まる

 コンソールの冬も完全に明け、春の日差しが差し込むようになりました。


 アリアが建てたこの家、いえ、増改築はされたのですが、ともかくこの家で暮らすようになってからも一年が経過です。


 コンソール新市街もかなり出来上がってきているようで、そろそろ各ギルドも新市街に支部を作ろうかという話が持ち上がっています。


 もちろん、錬金術師ギルドにそんな余裕はありませんが。


「スヴェイン様、なにをお考えですか?」


「スヴェイン。昨日の夜のことでも思い出した?」


「ユイ、またあなたは……」


「ごめんなさい、アリア。最近、添い寝の日はを除いてほぼ毎日……」


「まったく……相変わらず私はダメですし、いざとなればあなたに頑張ってもらうしかないのですが、大丈夫ですか?」


「覚悟はできているから平気!」


「このお調子者は……」


「へへへ……」


 アリアとユイも仲がよさそうで結構です。


 もっとも、残りのひとりはかなり大変そうですが。


「ミライ様、いまだに去年の秋の分すら終わっていないのは困りますよ?」


「そうは言われても……大変なんですよ……」


「事務処理は得意分野では?」


「得意分野ですけど細かすぎます……」


「諦めるのでしたらゆび……」


「頑張ります!」


 あれ、いつになったら立場が逆転するのでしょうか。


「スヴェイン様、本当になにを考えているのです?」


「そうだよ、さっきからぼーっとして」


「いえ。今は平和でいいなと感じまして」


「平和かあ……おととしの私は焦ってたからなあ」


「ユイが、ですか?」


「うん。エンチャントの腕が全然上がらなくて焦ってた。指導がきつくなりすぎないように抑えるだけでも大変だったよ」


「指導であっても体罰は感心しませんよ?」


「思い出させないで……夫相手でも恥ずかしすぎて涙が出そうだから」


「子供たちに悪い教育をした罰です。反省なさい」


「反省してます……」


 本当に大丈夫なんでしょうね?


 次にやったらもっと……どうすればいいんでしょう?


「そういえばスヴェイン。弟子たちは?」


「エレオノーラさんも含めアトリエで魔法研磨の練習中です。あの子たちも『道歩む者』になってから、どんどん技術が伸びているのが楽しいようで」


「ノーラは大丈夫?」


「エレオノーラさんはエレオノーラさんで割り切っているようです。自分じゃあそこまでの覚悟はできないし、目指す道も違うと」


「そっか。なら安心」


「ユイ。あなたの仮弟子はどうなっているのです? 最近は服飾ギルドに入門させたようですが」


「ああ、サリナ。うん、私の元で素養は学ばせたから少し早いけど服飾ギルドにお願いしてきた。子供服を作る道を選んだみたいだし、基礎をもう一度学ばせたらそっちをメインに教えてもらうようお願いしてある」


「子供服……ですか?」


「うん、子供服。無意識だろうけど、本人がそれを選んだからにはそれしか教えない。私の元を巣だったあとは好きにさせるけど、それまでは子供服専門でやらせるつもり」


「他人の弟子……いえ、仮弟子ですし口は挟みません。でも、無理はさせないでください」


「わかってるよ、アリア。ただし、遅れている分は取り戻してもらわないと困る」


 ユイは本当に容赦がない。


 自分にも厳しいですが、他人にも厳しいのが難点ですね。


「それよりも、スヴェインとアリアの野望。まだ先に進めなくてもいいの? 教師はともかく箱は作れるんだよね?」


「ああ、それですの。それはもうしばらくお預けです。まだまだ道程が険しそうで」


「今のコンソールや周辺地域の情勢だと箱を作ってもものが揃わないんですよ。仕方がないのでコンソール新市街がある程度完成するまで待ちです」


「そっか」


「……先に子供を産みたいですか?」


「……産みたいって言ったらスヴェインとアリアはどうするの?」


「反対できませんね」


「野望が更に遅れるのは痛いです。痛いですが……スヴェイン様のお子様も早く抱きたいです」


「うまくいかないね。なにをするにも」


「そんなものですよ」


「そんなものです」


「そっか」


「僕たち、なんだかんだ言ってもまだ今年で十六ですよ?」


「はい。十六です」


「そういえばそうだね。成人してすぐに結婚だなんて夢どころか想像もしてなかった」


「誰のせいだとお考えで?」


「ごめんなさい、アリア。すべて私の責任です」


「よろしい。まったく、結婚なんてまだまだ先の予定でしたのに」


「まあ、すんでしまったことは仕方がありません。今は無理をしない程度に回していきましょう」


「はい」


「わかった……ああはなりたくない」


 ユイの視線をアリアとふたりで追いかければ、そこにいたのはミライ。


 先ほどからずっとリリスの指導を受けつつ家計簿をつけています。


「ああはなりたくありませんね」


「はい。なりたくありません」

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