118.最高品質の採取

「おはようですにゃ、お嬢様方。本日も良い天気ですにゃ」


「はい! ケット・シーさん、今日も採取頑張りましょう!」


「採取だけじゃなくて種まきもだね。一番古い株がそろそろ種をつけるはずだよ」


「そうですね。種まきもしっかりやっちゃいます!」


「いやはや、ヒトが薬草栽培の知識を持っていたかと思えば、薬草類は全部高品質。ここの畑はすごいですにゃ」


「まだまだです。先生たちの畑は全部最高品質だと聞いています!」


「そうだね。まだ、ボクたちの畑じゃ最高品質の栽培はできてないものね」


「その心意気、感服いたしますにゃ。ですが、最高品質の栽培とはそんな簡単に出来るものですかにゃ?」


「先生曰く、もう少し頑張れば出来るそうです。だから、頑張ります」


「だね。先生のお墨付きがあるなら心配ないよ」


「そうですかにゃ。では薬草類の採取から始めますかにゃ?」


「はい。種の採取と種まきはあとでいいでしょう」


「うん。まずは薬草類の採取から始めよう」


「わかりましたにゃ。では、ってこれは!?」


「どうかしましたか、ケット・シーさん?」


「お嬢様方大変ですにゃ! ができてますにゃ!!」



********************



「ふむ、できましたか」


 朝一番に弟子たちが持ってきた吉報を聞き、僕はそんな感想をもらします。


ですか?」


「ええ。最高品質の魔力水を与えていて土壌整備が完璧なら、そう遠くないころに採取できるようになると考えていました」


「なるほど。ちなみに、今日採取できた薬草の種もすべてだったのですが、それも先生の予想していた出来事でしょうか?」


「はい。種ができるのが先か葉が採取できるのが先か、どちらが早いかなと思っていた程度ですね」


「そう考えていたのなら、教えてくれても良かったのに……」


「あはは。あまり気にしないでください。これもまた、自分たちの成長を実感できるひとつの体験ですからね」


「それはそうですが……先生、少し意地悪ですよ」


「気にしない気にしない。それで、最高品質の葉は何枚採取できましたか?」


「はい! 薬草が二十五枚、魔草が十八枚です!」


「結構多かったですね。妖精たちが畑に居着くようになったのも影響があったのでしょうか?」


「先生?」


「ああ、気にしないでください。さて、最高品質の素材がこれで揃いました。次に目指すものはなにかわかりますよね?」


「「最高品質のポーションですね!」」


「はい。薬草の葉が割り切れないみたいなので、朝食のあと一枚もらって実践してあげます。そのあとはふたりが最高品質を目指す番ですよ」


「わかりました!」


「頑張ります!」


「よろしい。それでは、朝食を食べにいきましょう」


 僕とアリアは弟子ふたりを伴い、食堂へと向かいます。


 朝食を食べ終わったあとの会話では、ふたりがそわそわしているのをコウさんが見逃しませんでしたね。


「ニーベ、エリナ、なにをそんなにそわそわしているのだ?」


「ええと……」


「はい、それは……」


「うん? どうかしたのかね?」


「話してしまってもいいのではないですか?」


「そうですか? じゃあ、話します! 今日の朝の採取で薬草と魔草の品質が最高品質になったのです!」


「薬草の種も今日採取できた分はすべて最高品質でした。これからは最高品質の薬草を安定入手できそうです」


「まてまて、最高品質の薬草に魔草だと? そんな簡単にできるものなのかね、スヴェイン殿」


「そうですね。僕が初めて実験を行った頃よりは早い成長段階です。ただ、僕の経験から得られた情報を元にしていますから、そこまで驚くほどではないかと。抜けていた最後のピースは『最高品質の魔力水』だけでしたからね」


「ふむ。まさか、三カ月経つかどうかでここまでの成長ぶりとは驚いたぞ」


「僕の場合、もっと職業適性が低かったのに六カ月でマジックポーションまでは失敗しなくなりましたからね。職業適性も高く、頑張っているふたりならこの成長も納得でしょう」


「わ、わ! 先生が褒めてくれているのです!」


「嬉しいね、ニーベちゃん!」


「その代わり、最高品質の薬草類が手に入るようになった以上、目指すのは最高品質のポーション類製作です。指導の手は抜きませんから、ビシバシ鍛えていきますよ」


「楽しくなりそうです、エリナちゃん!」


「うんうん、ニーベちゃん!」


「まったくふたりは……」


「いいではありませんか。ふたりとも元気で成長しているのですから」


「そうですわね。ですが、どこかで成長の壁に突き当たるはずですわ」


「鋭いですね、マオさん。おそらく最初の難題は『霊力水』の高品質化だと考えています。これができないと、ミドルポーションの高品質化は難しいですからね」


「霊力水……まだ、作った事がありません」


「ボクもだよ、ニーベちゃん。先生、あとどれくらいで作れるようになりますか?」


「そうですね……マジックポーションで錬金術のスキルレベルを25まであげておいてください。霊力水自体は22から作れますが、安定し出すのはそれくらいからです」


「マジックポーションの生産だけでいいんですか?」


「と言いますか、それ以外に適切なトレーニング手段がありません。それに、冒険者ギルドでもマジックポーションはあればあるだけほしいそうです。需要と供給が安定していいと思いますよ?」


「そうですか……ちなみに、お父様のお店では私たちのポーションは必要ないのですか?」


「うむ……実に難しい問題だ。私もスヴェイン殿から買い取っている特級品ポーション以外は錬金術師ギルドから卸してもらっている。だが、最近は冒険者の購入者が減ってきていてな。ポーションの在庫が出始めているのだよ」


「ニーベちゃん、それって……」


「はい……私たちのせいです」


「うん? どういうことだい?」


 ニーベちゃんはこれまでの経緯をコウさんに話しました。


 それを聞いたコウさんは苦笑いを浮かべつつも、ふたりの行動をとがめはしません。


「そういう経緯だったのか。私もポーションは苦くて不味いものだとばかり感じていたが……スヴェイン殿のポーションはそうでもなかったな。その教えを受けている弟子のポーションだ。不味いはずもないか」


「はい、申し訳ありません……」


「そこまで影響が出ているとは考えもせず……」


「いや、ふたりが悪いわけではない。不味いポーションばかり作っている錬金術師ギルドが悪いのだ。それに、ふたりのポーションが冒険者の役に立っているのなら咎めはしないよ」


「ありがとうございます!」


「ありがとうございます、コウさん」


「ああ。それで、販売はスヴェイン殿がいない間も続けるのかね?」


「それはまだ考えていなかったのです……」


「ボクたちのポーションには、ボクたちが作った証のデザインが刻み込まれているんです。それは先生のオリジナル魔法らしくって……」


「スヴェイン殿?」


「そこは考えていますのでご心配なく。もう少し経ったらアリアによる魔法実習も始めます。その際に、僕が使っているデザインを刻み込む魔法を教えましょう」


「え、いいんですか?」


「はい。悪用しないでくださいね」


「それはもちろんしません! でも、先生みたいに複雑なデザインができるとも思えないのです……」


「そこも考えてありますのでご心配なく。あなた方は、今後のポーション作りと魔法実習、そのペース配分を考えればいいのです」


「魔法ですか……私は『魔術士』ですが、あまり自信がないのです」


「ボクなんて『錬金術師』だよ。魔法、ちゃんとできるかな?」


「大丈夫ですわ。きちんと基礎からしっかり仕込んであげますので」


「アリア先生が怖いのです……」


「アリア先生も容赦なさそう……」


「もちろん容赦などしませんよ? あなた方には目標があるでしょう?」


「ん! そうでした!」


「はい! 頑張ります!!」


「思い出していただけたのなら結構です。魔法も頑張りましょうね」


 ふたりの気合いも入ったようですので結構結構。


 さて、このやる気が冷めないうちに錬金術指導を始めましょう!

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