社会見学と教育

240.ギルドマスタールームでアルフレッドとテオと

「はあ、また暇になりましたねぇ」


 マーガレット共和国での騒動が終わってから一週間程経ってから後、ギルドマスタールームでそう漏らします。


 ただ、今日はそれに応える人間がふたりほどいますが。


「なんの、スヴェイン殿は暇程度がよろしい」


「そうだぜ。アンタが動き回ると周りを巻き込んじまう!」


 マーガレット共和国から連れてきた、アルフレッドさんとテオさんです。


 アルフレッドさんは基本的にあまり修練はなし、テオさんは今日の分はおわらせて魔力回復に努めているんだとか。


「しかし、このギルドに初めて来たときはなんの冗談かと感じたぞ。十二歳の少女がぴょんぴょん跳ね回り、指導して歩いているんだからな」


「確かに。あれがスヴェイン殿の弟子と聞いてからは納得もしたが」


「元々は僕が錬金術師ギルドに来る時間を確保するために連れてきたんですが……思いのほか大好評で」


「はっはっは! こりゃ師匠も形無しだな!」


「ええ、まあ。よく言われます」


「しかし次代の育成に……次代?」


「僕と二歳しか違わないので……」


「ああ、次代とも呼べないのか」


「将来的には研究の一部は託します。ただ、後継者指名はふたりとも断るでしょう」


「難儀だな、おい」


「まったくです」


「それで、彼女たちの目指している……」


「『魔導錬金術師』ですか?」


「それだ。具体的にはどんなことができる?」


「さあ? ワイズ……ワイズマンズ・フォレストからは僕の職業の劣化版としか」


「お前さんの劣化版だったとしても恐ろしい」


「大丈夫ですよ。力の使い方はきちんと教えます。道を誤れば聖獣たちも離れていくでしょう」


「うむ。まっすぐないい子供たちだ。あのまま育ってもらいたいものだな」


「はい」


 このときドアがノックされ入室許可を出すとミライさんが入ってきました。


「失礼します。おっと、来客中でしたか」


「嬢ちゃんは?」


「申し遅れました。当ギルドのサブマスター、ミライと申します」


「サブマスター様だったか。俺は……一応『賢者』のテオっていう。まあ、アリアにもシュミットの講師にもボコられる半端物だがな」


「わたしはアルフレッドと申す。マーガレット共和国よりお連れいただいた老骨よ」


「『賢者』テオ様に『杖聖』アルフレッド様でしたか。お話は伺っております。アルフレッド様は鍛錬を忘れておらず、テオ様は世界を知らなかったがため鍛錬の方向性を間違えていただけだと」


「事実だがよ、スヴェイン。もっと紹介方法があるだろ?」


「ですが、やり方を変えただけで『サンクチュアリ』だけでもとても頑丈になったでしょう」


「まあ、その通りだな。俺は枚数だけ増やせばいいと考えていた。実際には魔力密度を上げて薄く頑丈にする方が効果が高いんだからよ」


「私はただの『算術士』なのでどのくらいの差なのか測りかねますが……どれくらい違うんですか?」


「ただ枚数を張るだけじゃアリアの『ファイアバレット』一発で一枚割られてた。密度を濃くしたら『ファイアバレット』五発まで耐えられるようになった。これだけの差が出たよ。師匠の研究が滞るのは痛いけど魔法の訓練の方に集中したくなっちまった」


「そこまで差が出るんですか、マスター?」


「まだまだ発展途上ですが差が出ますよ。長い間枚数を多く重ねていた頃の癖が抜けきっていないので密度がまだ薄いですが、テオさんほどの魔力でしたらアリアの本気で放った『ファイアバレット』にも数発耐えられるでしょう」


「あーやっぱり手加減されてたか」


「手加減されたくなければ精進を重ねることだ。ところでサブマスター様がいらっしゃったということは大切な話であろう。部外者はこれで……」


「ああ、大丈夫です。もうすでに決定事項でギルドマスターに報告だけ済ませたら、一般告知をする内容ですから」


「本当に聞かれたくない話のときは部屋に結界を張ってから話しますからね」


「さすが、しっかりしている」


「抜け目がねえ」


「それで、今日の報告事項は?」


「ギルド支部の開館日です。事務員の都合がつきましたので三週間後にオープンできます」


「おや、一カ月半後から大分早まりましたね」


「事務員たちの頑張りが大きかったこと、シュミットから呼び寄せた錬金術講師の要望が多いことなどが上げられます。本当なら来週にでもオープンできるのですが……」


「なるほど。薬草を渡すべき相手が決まっていないと」


「五名ほどピックアップして内偵していただいています。その結果が出ればギルドマスターの面談です」


「わかりました。後ほどその五名のリストをください。聖獣たちにも内偵させます」


「……聖獣を内偵に使うのってギルドマスターだけですからね?」


「彼らも貴重な果実や薬草が食べられて大満足ですよ」


 本当に大満足なんですよね。


 聖獣農園で作られる果実や薬草は聖獣の森や聖獣の泉で採れないものが多いため、大好評なのです。


 この街の聖獣たちもそれを知っているため、僕の役に立つ機会を虎視眈々と狙っていますよ。


「お話は以上です。それから、ギルドの門前に子供たちが集まり始めていました。仕事が終わっているのでしたら遊びに行ってあげては?」


「そうですね。アルフレッドさん、テオさん。すみませんがこれで……」


「ちょっと待て。遊びに行くってなんだ?」


「私も気になる。子供たちと遊ぶのか?」


「はい。以前、退屈していた子供たちに遊びとして錬金術を少しだけ教えてからと言うもの大人気でして」


「……そいつは気になるな」


「私もだ。同行しても?」


「構いませんが……おふたりも子供に囲まれますよ」


「まあ、なんとかあやすさ」


「孫みたいに厳しくはせんよ」


「では行きましょう」


 ギルドマスタールームの片付けはミライさんがしてくれるというので、僕たちは子供たちの元へと向かいました。


 さて、今日はどんな遊びをせがまれますかね?


「……街のお兄さんに陽気なエルフと好々爺が増えた」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る