3.交霊の儀式
「それでは『交霊の儀式』を始める。名前を呼ばれたものから前に出なさい」
時間となり『交霊の儀式』が始まりました。
この儀式は5歳になった子供たちすべてが受ける儀式です。
星霊様に伺いを立て、その子供がいまどの分野……『職業』に向いているかを調べるものだそうですよ。
「……そなたは『剣士』だ。精進しなさい」
「……はい」
『職業』とは、自分の得意分野と不得意分野を現す指標だそうです。
職業にもいろいろと分類があり、いつの時代からか初級職、下級職、上級職、特級職などと分類され始めました。
お父様は『職業には貴賤はなく、ただの指標でしかない』といつもおっしゃいます。
ですが実際にはそうもいかず、5歳の『交霊の儀式』で優劣をつけてしまうとのことでした。
特に貴族の子供の場合は。
「……そなたは『魔導師』だ。精進しなさい」
「はい!ありがとうございます!」
「モーリス男爵の息子は『魔導師』か。将来は明るいな」
「うらやましいわ。上級職を授かれるなんて」
こんな感じです。
ちなみに『魔導師』は魔法使い系の上級職だったはず。
僕としては錬金術師系の職業が望ましいのですが。
「……そなたは『槍術士』だ。精進しなさい」
「ありがとうございます」
ちなみに、この【神霊神殿】で『交霊の儀式』を受けているのは貴族の子供ばかりです。
庶民の子供は近くの教会などで受けるのが慣わしとなっています。
「……そなたは『重戦士』だ。精進しなさい」
「……ありがとうございます」
この『交霊の儀式』は各地にいる『星霊神官』のもっとも大切な仕事とされています。
5歳の子供が受ける『交霊の儀式』、10歳の子供が受ける『星霊の儀式』は、すべての子供に授けなければいけません。
もし『星霊神官』が儀式を行うことを拒んだ場合、その神官はすべての力を失うと言い伝えられています。
これは実際に起こることらしく、拒んだ神官は星霊様によって天罰が下るそうですね。
「これより子爵家の儀式を行う」
また、このように公開の場で『交霊の儀式』を行うのは貴族の子供だけです。
庶民の子供たちは、ひとりひとり別室で秘密裏に教えられるそうですね。
「シェヴァリエ子爵家、アリア = シェヴァリエ。前へ」
「はい」
今度は先ほどの女の子、アリアが儀式を受けるようです。
いい職業を授かるとよいのですが……。
「アリア = シェヴァリエ、そなたは『魔法使い』だ。精進しなさい」
「……はい」
アリアの職業は初級職だったようです。
ですが、貴族であっても初級職と判定される子供の割合は、3割以上とお父様から聞いています。
10歳に受ける『星霊の儀式』までは仮の職業ですし、そこまで落胆せずともよいと思うのですが。
「イーコム子爵家……」
神官様が次の子供を呼ぼうとしたとき、鈍い音となにかが叩きつけられる音が響きました。
「なんの騒ぎです!」
神官様が鋭い声で物音がしたほうを向きます。
するとそこには、柱に寄りかかるようにして倒れているアリアの姿がありました。
「シェヴァリエ子爵! なんの騒ぎですか!」
「いえ、すみません神官殿。この恥知らずが初級職などという下等な職業に就いたものですからつい」
「シェヴァリエ子爵、職業は星霊様より授けられるもの。あなたはそれを否定するのか?」
「いえいえ、そのようなつもりは」
「……あなたに話すのは無駄なようだ。その娘を置いて出ておいきなさい。これは星霊神官としての命令です」
「……ふん、神官ごときが偉そうに。行くぞヴィヴィアン」
「ええ、こんな愚図がいなくなってせいせいしますわ」
シェヴァリエ子爵たちはその場を去って行きました。
自分の娘に対してなんという仕打ちをするのでしょうか!
「……まずい、頭を強く打ち付けている。どなたか、回復術師はおりませんか!? 急ぎ手当をしなければ!」
「ジュエル」
「わかっております」
すぐさまお母様が名乗りを上げてアリアに上級回復魔法を施しました。
それによってアリアの顔色は幾分かよくなった気がします。
「ジュエル辺境伯婦人、申し訳ないがこの子供をお願いできないでしょうか? 私どもは掟に従い『交霊の儀式』を続けなければなりません」
「構いませんわ。……この場で介抱するのは難しいので屋敷に連れて行ってもよろしくて?」
「問題ないでしょう。あのような野蛮な行為は星霊様もお許しになるはずがありません。今回の件、私どもの方から王宮に報告いたします」
「ありがとうございます。あなた、申し訳ありませんが……」
「うむ、急ぎ戻りなさい。あとのことは私に任せよ」
「よろしくお願いします。スヴェイン、どんな職業であっても心を落ち着かせてね」
「はい。お母様もアリアのことをよろしくお願いします」
「ええ。任せなさい」
お母様も足早に立ち去ると、神殿の中がざわめきます。
多くはシェヴァリエ子爵の蛮行を咎める内容ですね。
「静粛に! 不届き者により妨害はあったが『交霊の儀式』を続ける。イーコム子爵家、ダラス = イーコム、前へ」
「は、はい!」
あんなことがあったあとです。
緊張するもの無理はないでしょう。
しかし神官様はその後も淡々と役割をこなしていき、いよいよ僕の番となりました。
「シュミット辺境伯家、スヴェイン = シュミット、前へ」
「はい」
僕は神官様の前へ立ち、儀式の始まりを待ちます。
「シュミット辺境伯には助けられました。あなたによい職業が与えられることを祈ります」
「神官様?」
「なんでもありませんよ。スヴェイン = シュミット、そなたは……?」
「神官様、どうしましたか?」
「……星霊様。今回ばかりは敬虔な使徒としてもお恨み申しますぞ」
「神官様?」
「スヴェイン = シュミット、そなたは『ノービス』だ。……気を落とさずに励みなさい」
「『ノービス』ですか?」
「ああ、知らないか。ノービスとは〝なにものでもない〟とされる職業だ。特に苦手な分野があるわけではないが、秀でた分野もない。君には酷だが……」
「いえ、大丈夫です。お気遣い、ありがとうございます」
「そうか。……すまないな」
ノービス、初めて聞く職業ですね。
お父様やお母様が落胆されないといいのですが……。
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