2.シェヴァリエ子爵家の面々
「お久しぶりですわ、スヴェイン様」
あれから1カ月が経ち、僕は『交霊の儀式』に臨むことになります。
そのため、僕は王都にある【神霊神殿】へとやってきました。
ですがその場に、やはりというべきか婚約者のヴィヴィアンも現れました。
「お久しぶりです、ヴィヴィアン様。今日はどうしてこちらに?」
「いずれ夫となるものの晴れ舞台ですもの見学に来ないわけにはまいりませんわ。それに私の妹も『交霊の儀式』の歳ですしね」
「そうなのですね。それで、妹さんはどちらに?」
「あんな妹にあいさつする必要はありませんわ。さあ、参りましょう」
「え、ですが……」
「いいのですわ。行きますわよ」
「……はい」
相変わらずヴィヴィアンは僕の意見など聞いてくれません。
昔から彼女はこうですからね。
「おお、ヴィヴィアンよ。きたか」
「はい、お父様。ほら、スヴェインもあいさつなさい」
「お久しぶりで……」
「スヴェイン、ここにいたか」
「お父様」
「ちっ」
「……シェヴァリエ子爵か息子となにを話している?」
「たいしたことではありませんわ。ただ、スヴェイン様にはお父様にあいさつしていただこうとしただけですの」
「ヴィヴィアン!」
「ほう。私のところにあいさつにくることもなく、息子にはあいさつを強要するか。偉くなったものだな、子爵」
「そんなことは……」
「こちらにきなさい、スヴェイン。リリスが探していた」
「リリスが? それは申し訳ないことをしました」
「ふん、メイド風情が偉そうに」
「……ふぅ。行くぞ、スヴェイン。子爵、では失礼する」
「失礼いたします」
「ちょっと、お待ちなさいな!」
「ヴィヴィアン!」
やっぱり彼女は好きになれそうにありません。
どうしたものでしょうか。
「やれやれ、シェヴァリエ子爵にも困ったものだ。娘をあれだけわがまま放題に育てるとは」
「お父様……」
「この婚約も考え直した方がよいかもしれんな。そもそも我が家に今のシェヴァリエ子爵家とつながる利は薄い」
「今の?」
「スヴェインには難しい話になるかもしれんが、先代シェヴァリエ子爵は人徳にもあふれた優秀な方だったのだ。領地も潤っていたし、民も明るかった。だが現シェヴァリエ子爵……ダンカン子爵になってからはまるでだめだな。領地の活気も失われて久しい。お父上が結んだ縁と我慢していたが、限界かも知れぬ」
「お父様はそれでよろしいのですか?」
「お前はヴィヴィアンと一緒にいたいのか?」
「それは……」
「貴族としても親としても、この縁談はなかったことにするべきだな。帰ったら調整しよう」
「申し訳ありません。僕のわがままで」
「あんなわがままな娘を我が家に迎え入れる方が問題だ。今回はいい機会だったようだな」
どうやらお父様の決心は固いようですね。
正直、僕も助かります。
お父様と一緒に僕たちの控え室へ戻る途中、神殿の隅で所在なげにしている女の子がいました。
プラチナブロンドの髪を指先でいじりながら、ひとりだけでぽつんと佇んでいる様はとても寂しげに見えます。
多分、僕と同じように『交霊の儀式』を受けに来たと思うのですが、親はどこにいるのでしょう?
「……スヴェイン、あの娘が気になるのか?」
「ええと」
「気になるなら声をかけてきてあげなさい。困っているものには優しくするのもまた務めだ」
「はい。少し行ってきます」
僕はお父様から離れて、女の子のところに向かいます。
女の子は僕の姿を見ると、少し怯えたように体を縮こめてしまいました。
「大丈夫ですよ。特になにかしようというわけではありませんから」
「は、はい。申し訳ありません」
「あの、失礼ですがお父様かお母様はどちらに?」
「お母様は去年亡くなりました。お父様は……私には興味がありませんから」
「それは失礼しました。……大丈夫ですか?」
「はい。慣れていますので。その、あなたのお名前は?」
「僕ですか? 僕はスヴェインと申します」
「スヴェイン……ヴィヴィアンお姉様の婚約者様ですか!? 大変失礼なことを……」
「ヴィヴィアンを知っているのか」
「あ、は、はい。あなた様は……シュミット辺境伯様ですか?」
「いかにも。ヴィヴィアンを姉と呼ぶということは、あれの妹か」
「申し遅れました。アリアと申します」
「アリアさん、ですね」
「アリアで構いません。私など……」
アリアはまたうつむいてしまいました。
それにしても、アリアの着ている服は貴族家の令嬢とは思えないほど質素なものです。
どういうことでしょう?
「ヴィヴィアンにはたいそう金をかけているようだが、その妹にはずいぶん質素な服を着せているものだな」
「そんなことは……私などお屋敷においていただけるだけでも光栄ですから」
「それはどういう……」
「アリア! こんなところにいたの!」
「ヴィヴィアン様……」
「あら、スヴェイン様。ごきげんよう。アリア、さっさといらっしゃい」
「スヴェイン様、シュミット辺境伯様、申し訳ありません。これで失礼いたします」
「あ……」
アリアはヴィヴィアンとともに去っていきました。
あちらの方には確か、下級貴族の控え室がありましたね。
「気になるのか、スヴェイン?」
「……はい。身勝手なことだとは思いますが」
「確かに、尋常ではなさそうだ。シェヴァリエ子爵め、自分の娘すら大事にできないとは」
「大丈夫でしょうか?」
「すまないが今は様子を見ることしかできん。なにかあったら力添えはできるだろう」
「お願いいたします、お父様」
「うむ。……さあ、私たちも控え室に戻ろうか」
アリア、ですか。
もう少し話をしてみたかったです。
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