【書籍版発売中】聖獣とともに歩む隠者 ~錬金術で始める生産者ライフ~(Web版)

あきさけ

第一部 辺境伯家の錬金術師

少年・少女・聖獣の出会い

1.変わり者の辺境伯家嫡子

「スヴェイン様、また錬金術ですか?」


「はい。楽しいですよ?」


「錬金術ばかりに精を出す貴族なんて珍しいですよ? それも、辺境伯家の嫡子ですのに」


「問題ありませんよ。剣もきちんと鍛えています。できる範囲でやっていますからね」


「そうですか……リリスはお止めしませんよ」


「ありがとうリリス」


 僕はスヴェイン。


 グッドリッジ王国にあるシュミット辺境伯家の長男です。


 ただ、もっぱら僕の興味は錬金術を研究すること。


 貴族家の嫡子……跡取りとしてはおかしな話でしょう。


 僕の家には亡くなったおばあさまの錬金道具が揃っています。


 おばあさまがまだ健在だったころ、その手でさまざまな薬を作っている姿を見ていました。


 それによって多くの領民が助かっていたことも。


 ですが、そんなおばあさまも去年、流行病にかかり亡くなってしまわれました。


 僕はそんなおばあさまの代わりになれるよう、残してくれた書物やメモ、道具を使って今年から錬金術の勉強中です。


 いまはまだ錬金術の初歩中の初歩、魔力水を作成するところですが成功率は着実に上がってきていますよ。


「スヴェイン様。昼食の時間となりました」


「ありがとう、リリス。それでは午前はこれで終了ですね」


「午後もするのですか!?」


「もちろん、剣の稽古を行ってからですよ?」


「いえ、そうではなく……」


「魔法はまだ教えてもらえませんし、剣だけでも覚えないといけませんからね。やるべきことはやります」


「普通のお勉強も人一倍こなしておりますし、問題はありませんが外聞があまりよろしくないかと」


「そうですか? おばあさまは立派な錬金術師でしたよ」


「確かにそうですが……やはり、辺境伯家嫡子に求められるのは武力だと思います」


「そちらにはあまり自信がありませんね。もちろん鍛えますが、そこまで強くなれる気がしないんです」


「そんなことを言ってはいけませんよ」


「それもそうですね。ありがとうございます、リリス」


「そんな、たいしたことでは……」


「いろいろ頑張らないとですね」


 食堂に着いたあとは自分の席に座ります。


 やがて家族全員が食堂に揃いました。


「よし、全員揃ったな」


 声をかけるのアンドレイ父様。


 シュミット辺境伯家当主です。


 父様は若くして辺境伯家をお継ぎになり、【剣聖】というすごい職業にも就いています。


「スヴェインは義母様のアトリエで錬金術の研究ですか?」


 ジュエル母様はおばあさまの薬に何度も助けられていたそうです。


 なので、僕があのアトリエを使うことも許してくださいました。


「兄上はいつも錬金術ばかりだよな。もう少し剣も頑張ろうぜ」


 1歳年下の弟、ディーン。


 剣の稽古に僕を誘っているようにみえますが、実際にいくと『錬金術の勉強はいいのかよ!』と追い返されます。


 弟が剣の稽古に誘うのは僕に構ってほしいことの表れみたいですね。


「おにーちゃん、わたしもれんきんじゅつするー」


 かわいいことをいうのは2歳年下の妹、シャルロット。


 今はなんでもまねたがる年頃のようで、誰かのあとをついて回ってはそのまねごとをしているようです。


「シャル、錬金術はいろいろ危険なんだ。もう少し大人になってからね」


「うん、わかった!」


「よし、シャルの話も終わったし食事にするとしよう」


 家族全員で食事を終えたあと、食後のお茶の時間にお父様が来月の予定を話し始めました。


「スヴェイン、来月のことは覚えているな?」


「はい。『交霊の儀式』ですよね?」


「そうだ。『交霊の儀式』は将来の職業を占う一種の目安だ。なにがでるかはわからないが、どんな職業であっても私が責めることはない」


「ですが、初級職などでは父上の恥になってしまうのでは……?」


「なに、気にするな。私も『交霊の儀式』で与えられた職業は【剣士】だったのだからな」


「え! いまは超級職の【剣聖】なのに?」


「うむ、どうやら5歳の『交霊の儀式』から10歳の『星霊の儀式』の間、どれだけの実績を残せるかで職業が変わるらしい。……王都の頭の固い連中は信じないがな」


「そうなんですか? にわかには信じられないのですが……」


「私がそうだったのだ。実際そうなのだとしか言えまい?」


「そうですね。失礼いたしました」


「気にするな。努力家のお前だ、下級職であっても最上級職に上り詰めることは可能だろう。私の子供の頃よりも努力しているからな」


「努力の方向性が錬金術ばかりに向いているのが問題ですがね……」


「問題ない。実際に戦となれば武力に優れた人材も必要だ。だが、回復薬や食料なども相当数必要になる。お前はお前の道を行くがよい」


「申し訳ありません。では、できれば【錬金術師】の職業が望ましいです」


「であろうな。だが剣士系の職業になった場合、しっかりと剣を叩き込むからその覚悟でな」


「はい!」


「そうそう、当日はシェヴァリエ子爵家も来るそうだ。もちろんヴィヴィアンも連れてな」


「そう、ですか」


「やはりヴィヴィアンは苦手か」


「はい。彼女はどうにも……」


「だが、貴族同士の婚姻だ。苦手だとしても乗り越えねばならぬときもある。覚悟しておけ」


「……わかりました」


「あなたが言うと説得力が皆無ですわよ? 平民の冒険者だった私を口説いて方々に手を回し、結婚したのは誰かしら?」


「う、うむ。その……スヴェインもどうしてもだめなら相談せよ。先方と話して婚約解消の手続きをしよう」


「は、はぁ……」


「では、ディーン! 午後の稽古に向かうぞ!」


「あ、待ってください、父上!」


「まって~」


 父上たちは行ってしまいました。


 婚約解消なんて簡単にできるのでしょうか?


「スヴェイン、あなたのことです。また難しく考えているのでしょう?」


「お母様……」


「私たちはあなたの幸せを一番に考えています。ですから、多少のわがままは許されますよ」


「ありがとうございます。……それでは僕は錬金術の勉強に戻ります」


「ええ、無理な実験をして倒れたりしないようにね」


「……初めてのときのことは忘れてください」


 初めて魔力水を作ったとき、僕は面白くていつまでも魔力水を生成し続けました。


 その結果、魔力切れで倒れてしまったのですが……。


「倒れないようにリリスもつけているのです。無理をしない範囲で頑張りなさい」


「はい。では、失礼いたします」


 僕は食堂を出てアトリエへ向かいます。


 まずは、魔力水を確実に作れるようにならないと。


「……ふぅ。私の子供たちはみんな頑張り屋さんでいい子たちだわ。その分、目を光らせないと無理をしちゃうんだけど」


「奥様はそれを見越して専属メイドたちを配置したのでしょう?」


「そうね。……お茶、もう一杯だけいただける?」


「かしこまりました」


********************


お読みいただきありがとうございます。


本日は全7話、約2万文字の投稿になります。

朝7時頃、8時頃、昼12時頃、13時頃、夜18時頃、19時頃、20時頃の予定です。


結構長いですがお付き合いくださいませ。

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