18.魔法を学ぼう
「それでは今日から魔法の実習を始めたいと思いますわ」
ついにチクサさんによる魔法授業が始まりました。
「あの、チクサ様。最初は講義でなくても大丈夫なのでしょうか?」
「理論ももちろん大事です。ですが、まず最初に魔法とはどのようなものか体験してみましょう」
「わかりました。よろしくお願いいたします」
「はい。まずは……そうですわね。魔力操作がどこまでできるようになっているのか見せていただけますか?」
「わかりました。頑張りましょう、アリア」
「は、はい」
「魔力操作は、自分の体の周囲を包み込むように魔力を巡らしてくださいまし……そうですわ。ふたりともきちんと形になっています」
どうやら僕もアリアも合格点をいただけたようです。
これは嬉しいですね。
「本当ですか? 私、スヴェイン様ほどうまくないから……」
「アリア様もできていましたよ。ただ、話しかけられるとゆがんでしまいましたわ。要練習ですわね」
「はい! ご指導よろしくお願いいたします!」
「スヴェイン様は……錬金術の練習でも使っていただけあって完璧ですわね」
「そうですか? まだまだ上がありそうな気がしますが……」
「おそらく、それ以上スキルレベルは伸びませんわ。あとは実践あるのみです」
「わかりました。次はどうすればいいのでしょうか?」
「次は……私が実際に魔法を使うところをお見せいたします。まずはそのあとに説明いたしますわ」
「わかりました! 期待しています!」
「アリア、もう少し落ち着こう」
「ですが、私は『魔法使い』です。ここで頑張らないといけないんです!」
そんなアリアにチクサさんは苦笑いを浮かべます。
「そんなに慌てなくとも大丈夫ですわ。アリア様は、同年代の貴族のお子様に比べて2年程度先を歩まれていますもの。焦らず、ゆっくりと、着実に進みましょう?」
「……すみません。焦っていたみたいです」
「反省できたのでしたら十分ですわ。さて、それでは的を用意して……」
『的なら僕たちで用意するよ』
『ふたりの魔法というのも興味があるわ』
「ウィング、ユニ」
「助かりますが……よろしいので?」
『畑の方はクオが採取中だから問題ないよ。この半年間でレポートもまとまったみたいだしね』
『私が土魔法で的を用意するから、それを攻撃してみなさい。あなたの力も測ってあげる』
「それは嬉しいですわね。よろしくお願いいたしますわ」
チクサさんと聖獣たちの間で話はトントン拍子に進み、修練場の一角に土塊の的ができました。
まずはお手本ということでチクサさんからですね。
「行きますわ。『水の精よ。我が意に従え』アクアランス!」
チクサさんの手から放たれた水の槍は、標的のど真ん中に突き刺さり、その一部を破壊して消えます。
それに驚いた声を上げるのは、的を用意したユニでした。
『あら、驚いたわ。あの的かなり頑丈にしてあったのに。水魔法レベル30くらいあるのかしら?』
「いえ、前に測っていただいたときは24でしたわ」
『そうなの? それにしては威力が高かったけど』
「種はこのあと説明いたしますわ」
チクサさんは僕たちの方に振り向き、いまの魔法を解説してくださいます。
「いまの魔法は水属性の攻撃魔法『アクアランス』ですわ。だいたい……スキルレベル6から7で使えるようになります」
「初心者の場合はどうすればいいのですか?」
「最初に学ぶべきはアクアバレットですわね。水のつぶてを相手にぶつけて攻撃する魔法ですわ」
「それで、最初にアクアランスを見せてくださった理由はなんでしょう?」
「それに気がつくとは流石スヴェイン様ですわね。私が使ったアクアランスにはいくつか改良を施してあります」
「……改良、ですか?」
「はい、アリア様。まず、アクアランスは単なる水の槍を飛ばす魔法。先ほどのような回転する槍を飛ばす魔法ではありません」
そういえば、チクサさんのアクアランスは回転していましたね。
それが威力とどう関係があるのでしょうか?
「魔法によるのですが、適切な『変質』を行うことで威力を上げられることは長年の研究で実証済みですわ」
「『変質』……?」
「私のアクアランスの『回転』のように魔法に特性を持たせることですわ。初級魔法のバレット系魔法であれば、変質内容は『硬化』と『鋭化』ですわね」
「それぞれどういった内容でしょう?」
「『硬化』はバレット自体の密度を高めて頑丈にすることですわ。『鋭化』は先端をとがらせて相手に突き刺さるようにすることです」
「……話を聞くだけですと難しそうです」
「そんなことはありませんわ。おふたりほど魔力操作ができていれば、少なくともどちらか一方はすぐにでも扱えるようになりますわよ」
「そうなんですね……頑張ります!」
アリアはやる気に満ちあふれています。
チクサさんは、やる気を引き出すのがお上手なようですね。
「はい。それではまず水魔法を使う準備から始めましょう。水魔法を使うには、その名の通り水の魔力が必要となりますわ」
「それはわかります。どのようにすればいいのですか?」
「本来なら力尽くで魔力を集める方法をお教えするのですが……魔力操作をあのレベルでできるのですから、今日は魔力操作を使った魔力の変質方法をお教えしますわ」
「魔力操作を使った、変質方法ですの?」
「はい。まずは魔力操作で両手の手のひらの中に魔力の塊を作ってくださいませ」
「ええと、こうでしょうか?」
「こう、ですわね」
僕もアリアもうまくいったみたいです。
薄ぼんやりとした魔力の玉が完成しています。
「おふたりともお上手ですわ。あとはその魔力に属性を付与するだけですわ。水属性を付与するキーワードは『水の精よ。我が意に従え』です」
「はい! 『水の精よ。我が意に従え』」
キーワードを言うと、アリアの魔力が水色に染まっていきました。
これが属性の付与なんですね。
「うん、初めてでできるとは本当に筋がいいですわ!」
「ありがとうございます!」
「スヴェイン様もどうぞお試しくださいませ」
「はい。『水の精よ。我が意に従え』」
僕もキーワードを唱えましたが魔力は色を変えてくれませんでした。
……それよりもキーワードを唱えたとき、微弱な抵抗を覚えたのはなぜでしょう?
「やはり、スヴェイン様でも初回では難しいようですわね」
「うーん、少し試してみたいことがあるのですがよろしいですか?」
「ええ、暴発しそうになったら押さえ込みますわ」
『そのときは私たち聖獣の出番よ?』
『そうだね』
「さすがに暴発はしないと思いますが……いきます。『水の精よ。我が願いを聞きとどけよ』」
「え? キーワードを変えた?」
『さすが僕たちのマスター!』
『違和感に気がついていたのね』
チクサさんやウィングとユニが何か言っています。
ですが、僕はそれどころではありません。
集めていた魔力に外部からなにか干渉を受けていて、球体を保つので精一杯だからです。
干渉は数秒で収まりましたが、それなりに疲れてしまいました。
そして手元にある魔力の玉を見ると……。
「え? 深い青色?」
「なんですの? これは?」
『さっすがスヴェイン。一回で精霊たちのいたずらに耐えるなんて!』
『そうね。でも、これであなたの実力は精霊たちも認めるはずよ』
「あ、あの、聖獣様! 精霊のいたずらとは一体? そしてこの現象は!?」
『この現象は正しいキーワードで、精霊の力を借りた証拠さ。正確には『我に集え』なんだけどね』
『人は段々簡素化を行い、その都度簡易的に魔力を借りる方法を選んだのよ。それがチクサの唱えたキーワードね』
『スヴェインは今後、水の魔法を使うときにキーワードは必要ないよ。心配なら『水よ』とかだけ言えば、勝手に水の精が集まってくれるから』
「……私、魔法学の歴史を塗り替える瞬間に立ち会った気がしますわ」
「あの! 私でもいまのキーワードで変換できますか!?」
『アリアじゃまだ無理かな。もう少し魔力操作を鍛えよう?』
『それに魔力も足りていないわね。寝る前、ベッドに横になってから魔力操作の練習をひたすらしなさい。そうすれば魔力操作も上昇するし魔力量も上がるわよ』
「はい! 頑張ります!」
「……驚いてしまっている間に、アリア様の魔力が霧散してしまいましたね。もう一度やってみましょうか」
「はい、やってみます!」
アリアは二度目の魔力変換も成功、的に向かって拙いながらもアクアバレットを打ち込めました。
僕のほうは、たまっていた魔力でアクアバレットを撃ち出しましたが……少しコントロールに難がありますね。
『水の精霊たちが面白がって大量の魔力を詰めていったからね。魔法が暴れるのは仕方がないよ』
『次からは、自分の手で操りきれる量の魔力を集めるように気をつけなさい』
「ありがとう、ウィング、ユニ」
「初日から基礎魔法のバレット系を使えるなんて……この子たち天才かしら」
「天才なんて……ただ、努力をしているだけですよ」
「はい。ふたりで夜遅くまで魔術書を読み込んで知識をつけているだけです」
「……なるほど、努力は惜しまないのですわね。では私もビシビシいきますわよ」
「はい! お願いいたします!」
「よろしくお願いいたします」
こうして始まって魔法修行。
基本五属性……火・水・風・土・雷に闇魔法が使えるチクサさんをメインに、ときどき光・聖・回復魔法が使えるムノンさんがサポートしてくれる形となります。
修行を始めて4カ月過ぎる頃には僕もアリアも全属性の魔法を覚えることができて、先生役のおふたりを驚かせてしまいました。
なんでも、全属性魔法を覚えられる人材はかなり珍しいんだとか。
特に『魔法使い』系統で回復魔法を覚えるのはかなり大変らしいです。
夜中に頑張って魔術書を読み込んでいた甲斐がありましたね、アリア。
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