398.薬草栽培本格始動
新たな参加者たち、『三人目』を迎えたギルド評議会の翌週。
僕たち錬金術師ギルド一行は薬草栽培用の農地に来ていました。
参加者は監督役の僕とニーベちゃん、エリナちゃん、それからウエルナさん。
それから実地見学としてサブマスターのミライさんとサブマスター候補筆頭のアシャリさん。
実際の指導はもう長い間こっそりと薬草栽培を続けていた第二位錬金術師たち。
指導を受ける側はギルド本部の第一位錬金術師、それからギルド支部でウエルナさんたちが行った昇級試験に合格し熱意も認められて『第一位』のローブを与えられた錬金術師たち。
以上。
「……スヴェイン様、ニーベさん、エリナさん。なにを落ち込んでるんです?」
「先生の話と違うのです」
「もっと広い農地だと聞いていました」
「申し訳ありません。ここしか許可をもらえなかったんです」
「いや、この人数ならここでも十分過ぎる広さですよ?」
「違うのです。先生からは第二街壁と第三街壁の間と聞いていたのです」
「でも、ここって第一街壁内の休耕地ですよね?」
「本当に申し訳ありません。先週のギルド評議会で大敗しました。錬金術師ギルド……いえ、ミライさんすら裏切ったので錬金術師ギルドマスター以外全員の反対多数で場所を変えられました」
本当に酷い完敗でした。
理路整然とダメ出しをされてしまったので反論できません。
究極のダメ出しは『そもそも第二街壁と第三街壁の間で栽培訓練をする必要はないんじゃねえか?』という冒険者ギルドマスターの言葉です。
結局、僕の案は通らず第一街壁内の目立たない場所にある休耕地を貸し与え……いえ、錬金術師ギルドに無償譲渡されることで幕引きに。
本当ならもっと大人数で始めたかったのですが。
「裏切った、とは人聞きが悪いです、スヴェイン様。現実的な第一段階で第二街壁と第三街壁の間にある農地は必要ありません」
「ミライさん、酷いのです」
「ボクたちも一角を間借りして堂々と上薬草や上魔草などを育てるつもりだったのに」
「『カーバンクル』様方、悪いところが本当にスヴェイン様に似てきました。自制を忘れないでください」
「私たちも背中を見せつけたかったのです」
「将来的には中級薬草の最高品質だって山のように採取できるようになることを示したかったのに……」
「本当にやりすぎという言葉を覚えてください。というかおふたりは自分たちの薬草畑も持っていますよね? どうやって管理するつもりだったんですか?」
「薬草畑はニャルジャたちに少しの間任せるつもりだったのです」
「そのあとは妖精や精霊、聖獣たちが勝手に育てるだろうって先生が」
「スヴェインギルドマスター。子供たちまで悪魔の言葉でそそのかさないように」
「事実です。物作り系の関係者は対価があれば喜々として物作りをします。ニャルジャとクーザーが畑で収穫される薬草類やふたりの作るポーションで管理人をしているのは知っているでしょう? あれと一緒ですよ」
「最初から人外をあてにしないでください、ギルドマスター」
今日のサブマスター、強い。
アシャリさんはどちらにつくべきかわからずオロオロしていますし……どうしましょう?
「あー、スヴェイン様。とりあえず始めさせませんか? そろそろ始めさせねえと今日の終わりは日が落ちたあとになってしまいますよ?」
「そうですね、ウエルナさん。まずは始めさせましょう。ニーベちゃんもエリナちゃんもいいですか?」
「気を取り直すのです」
「背中を見せつけるのはまたいずれ」
「そちらの背中は見せつけなくてもいいんじゃないですかね?」
ウエルナさんが言った一言で弟子たちがまた落ち込みました。
とにかくもう一度気を取り直してもらい実習開始です。
「はい。ギルドマスターのスヴェインです。今日から皆さんには薬草を栽培していただきます。今日必要な道具はこちらで用意しました。明日以降に使う分は今日採取するか自分たちで自作するかをしてください。まずはお手本です。ニーベ、エリナ、お願いします」
「はいです」
「わかりました」
彼女たちは普段よりも勢いなく畑の一角へと向かい、地面に手をつけて『クリエイトアース』を発動させました。
そして一気に土を耕し、人工の魔力溜まりを発生させ、畑の中にあった大粒の石をはじき飛ばし、畝まで作りあげます。
うん、やり過ぎですね。
「ふたりとも、これではお手本になりません」
「鬱憤晴らしなのです」
「少しくらい自由にやらせてください」
どうしよう、僕のせいでふたりがまた反抗期に……。
「ニーベちゃん? エリナちゃん?」
「わかっているのです」
「悪ふざけが過ぎました。次は真面目にやります」
……よかった、ただのおふざけで。
これでまた反抗期が始まればアリアからどんなお仕置きをされるかわかったものではありません。
ふたりは耕した畑の一角をまた『クリエイトアース』で……今度は荒野並みに荒し、一から説明を始めました。
やっぱり自制を捨て始めていませんか?
ふたりによる一連の手順説明が終わったら今度こそ第二位錬金術師の指導の下、第一位錬金術師たちが畑作りを始めます。
本来、僕とニーベちゃん、エリナちゃん、ウエルナさんの四人は不測の事態があったときに備えた待機要員なのですが、第一位錬金術師の手際の悪さを見かねた弟子たちは我慢できなくなったようで指導……というかかなりきつめの指導にはいりました。
「スヴェイン様。第二位錬金術師の連中、なんだか懐かしそうな顔をしてるんですが」
「ニーベちゃんとエリナちゃんが第二位錬金術師に畑作りを指導したときもあんな感じでした」
「……子供に檄を飛ばされる畑仕事か。技術の上下が絶対とはわかっていても、あいつらきついだろうな」
「……止めるべきでしょうか?」
「止まりますか? ニーベさんとエリナさん」
「手強そうです」
「じゃあそのままでいいんじゃないですか? 実際、第二位錬金術師だけじゃ指導の手は足りていなかったわけですから」
いいのでしょうか?
本部の第一位錬金術師は慣れているでしょうが、支部の第一位錬金術師は厳しいような。
弟子ふたりの厳しい指導の甲斐もあってか、予定していた広さの土壌整備はなんとか午前中で終了。
いや彼女たちからすると満足のいくものではなかったようで、『クリエイトアース』を広範囲に使って畑の中から石ころを吐き出させていますが。
あなたたち、本当に自制を捨て始めていますね。
携帯食料で昼食を済ませたあと、午後は弟子ふたりが畑の中から更に取り出した石の廃棄から開始。
そのあとは畑の一角に畝を作らせ……って!?
「ニーベちゃん、体罰はやめなさい。というか蹴るのはやめましょう」
「物覚えが悪いときはお尻を蹴飛ばせとユイさんが言っていました」
「わかりました。とりあえず師匠命令です、体罰はやめましょう。ユイには帰ったらお仕置きをしておきますから」
「はいです。あ、そこ! また魔法の使い方を間違っているのです!」
ユイ、僕の弟子に、いえ、子供になにを教えているんですか?
今日の添い寝はユイの日でしたね。
彼女にはたっぷり愛情のこもった罰を与えましょう。
ともかく畝が……まあ、ある程度完成したら僕の手品で薬草収穫体験です。
ここでも第二位錬金術師や弟子たちから厳しい指導が入り、まかり間違ってうっかり薬草の茎にナイフで傷を入れようものならエリナちゃんまで蹴ろうとする始末。
事前に止めましたが本当にユイにはお仕置きです。
泣いて謝っても許しません。
いろいろハプニングは……ありすぎましたが薬草採取は無事終了しました。
そのあとは最終段階まで一気に育て上げ種を採取させます。
さすがにこの段階では指導が入らなかったのですが……薬草の種をこぼしたときに動き出そうとしたふたりのローブをつかんで止めていたのは秘密にしましょう。
最後はふたりが念入りに、本当に念入りに土壌整備をして作業完了です。
そこまで念入りにしなくても薬草は自生してきませんよ……。
「皆さん、お疲れ様でした。明日以降は今日の手順を踏まえて当番を決め、始業前に畑仕事を行うようにしてください。無理をして作付面積を増やしすぎ、薬草を枯らせないよう注意すること。薬草の種は無くなったら……弟子が怖いのであまり補充してあげられません。くれぐれも計画的に使ってください」
いつの間に師匠より怖い弟子になってしまったのでしょう。
とりあえず、子供に悪い指導方法を教えたユイにはたっぷり恥と痛みを思い知っていただきます。
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「どうしたのです、ユイ。朝から半泣きで」
「珍しいですね。昨日はあなたがスヴェイン様と一緒だったのでは?」
「……そのスヴェインにたっぷり罰を与えられました。全裸にされて身体強化をかけながらお尻を百叩き。叩いた瞬間に回復魔法も施されるので痛みは一瞬ですが、すごく痛くて一回目から百回目までずっとボロボロ泣いていました。百回口で数えさせられたので歯を食いしばることも許されません。その上、叩き終わったあとに『ライト』の魔法でお尻を明るく照らされて怪我が残っていないかじっくりのぞき込まれました。乙女の恥ずかしいところどころかお尻の穴まで丸見えです。更に今日から一週間全裸で添い寝することも命令されました。恥ずかしくて死にそうです」
「なにをしたんですか?」
「……ニーベちゃんとエリナちゃんに余計な指導方法を教えるなと」
「余計な指導方法?」
「……出来が悪かったらお尻を蹴飛ばせと」
「ユイ、あなたは床に座って反省です」
「朝食も抜きです。反省なさい」
「ふえーん! ごめんなさーい!!」
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