195.ポーションの買い取り日に

「……はい。今週もカーバンクルとユニコーン、ペガサス。確かにお預かりいたしました」


 今日は週に一度のポーション買い取り日。


 いつものようにミストさんがやってきてポーションを買い取ってくれます。


「それにしても素晴らしいですわね。まさか十二歳で『高品質ミドルポーション』を成功させるだなんて」


「やった! ミストさんに褒められたのです!」


「ようやくだものね! お待たせしました、ミストさん!」


 最近の買い取り日には弟子たちも参加するようにしました。


 僕とアリアが不在だったときはコウさんがポーションの受け渡しをしてくれていたそうなのです。


 でも、ミドルポーションの高品質化までできるようになった以上は自分たちで自分たちの商品を販売できるようにならねばと考え、まずは練習として立ち会わせるようにしたのですよね。


 そして、ミストさんに褒められてふたりはものすごく上機嫌ですよ。


「……ニーベ様、エリナ様。お忘れのようですが、この国ではミドルポーションを作れる錬金術師など最高位錬金術師くらいなのですわよ?」


「それはもう古い話です!」


「そうですよ! 先生がギルドマスターを務めている以上、いずれはミドルポーションくらい一般流通し始めます!」


「どうしましょう。否定できません」


 ミストさんもふたりの勢いにタジタジですね。


 僕としてもこの街の錬金術師で熟達したものにはミドルポーションくらい安定してもらわねば、と考えているのであながち間違いではありません。


 このふたりの勢いに任せておいてもいいのですが、少し気になっていることがあるので尋ねておきましょう。


「ミストさん。今、ユニコーンとペガサスの値段はどうしていますか?」


「どう、とおっしゃいますと?」


「失礼。、と言うことです」


 ずっと気になっていたんですよ。


 最近は個人のアトリエでもポーションが買えるようになっています。


 なのに、ユニコーンとペガサスが高いというのはいかがなものかと。


「ああ、それでしたら。


「そうなのです? 今では普通のポーションでも先生のポーションとあまり変わらないはずですよ?」


「そうですよね? それを言えば、ボクたちのポーションだって錬金術師ギルドの方々が作るポーションと差別化できていないはずですが」


「申し上げにくい理由なのですが、のですわ」


「「「は?」」」


 三人揃って間の抜けた声を出してしまいました。


 いや、普通は逆ですよね?


「冒険者の皆様から言わせると、ユニコーンやペガサス、カーバンクルは革命の象徴であり自分たちの誇りだと。今ではほかの街からも大量の冒険者がこの街にやってきている始末。そんな連中に安売りはしたくないし、自分たちの誇りを汚したくはないそうですわよ」


「な、なるほどです」


「すみません。ボクにはよくわかりません……」


「僕にはなんとなく理解できました。そうですか、命を預ける薬とはいえポーションひとつのためにそこまで思いを込めますか」


 自分たちがつかみ取った価値、それを冒険者は誇りとするそうです。


 この街の冒険者にとってはカーバンクルやユニコーン、ペガサスがまさにそれなのでしょうね。


「なのでこちらから買わせていただいているポーションの値上げは続行いたします。買い取り金額もこれまで同様に通常品よりも値上げした価格で引き取らせていただきますわ」


「ありがたいのですが……」


「うん。お金が貯まりすぎるのはちょっと……」


「あなたたちも師匠と同じ悩みを抱えるようになりましたか……」


 ニーベちゃんもエリナちゃんも実家にお金を渡したり送ったりしようとしたそうです。


 でも、どちらもお金は受け取ってもらえず『自分たちのために使いなさい』と言われるばかり。


 オシャレやアクセサリーに興味がないふたりにとってお金は貯まり続けるものになってしまいました。


「困りましたわね。こちらとしてもカーバンクルの買い取り価格を下げるわけには参りませんの」


「うーん。でも、お父様たちには自分のお金は自分たちのために使うように言われているのです」


「ボクもです。でも、なにをすればいいのか困ってしまって……」


「おふたりは薬草類を買う必要がありませんからね」


「はいです。魔石しか必要ありません」


「もっと高品質な薬品などを調合するならほかにも必要かも知れませんが……そこまでまだ習っていません」


「贅沢なお悩みですわ。駆け出しの冒険者などは装備を買うのも一苦労なのですが」


「……環境に恵まれすぎてしまったのです」


「……弟子としてはものすごくありがたい話なのですが」


 困りましたね。


 僕もこういうとき……。


 あれ、この子たち、ひょっとして……?


「ニーベちゃん、エリナちゃん。ふたりとも、錬金台の更新はしていますか?」


「錬金台の更新、です?」


「先生に教えていただいたものをそのまま使い続けていますが……それがなにか?」


「スヴェイン様、ひょっとして?」


「……申し訳ありません。設備の増強について教えていませんでした」


「初心者向けの設備でミドルポーションまで作っていたわけですか……この国の錬金術師は立つ瀬が本当になくなってしまいました」


 うん、ふたりの買い物は決まりました。


 いい加減、初心者向けの設備は更新させましょう!

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