1011. リッタール村村長の話

 あいさつをしなければいけない相手にはあいさつを済ませ、そのあとはのんびりと適度に談笑を楽しませていただきました。

 ダンスなどがなかったことが幸いです。

 あったとしても、体調不良を理由に断るつもりだったのですが。


 さて、そんな夜から一夜明け、僕はまたギルドマスターとしての仕事に戻ります。

 最初に手をつけなければいけない仕事は……リッタール村の一件でしょうか。

 パーティ会場にやってきて、会場内には入れなかったようですが、治安を乱そうとしていました。

 到底看過できるものではありません。

 実際、どのような理由で来ていたのかもまったく不明です。


 あのトラージュとかいう男に話を聞いても建設的な話にはならないでしょう。

 ここはあの村の村長だと名乗り出た方に話を聞いてみましょうか。


「この度はトラージュが大変失礼をおかけいたしました。何卒ご容赦を」


 リッタール村の村長、キャロトは僕と会うなり昨日の不始末を詫びてきました。

 でも、聞きたいのはそれじゃないんですよね。


「ひとまず謝罪は受け入れます。ですが、僕がまず知りたいのはあのトラージュという男が、なぜ大使を名乗り『国』の重鎮のふりをしていたかです。あの身なりではパーティに参加する国の重鎮を名乗るには無理があります」


「はい。そのことですか。申し上げにくいのですが、トラージュには目の前の現実というものがまったく見えておりません。確かに、リッタール村はかつてリッタール国の一部だった村ですが、王族や貴族の住んでいた村などではなく、国が滅んでも捨て置かれた寒村でございます」


「……それなのにあの振る舞いを?」


「……正直、あれには私どもも手を焼いているのです。自分はリッタール王族の子孫であると疑わず、尊大な態度で各地を転々とし放蕩の限りを尽くす。村にとっても厄介者です」


 そこまでですか。

 現実が見えていない者という人間はたまに見かけますが、ここまで重症なケースは本当に稀です。

 一体なにがここまで彼を変貌させたのでしょう?


「あれがここまでおかしくなった理由ですか? おそらくは祖父や両親の教育でございます」


「教育?」


「はい。あれの祖父や両親はあれをたいそうかわいがっていました。それで、古いリッタール国のおとぎ話を読み聞かせては、トラージュに『貴族の生まれかもしれないね』などと言い聞かせていたようです。子どものうちは単なる親のでまかせで済んだのでしょうが、トラージュはその嘘を大人になっても信じ続け、ああなりました」


 うーん、なんとも頭が痛い。

 弱りましたね。

 ここで釈放しても、どこかでまた同じことを繰り返すのが見え見えです。

 さて、どうしたものか。

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