525.『ウサギのお姉ちゃん』と『ネコのお姉ちゃん』
聖獣とともに歩む隠者書籍版第2巻の発売を記念して一日二話更新をしばらくの間行います!
これは二話目です。
明日の一話目はいつも通り朝7時10分。
よろしくお願いいたします!
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ギルドマスターの家に来てから三日目、ギルドマスターも『大分顔色がよくなりました』とおっしゃってくれました。
そんなに私は顔色が悪かったのでしょうか。
そして、今日も家族揃っての夕食後、サリナ様は『服飾学の勉強があるから』と部屋に戻り、ほかの皆様だけで相談を始めました。
「さて、明日はボクの講習会なわけですが……どうしましょうか?」
「講習会……街の子供たちに勉強を教えるという、あの講習会ですよね?」
「はい。その講習会です。僕も個人枠として持っているので明日は講習会の開催日なんですが……果たしてヴィルジニーさんをひとりで家に残していいものか」
昨日、街で見かけた子供たちはとても活き活きと輝いていました。
そんな子供たちとふれあえる講習会……。
「あの、ギルドマスター。もしお邪魔でなければその講習会、私も参加しても構いませんか?」
「ヴィルジニーさんが?」
「はい。その……子供たちの活気に触れてみたいんです。ダメでしょうか」
「ふむ。皆の意見は?」
「よろしいのではないかと。家で黙って過ごすよりも気が晴れるでしょう」
「私も賛成。いざというときの守りはついているんでしょう? なら平気だって」
「私も賛成なのです!」
「ボクも賛成です」
「私も賛成ですわ。ただ、ヴィルジニー様も子供にじゃれつかれますわよ?」
「はい。覚悟の上です」
「それで、なにを教えられます?」
「錬金術……はまだ自信がないので、基本的な教養くらいしか」
「それでは私の補佐に入ってくださいな。算数や基本的な文字の読み書きを習いたいという子供はかなりおりますので」
「はい!」
そして、翌日。
講習会場だという建物に案内されて講習会の準備を始めるかと思えば、皆さんなにも準備を始めません。
これは一体?
「ん? ああ、僕たちがなにも準備をしないことですか」
「は、はい。これから子供たち五十人を迎え入れるんですよね?」
「僕たちはその場で子供たちの要望を聞き、それにあわせて準備するんです。なので最初は子供たちの興味が特定のものに向かないようわざとなにも置いておかないのですよ」
「そうなんですね……」
「まあ、その場で用意した方が早いというのもありますが」
ギルドマスターから説明を受けている間にも子供たちが元気よくあいさつをしながら教室へと入ってきました。
皆の顔も活き活きとしていて……私の故郷なんかとは大違い。
「さて、今日初めて参加の子供もいると思いますが、僕の講習会では特になにを教えるかを決めていません。皆さんの好きなことを教えてください。室内で教えられることでしたら可能な範囲で叶えて差し上げますので」
そんなギルドマスターの宣言から始まった講習会。
子供たちは本当に思い思いの要望を挙げて、皆さんが分担しそれぞれの要望を叶えていきます。
ニーベ様は錬金術や宝石の研磨術、エリナ様は……あれはなんだろう、小さな宝石が光ったり暗くなったりしているような?
ユイ様は服飾関係と言うことで毛糸のマフラーを教え、リリス様はお料理とお菓子作り、ギルドマスターは様々な事を並行で教えられています。
そして私は、アリア様と一緒に基礎教養のお勉強を教えていました。
「ネコのお姉ちゃん、ここの解き方がわからない!」
「あ、ええと、そこはね? こういう風に考えればいいんだよ」
「そっか、ありがとう!」
「うん、頑張ってね」
「頑張る!」
「ネコのお姉ちゃん、こっちの文字の書き方、あってるかなあ?」
「ええと……うん、あってるよ。よくできました」
「えへへ。ありがとう!」
「この調子で頑張ってね」
「うん、もっともっと頑張る!」
「無理をしない程度にしなくちゃダメだよ」
「うん!」
私はアリア様の言いつけ通り『わからない子供には解き方のヒントを、できた子供にはとにかく褒めてあげて次を促すことを』実践しているだけです。
それだけなのに皆とても喜んでくれて……『ネコのお姉ちゃん』という呼び方も悪くないかも。
二時間だった講習会の時間もあっという間に過ぎ去り、子供たちも帰って行ってしまいました。
……なんだかちょっと寂しいです。
「……うん? ヴィルジニーさん。もっと子供たちを教えたかったですか?」
「え、あ、はい。その……故郷の街ではこんなに活力のある子供たちなんていませんでしたから」
「ふむ。それならいい場所を紹介しましょう。とりあえずお弁当を早めに食べ終えてください。『ウサギのお姉ちゃん』は準備も忙しいので」
「『ウサギのお姉ちゃん』、ですか?」
「『ウサギのお姉ちゃん』です」
ギルドマスターにしては珍しく急かされてお弁当を食べ終わり、講習会場の別の部屋へ案内されるとそこにいたのはエレオノーラ先輩でした。
エレオノーラ先輩は錬金台を並べ直しているようで……結構大変そう。
「エレオノーラさん。失礼しますよ」
「あれ、ギルドマスター。それにヴィルジニーさんも。どうしたんですか、今日は」
「ヴィルジニーさんを僕の家でかくまっているのは知っていますよね?」
「はい、もちろん」
「ヴィルジニーさんが講習会に参加したいと言い出したので参加させてみたのですが、僕の講習会だけでは満足できなかった様子なのでエレオノーラさんのお手伝いをしていただこうかと」
「いや、お手伝いをって……結構ハードですよ? 私の講習会って」
「その分、やり応えはあるでしょう?」
「いや、まあ……」
「そういうわけですので、ヴィルジニーさん。エレオノーラさんの講習会をお手伝いしてみませんか? 内容は錬金術を子供たちに教えることです。僕お手製の錬金台なのでポーションまでしか作れませんが簡単にできるような設計になっていますよ」
「え、はい。お邪魔でなければ」
「では、錬金術師ギルドのローブを着て参加を。さすがに私服だけでは誰だかわかりませんからね」
「はい、わかりました」
私はギルドマスターの指示通り錬金術師ギルドのローブを、第二位錬金術師のローブを身に纏います。
するとエレオノーラ先輩がやってきてお祝いの言葉をかけてくださいました。
「うわあ! ヴィルジニーさん、第二位錬金術師に上がれたんですね! おめでとうございます! でも、今の時点で第二位錬金術師ってことは相当無理をしているでしょう? これから先は無理をしちゃいけませんよ?」
「ギルドマスターにもいろいろとご迷惑をかけてげんこつを落とされました……」
「さすがに当然です」
そのあとはエレオノーラ先輩と錬金台の設置を行い、子供たちの到着を待つばかり。
やがて、開始時刻が近づいてきて子供たちが集まってくると……ギルドマスターの講習会以上に元気な子供たちがやってきました。
「ウサギのお姉ちゃん、来たよ!」
「順番待ちが長い!」
「もっと早く来たいなー」
「ごめんね、順番待ちだけはどうすることもできないの」
「そっか、じゃあ仕方がないかー。……あれ、そっちのお姉ちゃんは?」
「私の後輩さん! 講習会が始まる前に紹介してあげるから待っててね」
「「「はーい!」」」
子供たちは仲良く元気よくそれぞれの椅子へと座っていきました。
そして、私の紹介も終わると早速とばかりにエレオノーラ先輩は初講習の子供に魔力水の作り方を教え始め、私は教室の中を見て回りながらうまくいっていない子供を手伝うように指示をくださいます。
実際、魔力水の段階でもなかなかうまく行かない子もいて、かなり大変そう。
「僕、大丈夫?」
「あ、お姉ちゃん。平気だよ? 前にも講習会に来たことがあるけれどこんな感じだったからへっちゃら! 講習会が終わるまでに魔力水ができればそれだけで楽しいもん!」
「そ、そうなんだ」
「うん! 僕、『拳術士』なんだけど魔力水が作れるだけで楽しいから!」
「え、『拳術士』!?」
「そうだよ?」
「そ、そうなんだね。大変だろうけど、頑張って」
「うん、頑張る!」
まさか『拳術士』、戦闘系物理職が錬金術で魔力水を作るだなんて……。
この講習会は一体?
そのほかにも魔力水で躓いている子供たちはいたけれど何回かお手本を見せてあげればうまくいくようになりました。
その子たちの職業を聞いてみれば『治癒士』だったり、『宝飾士』だったりで……錬金術師系統ではない子供たちばかり。
途中からエレオノーラさんは傷薬の挑戦まで言い始めて、そういったときに躓く子供たちのことも教えてくださいました。
やはりその子供たちも錬金術師系統の子供たちではなく、でも根気強く教えてあげれば皆傷薬の作製ができる子供たちばかり。
さすがに、戦闘系物理職の子供たちは魔力水作りだけを頑張っている様子だけど、それだって諦めずに頑張っているし、私の中にある常識が音を立てて崩壊していきました。
「それじゃあ、三回目からの子供たちはポーション作りも始めていいよ! 二回目までの子供たちはやっちゃダメだからね!」
子供たちにポーション!?
確かにギルドマスターは『ポーションまでしかできない』とおっしゃっていましたが。
「ネコのお姉ちゃん、ポーションの作り方教えて? 私三回目だからうまくできないの」
「う、うん。わかった。ちなみにあなたの『職業』は?」
「私、『裁縫士』!」
ここでも錬金術師系統以外の子供たちです。
でも、私が作り方を丁寧に教えてあげれば二十分程度で作ることができるようになって、失敗は多いけれどそれでも楽しそうに笑っていました。
そして、いつもの締めであるというエレオノーラ先輩の宝石研磨術、『魔法研磨』の様子を子供たちに見せて講習会は終了、この講習会って一体……。
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