524.ヴィルジニーとお買い物

聖獣とともに歩む隠者書籍版第2巻の発売を記念して一日二話更新をしばらくの間行います!

これは一話目です。

二話目は夜19時ごろ公開予定。

お楽しみに!


――――――――――――――――――――


 とてもおいしくて温かいお昼をいただいたあと……また私はやることがなくなってしまいました。


 ニーベ様やエリナ様が使用しているアトリエにはギルドのアトリエにある本と同じものがあるそうなのですが、さすがにそれをお借りするわけにもいかず、その……やることが本当にありません。


「うん? ヴィルジニーさんはやることがないのですか?」


「はい。その……これから数日はお休みを取るようギルドマスターからも言われているらしく」


「なるほど。そうなるとボクたちが家で個人指導というわけにもいきませんね」


「個人指導だなんて恐れ多い!?」


「そんなに気にしなくてもいいのです。私たちがギルドに行っても最近はギルドマスター用のアトリエでひたすら高品質マジックポーションの作製練習かほかのポーションを作っているだけなのですから」


「そうだね。今日はサンディ先生もこない日だしヴィルジニーさんも連れて街へお買い物に行こうか」


「それがいいのです!」


「ええっ!?」


 ニーベ様とエリナ様と一緒にお買い物!?


 私もそれなりの額を持ち歩いているけど、そこまで高級品は……。


 ニーベ様とエリナ様の服だって一目で高級品とわかる代物ですし。


「アリア先生! ユニを貸してほしいのです!」


「ユニを貸すくらいなら私も一緒に行きますわ。あなた方だけに任せていては、どんな場所に案内するかわかったものではない」


「普通のお買い物なのです」


「はい。いつも通りのお買い物ですよ」


「あなた方の普通は探しでしょう?」


「なんのことですか?」


「そんなことは」


「あなた方も来年は成人なのです。都合が悪くなったら目をそらす癖は抜きなさい」


「……私たち、それ以外のお買い物を知らないのです」


「あとは錬金術道具店に顔を出すくらいですが……それだとヴィルジニーさんのお仕事と変わりません」


「私が言えた柄ではありませんがあなた方も根っからの研究者ですわね」


「失礼ながら、アリア様も人のことは言えないかと」


「……わかっていますわ、リリス」


「そういうわけですので私もご一緒します。ユイ、あなたは?」


「私も行こうかな。ひとりでお留守番も退屈だし」


「では全員で。このメンバーです。聖獣はなしでも大丈夫でしょう」


「じゃあ、私が可愛い子を連れ歩くのです!」


「ボクも何匹か可愛い子を出しておきますね」


「その程度なら。では、ヴィルジニー様、参りましょう」


「は、はい」


 なんだかすごいことになってしまったけれど、全員でお買い物に行くことになってしまいました。


 ニーベ様とエリナ様の宣言どおり、外に出ると可愛い聖獣様が待ち構えていて私たちの周りをついて歩きます。


 この子たち、ニーベ様とエリナ様の契約聖獣でしょうか。


「あ、ニーベお姉ちゃんだ!」


「エリナお姉ちゃんに、アリアお姉ちゃん、ユイお姉ちゃんにリリスお姉ちゃんもいる!」


 街に向かう途中、子供たちが駆け寄ってきたかと思うと周りの皆さんにじゃれつき始めました。


 これは一体?


「あらあら、早速子供たちに捕まってしまいました」


「最近はこう言うことも多いのです」


「ボクたち、別の意味で子供たちにも有名人になっちゃったからね」


「いいではありませんか。子供たちが元気な証拠なのですから」


「そうね。あなたたち、元気にお勉強やお家のお手伝いしている?」


「うん、してる!」


「私、リリスお姉ちゃんに習ったお料理をお母さんと一緒に作ってみたの! お父さんとお姉ちゃんもおいしいって褒めてくれた!」


「僕はお名前を書けるようになったところを見せたら褒めてもらえたよ! 次に講習会に行ったときはもっと別のお勉強も教えてください!」


「ええ、構いませんよ。文字や算数だけではなくほかにも興味があることがあったら遠慮なく申し出なさいな。叶えられることでしたらなんでも教えて差し上げますから」


「うん!」


「それでは、私どもは買い物に行く途中です。申し訳ありませんが遊ぶのはまた次の機会に」


「「「はーい!」」」


「講習会、順番待ちになっているようですがまた来てもいいのですよ!」


「興味があったらまた魔法文字を教えてあげるからね」


「皆、ちゃんとお勉強するんですよ」


「お勉強だけじゃなく仲良く遊ぶことも忘れちゃダメだからね!」


 皆さんに送り出された子供たちは、また嵐のように去って行きました。


 でもなんでだろう?


「あの、皆さん。なぜ子供たちが?」


「ああ、いえ。私どもはスヴェイン様の講習会に講師として参加しているのです」


「秋の初めから始めているのですが私たちも有名になりまして」


「街を歩いているとときどき子供にじゃれつかれるのよ」


「子供たちはいつも元気いっぱいなのです!」


「うん。こっちまで元気をもらえるよね」


「子供たちが講習会……」


 これも私の故郷では信じられないことです。


 いえ、それ以上に故郷の街であんな元気いっぱいの子供たちなんていなかったなあ。


「ともかく、そろそろ参りましょう」


「は、はい!」


 リリス様の案内でやってきたのはそこそこ高級な化粧品店。


 私には化粧品なんてまだ早すぎるんだけれど……。


「ヴィルジニー様。化粧品はまだ早いとお考えですね?」


「あ、はい。まだ成人もしていませんし、見せる相手もおりません」


「ですが、今のうちから化粧のことは覚えておいても損はありません。ユイのように結婚してから慌てて化粧のことを考えるようになってはいけませんから」


「リリス先生。その話は許して……」


「そうですね。ヴィルジニー様の年齢でも基礎化粧品、化粧水と乳液だけでも覚えておいた方がいいでしょう。あちらで体験もさせていただけます。少しだけ体験させてもらいなさいな」


「は、はあ」


 リリス様に促されるまま体験コーナーへ。


 そこで店員さんに促されるまま化粧水と乳液をつけてみたのですが……それだけで肌の張りが全然違う。


「どうです、ヴィルジニー様。それだけでもかなり違うでしょう?」


「はい。こんなに違うだなんて……」


「ヴィルジニー様は心労の影響もあってか肌荒れが目立ちます。化粧水と乳液を買って帰るとよろしいでしょう。どれがよいかは私が一緒に選んで差し上げます」


「ありがとうございます。リリス様」


 リリス様にもお手伝いいただき化粧水と乳液を買って帰ることとなりました。


 店員は私が買えるのかいぶかしげな目で見ていたのですが、私が金貨を取り出すと大慌てで商品を用意してくれて……その上、別の製品の試供品までいただく事に。


 リリス様は『なんならコンソール錬金術師ギルド本部勤めであることも話した方がよろしいのではないのでしょうか』などと言い店員を更に慌てさせて……そんなに気にしていただかなくても。


 ほかの皆さんは化粧品に興味はあまりないのか適当に眺めているだけで店をあとにしました。


「あの、皆さんは化粧品を買わなくてよろしかったのでしょうか?」


「私どもは……スヴェイン様が錬金術で作ってくださいますので」


「え?」


「錬金術って化粧品とかも作れちゃうのよ。本家の流れから離れているからギルドでは教えていないようだけど」


「私も先生から習って基礎化粧品は自作しているのです」


「ボクもかな。何回も試して自分の肌に合った化粧品も作れるようになっちゃったし」


「そ、そうなんですね」


「錬金術で化粧品を作るのはかなり高難度な調整能力を要します。ヴィルジニー様はまだお試しにならない方がよろしいかと」


「そうします。その……買う方が早そうですし」


 そのあともニーベ様とエリナ様は露店でだというアクセサリーを私にプレゼントしてくださり、何軒かのブティックをはしごしながらウィンドウショッピングを楽しんだり。


 極め付きは宝飾ギルドに立ち寄って、なにをするかと考えれば『女の子なんですから少しは飾り付けませんと』といいながらアリア様が私に銀の髪飾りをプレゼントしてくださって。


 今日の買い物はニーベ様の思いつきから始まったことなのでしょうが、皆様の優しさに触れることができて……ギルドマスターの家まで我慢できましたが家に着いてから泣いてしまいました。


 今日のことも大切な思い出の一ページとなることでしょう。

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