376.『カーバンクル』の『試練の道』挑戦 『報酬披露』編
ボクたちの『試練の道』挑戦はお試しの『秘境』から始まり、『超々初心者向け』、『超初心者向け』、『初心者向け』とサクサク進んで行きました。
エリシャさんが注意してくれたとおり『半中級者向け』では向けてくる視線が獲物を狙う目に切り替わり、先にこちらが聖獣を発見したとしても容赦なく飛びかかってきます。
あくまで手加減して飛びかかってくるだけなので、杖で防げばそのまま地上に降り立ちあいさつをして森の中へと帰っていくのですが。
ボクとニーベちゃんも『半中級者向け』のクリアには時間がかかり、日も傾き始めてきました。
お昼は食べていませんが聖獣たちが分けてくれた木の実のおかげで空腹感はないのですけどね。
あれってお昼ご飯の代わりに渡してくれていたのでしょうか。
そしていよいよ『中級者向け』へ。
目的地の『中級者向け』入り口前にはよく見知った人影がふたつありました。
「うん? 聖獣?」
「あら、ニーベ様にエリナ様。それにエリシャさんまで」
「こんにちはです。ティショウさん、ミストさん」
「こんにちは。おふたりも『試練の道』に挑んでいるんですか?」
「あん? おふたり『も』?」
「どういう意味ですの?」
「私たちも今日エリシャさんさんの案内で『試練の道』に挑んでいるのです!」
「最初に『秘境』へ連れて行かれたときは驚きましたし怖かったです。でも、『初心者向け』までは優しく見送ってもらえました」
「さすがに『半中級者向け』では飛びかかられたのですが、手加減してくれていたのでへっちゃらです」
ボクたちの説明に……おふたりはものすごく動揺していますね。
なにか変なことを言ったでしょうか?
「おい、エリシャ。今の話、本当か?」
「どこからどこまでが本当ですの?」
「すべて事実だ。ティショウ殿、ミスト殿。朝ふたりを迎えに行ったあとに『秘境』を少しだけ案内し、その危険性を認識させた。『超々初心者向け』以降は……聖獣たちの優しい歓迎を受けて散歩をして歩いただけだったようだな」
「『超々初心者向け』が散歩?」
「私たちがいたずらされていたとは言え、普通の冒険者はCランクでも何十回と挑んでいる者たちもいますのよ?」
「本来『超々初心者向け』は本当に散歩道だ。聖獣も気配を隠そうとせず、むしろ気配を丸出しにしている。先に発見できればあいさつをしてくれるだけ。発見できなければじゃれついてくるが本気にはほど遠い。街中で聖獣たちの気配に慣れていれば、少なくとも『超々初心者向け』は誰でもクリアできるはずなんだ」
「今の話、本当に本当か?」
「その話、冒険者が聞いたら心が折れますわよ?」
「事実、ふたりが『超々初心者向け』に入っていって出てくるところを目撃していた冒険者も多い。入っていった時は『秘境』で怯えすぎたせいで慎重すぎたが、出てきたときはふたり仲良く妖精の花を持ち果物を食べながら出てきたのだからな」
「果物って……なんだそれ?」
「散歩中にカーバンクルさんがくれたのです」
「『超初心者向け』以降も毎回渡してくれて、しまおうとしたら怒るので食べ歩くしかなく。おかげでお昼は食べていませんがお腹もすいていません」
「え? 本当に歓迎されているだけですの?」
「本当に歓迎されているだけだ。冒険者が追い払われているのは殺気立っているせいだ。森の気配にすら馴染めないのだから仕方がない」
「それ……俺らの苦労はなんだったんだ?」
「私たち、ものすごく苦労して妖精の指輪をもらいましたのよ?」
ふたりともがっくり崩れ落ちましたが……大丈夫でしょうか?
なんだかボクたちも悪いことをしてきた気がしました。
「……よし、気を取り直そう。そういえば、ふたりの頭についてる髪飾りはなんだ?」
「『超初心者向け』の奥でもらいました!」
「綺麗な花飾りなので普段は身につけようかな、と」
「エリシャさん?」
「『妖精樹の髪飾り』だ。身につけているだけで魔力循環効率が飛躍的に向上し、妖精たちも寄り集まる。魔法や魔力を使う作業にはもってこいだな」
「……『超初心者向け』の報酬は『妖精の実』じゃなかったか?」
「聖獣たちがふたりの願いを聞きとどけた。ふたりは『部屋飾りがほしい』と言ったからな。それとは別に『妖精草の壁飾り』をもらったようだが、それだけでは気が済まなかったのだろう。一緒に渡されたようだ」
「エリシャさん。そういえば、あの壁飾りのことを聞いていませんでしたがやはり特別な力が?」
「空気を正常に保ちほのかによい香りがする程度だ。だからこそ、『妖精樹の髪飾り』もくれたのだろう」
「空気を正常に保つ……アトリエに飾るといいのです?」
「空気は綺麗になるが同時に匂いもつくぞ?」
「じゃあダメです。素材や薬品の匂いがわかりにくくなります」
「ああ。部屋の飾ってやれば喜ぶだろう」
「そうします。……ところでこの花瓶の名前はなんでしょう?」
ボクは『初心者向け』でもらった花瓶を取り出しました。
ただ、ティショウさんとミストさんだけではなくエリシャさんまで困り顔になっています。
「エリシャ、話の流れからすると『初心者向け』のクリア報酬だろうが……」
「私どもが聞いているものとは違いますよ?」
「だろうな。その花瓶の名前は私も知らないし見たこともない。おそらく、ふたりの願いを聞いた聖獣たちが作った新しい品だろう」
「わざわざ作ってくれたのですか!」
「そういえば、一番奥で聖獣が効果を説明してくれました」
「おそらくスヴェイン様も見たことがないはずだ。聖獣が作った贈り物、大切に扱うといい」
「はいです!」
「大切に使います!」
ボクはあらためて花瓶をしまいました。
さて、次は……。
「エリシャ。お前たちがここまでたどり着いたってことは『半中級者向け』もクリアしてきたんだよな?」
「贈り物は『妖精の指輪』でしたの?」
「いや、違った。ふたりとも見せてやるといい」
「はいです。でも大きいのです」
「ボクだけ出すよ。ニーベちゃんは横から支えて」
「わかりました」
ボクは『半中級者向け』の奥でもらった贈り物を取り出しました。
これ、もらったときも聖獣が補助してくれたんですよね。
「……なんだ、それ?」
「透明な結晶……でできた、シャンデリア?」
「『フェアリーシャンデリア』だ。持ち主の魔力を流せば光が灯る。また、各種結界も張れる優れものでもあるぞ」
「……そんなの聞いたことがないんだが?」
「私も実物は今日初めてみた。シャルロット様が同じく『試練の道』で手に入れて、自室……今は大使館の寝室に使っていると聞いているがそれだけだ」
「大層なお宝をもらい歩いたな?」
「それも今日一日で追いつかれるだなんて……」
「聖獣の気配、野生の気配に敏感というのはそういうことだ。本来であれば、冒険者なら『初心者向け』までは到達してもらいたいのだがな」
「それ、街の冒険者には絶対に言うなよ?」
「本来であれば大々的に公表したい。それにふたりが『試練の道』を攻略した話は早晩広まるはずだ。『超々初心者向け』では冒険者も含めた大勢の人々が、『超初心者向け』と『初心者向け』でも人数は少ないが目撃者はそれなりにいるからな」
「冒険者ではない、錬金術師の『カーバンクル』が『試練の道』を散歩して歩いた、と」
「それじゃまるで本物の聖獣じゃねえか」
「事実だから仕方がない。冒険者が事実から目を背けるなど言語道断だ」
エリシャさんって本当に厳しいですね。
ところで、『中級者向け』はまだ挑ませてもらえないのでしょうか?
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