696.英才教育機関稼働状況報告

「……と言うわけでして、受け入れた三百人について初回の初週の講義ではどこも問題が出なかったようです」


 僕が二週目……つまり第一期として受け入れた三百人の状況確認を終えたあとのギルド評議会。


 その場で英才教育機関の稼働状況を説明しました。


 皆さん、状況が調ことに呆れられていますが……。


「錬金術師ギルドマスター。大きな問題点はないのだな?」


「なにもありませんね。年少組には魔法を教えることで楽しく遊んでもらいながら裏で魔力操作を鍛え、年中組には魔力操作の重要性を教えた上で魔力操作を、年長組はいきなり魔力操作から入っていますが入門試験が間近と言うことで反発もないそうです」


「魔法を使って魔力操作を鍛えるか。その発想はなかった」


「あくまでも危険ではない魔法だけを教えていますからね。その魔法も外では絶対に使わせないように教え、家でも親の許可を得てから使うようにさせている。子供たちも使うのは楽しいようですが、同時に魔力枯渇の気持ち悪さを体感しているので休めない場所では使わないようです」


「なるほど。それは実に合理的でございますな」


「……シャルからはまた魔法を投げつけられましたけどね? 今回は僕のせいじゃないのに」


「相変わらず兄妹仲がいいな。で、スヴェイン。二週目からはなにを教えるんだ?」


「年中組と年長組は魔力操作の訓練を継続だそうです。年中組に関してはときどき魔力水も作らせてみて効果を体感させると」


「ほほう。年少組は?」


「魔法で遊ばせるのと、ふたり一組になって魔力操作の訓練だそうです。どちらも魔力をそれなりに消耗するので最大魔力上昇も望めるだろうと読んでいます」


「ふたり一組になっての魔力操作訓練……ですかな?」


「はい。ふたりが互いに両手を繋いで魔力を片手から流し合うんです。そうすることで魔力を流していることと受け取っていることを体験でるんですよ。あくまで疑似体験ですが」


「疑似体験というのは?」


「実際に魔力は互いの体の間を流れはしません。あくまで、です。それでも魔力を感じることができるので魔力操作の訓練になります」


「そんな方法もあったのかよ、錬金術師ギルドマスター」


「ありますね。魔力枯渇を起こしやすいのであまりやらない訓練なのですが」


 安全な状況じゃないとできない訓練なんですよ、これ。


 方法だけは幼い頃に教えてもらいましたが、すっかり忘れていました。


「ともかく、錬金術師ギルドの英才教育機関は順調か」


「順調です。危惧していた親から送り込まれた子供と自分から飛び込んできた子供との温度差も生まれませんでした。指導で躓くことがなければこのまま一年間機能するでしょう。ただ……」


「ただ?」


「この調子だとどのクラスも半年程度でポーションまで教え終わる気がしてならないんですよ。そこをどう考えているのか気になるところです」


「……本物の英才教育機関だな」


「それって錬金術師ギルド的にどうなんだ?」


「今回はテストケースなのでなんとも言えないのですが……ちょっと講師が優秀すぎます。一年間は教育してもらいますが、もう少しのんびりやってもらいたいのが本音ですね」


「うらやましいですね。我々はまだ目処すら立たないと言うのに」


「まったくでございます。それほどの講師を用意できるとは」


「どこからそのような講師を?」


「……セティ師匠が鍛えていました。どうにも人を鍛えることにはまっていたらしく」


「セティ師匠……〝シュミットの賢者〟か……」


「それ、私らも頼めないかい?」


「どうでしょう? 教え甲斐のある生徒だったら放っておいても教え出すと思いますが……」


「スヴェインの師匠だ。スヴェインじゃ制御不能だわな」


「残念ながらそうなります。諦めてください」


「無い物ねだりは仕方があるまい。しかしこうなると、動けるギルドだけでも早々に英才教育機関を動かさねばな」


「実際、親御様からは要望が来ているそうでございます。場所と講師の確保ができていないことを伝えると渋々ながら帰っていただけますが……」


「家政はまだいいでしょう。私たち製菓のような指導用の教材を用意できないところはどうにもなりません」


「そこも頭の痛い問題か。農業ギルド、第二回目の試験栽培の結果は?」


「もう出ている。やはり、スヴェイン殿が育ててくれた農地の方が実りがよかった。魔術師ギルドの方は……なんというかまばらだったな」


「まばらか。魔術師ギルド、理由と対策は?」


「おそらく『セイクリッドクラウド:レインコール』の扱いに慣れていないため、農地への聖属性付与や雨の降らせ方がまばらだったのでしょう。こればかりは回数を重ねて熟達していくしかないかと」


「理由の予測がついているならば結構。三回目もこの規模で行うのか?」


「農業ギルドとしてはその予定だが……増やすべきか?」


「いや。魔術師ギルドの話を聞く限り、耕作面積を増やすのは良策ではなかろう。肥料の確保にも問題が出かねないからな」


「そういや、その肥料だがスヴェイン殿の畑に蒔く肥料には貝殻が混ざっていないが……肥料に聖属性を付与しているのか?」


「はい。どの程度の聖属性を付与すればいいのかの目処はつきましたので」


「それを魔術師ギルドと共有することは?」


「可能です。ただ、かなり繊細な付与量ですからかなりの慣れが必要かと」


「そこも含めて実験栽培をさせよう。農業ギルド、農地は狭くてもいい。三面を用意できるか?」


「可能だ。スヴェイン殿の畑と魔術師ギルドの畑、それから魔術師ギルドが聖属性付与した肥料の畑だな」


「そうなる。三つ目はだめになっても構わない。よろしく頼んだ」


「任せろ。それが俺たちの仕事だからな」


 ドナルドさんたちもかなり慣れてきましたね。


 ただ、肥料への聖属性付与は宝石付与並みの繊細さなのですが大丈夫でしょうか?


「さて、英才教育機関の話に戻そう。すでに稼働し始めた錬金術師ギルド以外で動けそうなギルドはどこがある?」


「私ども家政ギルドは場所さえあればなんとか。講師は……なんとかいたしましょう」


「我々、魔術師ギルドもだ。場所さえ用意できれば講師の都合はつける」


「ほかにはどこかないか?」


「宿屋ギルドもできないことはないが……あたしらがやる必要ってあるのかね?」


「ううむ……一般的な家事になってしまうな」


「だろう? 掃除やベッドメイキング、配膳方法、簡単な料理……は食材が必要だから難しいか。ともかくそんなところだ。はっきり言ってやる意味があまりない」


「宿屋ギルドは保留だな。家政と魔術師が使えそうな場所のあてはないか、商業ギルド?」


「あてでございますか……家政ギルドは小さな屋敷が売りに出ております。そこを買い取っていただければよろしいかと」


「ほほう。それではこのあとすぐにでも見学を」


「魔術師ギルドは……魔法訓練場もほしいですか?」


「ううむ、悩みどころだ。魔術師ギルドは研究機関。だが、その一部として攻撃魔法の研究も行う。だが、子供たちに攻撃魔法まで触れさせてよいものかどうか……」


「攻撃魔法用の訓練場が必要ないのであればいい建物はございます。ただ、魔法訓練場も隣接となると旧市街では……」


「そうか……いや、攻撃魔法を子供たちに扱わせるのは危険だな。その建物を紹介してもらいたい」


「わかりました。ほかに要望がある方はございますか?」


 さすがにこれ以上の要望はなし。


 どのギルドも英才教育機関の開設はしたいが準備が整わないのでしょう。


「とりあえず、いま動けるギルドは以上か。我が医療ギルドも早めに動きたいが……刃物や薬品を扱うためなかなかな」


「建築だってそうだ。最初は積み木模型で建築の基礎を教えればいいが、ある程度の年齢になったら実際に釘とハンマーを使った物作りだぜ? 安全とは言いきれねえ」


「馬車もですな。まさか馬車作りを教えないわけにも行きますまい。木材はあっても危険性が……」


「いま動けるギルド以外はなにかしらの問題ありか。今後も検討課題だな。先行して動けるギルドは情報共有をお願いする」


「わかりました」


 情報共有……してもいいんですけど、セティ師匠の意向が絡んでるんですよね。


 どこまで共有して効果があるのか、疑問です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る