シュミット兄妹のお茶会

697.挿話-41 シュミット兄妹と家族の話

 本日はシュミット大使館を訪れてシャルとのお茶会です。


 いや、用事もなく訪れるのは悪かったので滅多に来ていなかったのは認めますが……。


「お兄様。たまには遊びに来てもいいのでは? 新しい本部になってからこの大使館とも近くなったのですし」


「シャル、僕だって一応錬金術師ギルドのギルドマスターですよ?」


「〝一応〟でしょう? 基本的には最終決裁以外すべてサブマスターがいれば回る体制を整えているくせに」


「それにシャルだって公太女でしょう? 僕とそんなに会っている暇があるんですか?」


「お兄様とならいいのです」


「シャル、理由がめちゃくちゃです」


「いいのですよ。そうそう、物覚えの悪い補佐に仕事を教えてくださってありがとうございます」


「いえ、頑張っていましたか?」


「多少残っていましたが頑張りを認めて指輪を投げ返すのは少し猶予を与えました。魔法は投げつけましたが」


「オルド……」


「申し訳ありません、スヴェイン殿……」


 あれだけ書類仕事のやり方を指導したのに間に合わなかったのですか……。


 本当に愛想を尽かされないか心配になってきましたよ。


「とりあえず、いまの仕事はオルドをメインにやらせています。それで遅延が発生したら指輪は投げつけます」


「そうしなさい。僕もこれ以上はかばえません」


「そうします。フランカは文武ともに優秀なのに、オルドは武ばかりに集中してしまって……」


「フランカですか。彼女、あれからどうしていましたか?」


「まずは姿勢の矯正と領地経営の補佐を務めるための指導を行っています。姿勢も一年間で悪い癖がついてしまっているのでそれを抜くのに苦労していました。領地経営補佐の方は、お母様からしっかりと叩き込まれていましたがそちらも食いしばっていますね」


「それはよかった。シャルの知る限り無理はしていませんでしたか?」


「無理はしていません。息抜き代わりの剣術も三日に一回程度に抑え、それ以外はすべて指導です。お母様の方が心配してときどき庭園散策や遠乗りに連れ出している程でしたよ」


「彼女も頑張り屋ですね」


「はい。出来の悪い補佐とは違い、優秀です。本当にディーンお兄様にはもったいないお嫁様です」


 言葉の端々でオルドを攻め立てますが……自分の未熟さを思い知りなさい、オルド。


 あなただってもう数カ月でコンソールに来てから一年なんですから。


「それよりも、お兄様。アリアお姉様やユイとは仲良くしていますか?」


「仲良くしていますよ? なぜです?」


「いえ。つい先日、ユイとお話したのですが『スヴェインが最近愛してくれない』と」


「ユイ……妹になにを……」


「いいじゃないですか。ユイも甘えたいんですよ。少し愛してお上げなさいな」


「はあ、そうします。まったく、妹になんて愚痴を」


「アリアお姉様は平然としていましたけどね? 『スヴェイン様とは添い寝できるだけで十分ですから』と」


「アリアはアリアで最近要求が増してきてますよ?」


「アリアお姉様が? せがんできますか?」


「昔見たいに一緒にお風呂に入りたいと。弟子たちも成人したのだからやめろと言い聞かせているのですが」


「アリアお姉様も甘えたいのでしょう。旦那としてふたりとも甘やかしなさい」


「甘やかしてますよ。最近は三人一緒に僕のベッドで寝る日が多いです」


「あら、春の間はユイがせがみ続けていたと聞きましたが今度は誰が?」


「ユイもアリアも両方が要求してきます。三人一緒に寝るのが癖になってしまったようですね」


「……お兄様もあれほどかわいい嫁ふたりに挟まれて寝るのはいい気持ちなのでは?」


「……余計なことは言わないでよろしい」


「お兄様もお年頃ですね。ディーンお兄様ももう少し女性に気があればいいのに」


「フランカがかわいそうですか」


「フランカを泣かせることは妹として許しません」


「そこまで気に入ったんですね」


「気に入りました。お兄様だってあれだけのエンチャントアクセサリーを渡したんです。気に入っているでしょう?」


「ええ、まあ。少々、お転婆が過ぎるとは感じましたが」


「そこは家庭に入れば落ち着きますよ。フランカと言えば……『総合学習』の手助けもしていましたね」


「……まだなにかあったんですか、『総合学習』」


 お父様、いい加減諦めるべきでは?


 その調子では人が集まらなくなりますよ?


「私がシュミットに残っていた最後の『総合学習』では、子供たちの不満が爆発する前にフランカが子供たち全員を外に連れ出して剣術の基礎を教えました。楽しんで帰っていきましたよ?」


「つまり、それ以外の講師どもは役立たずだったんですね?」


「そうなります。私やリリスに説教をされているのにまだ理解していないなんて」


「……シャル、お父様にピクシーバードを」


「お兄様。お父様を甘やかすのはいけません」


「お父様のためではありません。子供たちを泣かせないためです」


「では、お母様に飛ばしてお父様に説教をしてもらってから教えましょう。内容は?」


「〝各職業講師に教えを乞いそれを実践しろ〟と」


「……そう言えばその通りですね」


「それで十分なんですよ、『総合教育』って」


「お兄様たちが多才なせいで気が回っていないのでしょう。お茶会が終わったらお母様にピクシーバードを飛ばします」


「そうしてください。ついでに断酒も延長するように進言を」


「お母様のことです。これを聞けば断酒の延長くらい言われずともするでしょう」


「それで、シャルの方は順調ですか? 僕の様子はいろいろと知られているようですが」


「お兄様の様子はアリアお姉様とユイが教えてくれますから。私は……まあまあです。ノーラとも定期的に会えますし、ヴィルジニーともお友達になれました。お兄様のおかげで各シュミット講師たちもやる気を見せてくれていますし、コンソールは順調です」


「コンソール


「シュベルトマンにはもう少し頑張っていただかないと。やる気のない連中は吹き飛ばされましたが、遅れが取り戻せていません。シュベルトマン各街から上がっている報告も基本指導は終わりつつあるようですが、そのあとどこまで伸びるかは未知数ですね」


「そこは各街次第でしょう。コンソールからの支援は制限しています。早くそれに気がつき、ほかの街と差別化できないとあまり意味がありませんからね」


「そうですね。各街の文化の差だけになってしまいます。それだけでは差別化がしにくい。今でこそコンソールからの支援で潤っていますが、それがなくなったときのことを考えていないとまた破滅でしょう」


「そこまでは責任を持てません」


「お兄様らしい」


 僕らしいと言われてもコンソールギルド評議会全員の認識なんですから仕方がないでしょう。


 どこかの街から勉強に来る者がいればすぐにコンソールとの〝格差〟は気がつくはず。


 それをしないようではまた没落です。


「あとは……シャニア様もお忙しいご様子ですね」


「シャニアさんですか。彼女が訪れたのも一年ほど前になりますね」


「はい。お父様から聞くとシャニア様の帰還報告の際すべての大臣が罷免され、更に上位の武官や文官たちも多く背任や横領で処罰を下されたそうです。その分、シャニア様とズレイカ様の負担は増えたそうですが風通しは非常によくなり上層部も刷新できたようですね」


「おや? 大臣職なども決まりましたか?」


「はい。私もつい先日ごあいさつに行ったときに会ったばかりですが」


「また腐った貴族ではないでしょうね?」


「叩いても埃の出ない優秀な文官や武官、魔術師などから選出したそうです。年若い者も多くまだまだ練度不足ですが、それはズレイカ様が残りの時間を使って一気に鍛え上げると」


「そうですか。貴族どもは黙って受け入れたのですか?」


「腑抜けた貴族どもが竜に守られた代表に逆らえるとでも?」


「……それもそうですね」


「ほかには……私も欲求不満です。お兄様、剣の稽古を」


「はいはい。お相手をしますから着替えてきなさい。ちなみにオルドを相手にした稽古はしないのですか?」


「オルドはです。それでは、訓練着に着替えてきますので先に訓練場へ」


 ……オルド、本気で補佐を満足にこなせないと人扱いすらしてもらえませんよ?


 ともかく、僕はシャルの訓練相手ですか。


 お互い怪我をしない程度に頑張りましょう。

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