695.英才教育機関指導一週間目終了

 今日は英才教育機関の一週間目指導終了後の見直し日。


 さて、三人はどうなっているのでしょうか?


 無理をしていなければいいのですが……。


「入りますよ」


「あ、ギルドマスター」


「ようこそ」


「今日は……私たちの様子を見にいらしたんですよね?」


「約束通り体調チェックも含めてね。最初の一週目から躓かれては困るのですが」


「それはまあ……」


「大丈夫ですよ。そこまでやわじゃないですから」


「はい。それに子供たちも元気いっぱいでこっちまで元気をもらえます!」


「年少のネスリンはいいよな。年長の俺は、お互いもうすぐ錬金術師ギルドの入門試験を控えているライバル同士ってことで気が抜けないぞ」


「ニベンはきつそうだな。俺は……そこまででもないか。年中組はまだ余裕があるからな」


「マックスも足元をすくわれないようにね」


「わかってるって……とまあ、初週はこんな感じですギルドマスター」


「なるほど。概ね予想通りと」


「予想通りです」


 年長組がライバル心を燃やすことは想定済みです。


 十二歳の子供たちを優先させましたからね。


 来年どうなるかは来年の申し込み状況を見てから決めますけども。


「年中組と年少組では若干名ですが親から無理矢理入れられた子供たちもいたはずです。その子供たちは?」


「年中組では問題ありませんでした。最初に錬金術の基礎として魔力水の作り方を見せたのが大きかったようです」


「年少組も問題ありません。最初こそ乗り気でない子供たちもいましたがほかの子供たちとすぐにうち解けていました。あまり使いたくはなかったのですが、マジックポーション入り錬金台も使って魔力水作りも体験させましたしすぐに興味を持ってもらえましたよ」


「機材を有効活用できたなら結構。ちなみにどんな内容を教えているのですか? そこもすべてあなた方任せなのですが……」


「年長組はいきなり魔力操作です。すぐにでも入門試験が控えている以上、みんな真剣に取り組んでもらえました」


「年中組は一日目は超初心者向け錬金台で魔力水を作らせてました。それでどういうことができるかを学ばせ、二日目から魔力操作の練習です」


「年少組は魔法の練習だけです。魔力操作の訓練としては効率が悪いですが楽しく学べて魔力枯渇による最大魔力上昇も狙える、効果的なトレーニングだと」


「セティ師匠の入れ知恵ですか……」


「そうだね。シュミットでもやっていない訓練方法だよ?」


 いや、シュミットでもやっていないことをコンソールで試さないでください。


 確かに幼い子供たちなら安全な魔法は楽しいですし何度でもでしょうが……。


「試しと考えてやらせてみたけど悪くはない結果だ。三日間だけで【魔力操作】のスキルレベルが5か6になっている。コンソールでは魔力操作を覚えるための補助具が手に入らないからね。幼い子供たち向けにはいい方法だよ?」


「コンソールをセティ師匠の実験場にしないでください」


「何事もまず試してみないと始まらないだろう? できることなら、今週教えた子供たちが再来週来るときにレベル7まで上がっていると嬉しいね」


「はぁ……ネスリンさん、教えた魔法の種類は? 危ない魔法は教えていませんよね?」


「はい。『ライト』、『ダーク』、『シャイン』、『ライトヒール』。この四つだけです。基本属性はどれも危険が伴ったり、部屋を汚したりする可能性があるので教えていません」


「……上位属性ばかりですがいいでしょう。外で使わないように注意は?」


「しっかりしてあります。魔法を使いたければ親の許可を取ったあとで使うようにと。『ライトヒール』も基本的にはあまり使わず聖獣様たちに治してもらうように言いつけてあります」


「ならば結構。次に教える内容は?」


「ふたり一組で魔力循環を練習してもらおうと考えています。そうすれば魔力操作も順調に上がりますよね?」


「上がるでしょうね。セティ師匠、こんなところでも入れ知恵を……」


「いろいろと応用が利くだろう?」


「利きます。利きますが……ギルド評議会になんと説明すれば」


 セティ師匠の好きなように指導させたのはやはり間違いだったでしょうか?


 僕ですらあまり教えようとしない方法で一気に文字通りのを施していきます。


 これ、ポーションまで到達するのに半年いらないのでは?


「ちなみに、この方法。シャルにも報告してますか?」


「本にまとまったら報告するよ。実験段階で報告するようなことじゃない」


「実験段階から報告してあげてください……」


「そうかい? じゃあ、帰ったら話しておくよ」


「よろしくお願いします。僕だってシャルに毎回冷たくされるのは嫌なんです」


「あはは。君に冷たくしているのは甘えたいときにいないせいだ。ギルドマスター業務も普段はそこまで忙しくないんだろう? 君ならシュミット大使館だって顔パスなんだからもっと会いに行ってあげなよ。そうすればシャルだって喜ぶ」


「そうでしょうか? ……まあ、国を出奔していた間の罪滅ぼしとしてもう少し会いに行く頻度を増やします」


「それがいい。それにしても……僕が直接教えちゃだめかい? 特に年少組」


「だめに決まっています。英才教育機関が最初に稼働しただけでも更に差を広げました。セティ師匠が手をつけだしたらコンソールが錬金術師の街になります」


「それもいいじゃないか。君の計画では一大薬草園を作ろうとしているんだろう? 今更だよ」


「……セティ師匠。本当に教育にはまりましたね?」


「ああ。君たちが出奔したあとはディーンやシャル、オルドの面倒を見ていたが彼らも優秀な生徒だった。その成果をシュミットの街にも還元していたが……思いのほかシュミットも発展してしまってね。あの地でこれ以上やるべきことがなくなりつつあったんだよ」


「もっと街の発展に寄与してもいいのでは?」


「それもあまりよくないだろう? 君も帰省したからわかるだろうが、シュミットの街はあそこまで発展したんだ。これ以上、僕が手を出すといろいろ危うくなる。かと言って、この街もだめだ。君がいろいろ手を貸している。僕の本をばらまいた程度は問題ない。でも、その結果どこまで発展するかは未知数。僕が直接手を貸す段階じゃないんだよ」


「それで、他人の育成ですか」


「そうなるね。特に君の城の人間は教え甲斐があった。この三人もだけど先に卒業させたエレオノーラも教え甲斐のある生徒だったよ。僕の教えに必死に食らいつき、発展させようと努力し、新しい道を模索し、そこまでたどり着いた。彼女もいまでは立派な講師なんだろう? 大変素晴らしい」


「……これ以上、僕の城の人材を引き抜かないでくださいね? みんな自力で特級品ポーションやミドルポーションを作ろうと頑張っているんですから」


「それも聞いている。僕の錬金術学中級編からだけでミドルポーションの製法を解き明かすだなんて素晴らしいよ。聞けば、ミドルポーションを解き明かしたメンバーはミドルマジックポーションも解明しているとか」


「解明していますね。あとは訓練だけです」


「……本当に教えちゃだめかい?」


「だめです」


 師匠も本当にしつこい。


 師匠が教え出すと高品質ミドルマジックポーションに手が届くじゃないですか、彼らなら。


「非常に残念だよ。しかし、君には他人に教える方法を教えてこなかったのに……どうして君の城に集まった精鋭たちはあれほど立派なのか」


「そこは僕にもわかりません。第一期第二位錬金術師たちは旧錬金術師ギルドで放置されていた新人錬金術師を僕が鍛え直したメンバー、ここにいる三人も含めた第二期第二位錬金術師は僕が昔開催していた錬金術師系統の者たちに対する講習会に参加したメンバーです」


「……ああ、なるほど。だいたいわかった」


「なにがですか?」


「君の城に〝精鋭〟が集まった理由がだよ。そして、いまの錬金術ギルドになかなか〝精鋭〟が揃わないことが」


「……その話は興味があります。教えていただけませんか?」


「構わないよ。話は簡単だ。君の城にいる〝精鋭〟は君に〝〟を与えられた者たちばかりなのさ。どんなに手を伸ばそうと走り続けようと遠ざかるばかりの背中。それに憧れ続けているのが君の〝精鋭〟たちだ」


 ふむ?


 そんな大それたことしてきたでしょうか?


 技術指導だってここ数年間まともにさせてもらえてませんし……。


「では、どうすれば新しい〝精鋭〟は揃ってくれるでしょうか?」


「来年を期待するといい。〝精鋭〟たちが鍛え上げた、新しい〝精鋭〟が入ってくるだろう。それまでは我慢かな」


「我慢ですか。僕は我慢できますが……ウエルナさんたちが申し訳ないんですよね……」


「その話も聞いている。今年の選考が特に酷かったことも。シュミット講師としては焦りすぎたんだろう。シュミット講師としても新人選考に君を動かしたくないだろうし、今年の不始末は来年挽回してくれるさ」


「……僕、そんなに信用ありませんか?」


「君の基準は厳しすぎるんだよ。君が本気で選考すれば本当に優秀なメンバーが集まるだろうが、人数が集まらない。実際、君だって最初の支部採用では失敗しているだろう? あれ、採用枠を増やせるからって基準を甘くしたんじゃないかな?」


「……否定できませんね」


 うーん、セティ師匠に言われるといろいろ否定できないことが山盛りです。


 僕も引退時期が見えてきている以上、新人選考に口を挟むのはよろしくないですか。


「そうですね。ギルドマスター基準の採用だとかなり厳しくなるでしょう」


「ええ。俺たちのときだって相当厳しかったんでしょう? 【神眼】持ち相手の厳しい選考ってめちゃくちゃ高い基準ですって」


「選ばれた私たちは光栄ですけど……それを今後も続けるのは厳しいかと」


「わかりました。今後も僕が口を挟むのは避けましょう。そして、セティ師匠もここの指導方針に口出ししないでくださいね?」


「わかってるって。ああ、それから。君が作っている『学園国家』だけど、僕の席も用意してくれないかな?」


「国を渡るのは無理ですよ?」


「わかってるよ。シュミットからの出張講師っていうことにする。助手のリンネも連れてくるけど」


「……なにを教えるつもりですか?」


「うーん、特に決めてないかな。熱意がある子供を見つけてその子供が伸ばしたいことを伸ばしてあげるつもりだ。だから、本当に私塾のような形で席だけ設けてくれればいい。どこか閑職みたいな場所でもいいよ。図書館の名ばかり館長とか」


「考えておきます。そう言えば、セティ師匠って僕やアリアと会う前はなにをしていたんですか?」


「うん? グッドリッジ王国の王宮図書館の名ばかり館長だよ」


「……左様で」


「そういうわけだからよろしく。公王様やシャルには僕の方から許可をもらっておくからさ」


 お父様たちもセティ師匠が言い出したら聞かないのは知っているでしょうし止められないでしょうね……。


 となると、本当にセティ師匠を学園図書館かどこかに押し込めますか。


 本人がそれでいいって言ってますし、それが無難ですから。


 僕やアリアのような子供を見つければ勝手に教育をするはずです。

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