136.グッドリッジからやってきた者
僕による弟子たちへの錬金術の指導と錬金術師ギルドの再建、それからアリアによる弟子たちへの魔法指導が順調に進み、もう少しで一度コンソールを離れる頃になりました。
弟子たちや錬金術師ギルドのギルド員からは引き留められていますが、僕もアリアも自分たちの研究をいい加減進めたいんですよね。
そんなある日、コンソールの街で異変が起こります。
「南門側より騎馬部隊がコンソールに接近中! 騎馬に乗った少女を追いかけている模様!」
「……これはなんの騒ぎでしょう」
「ギルドマスター、衛兵たちからの緊急避難指示です。正体不明の騎馬隊が現れたために防備を固めるのでしょう」
「ふむ……少し様子を見に行ってみますか」
「ギルドマスター!?」
「ミライさんは危険ですので避難していてください。僕は自分の身はどうとでも守れますのでご心配なく」
「そういう問題では……って飛んだ!?」
僕が開発した時空魔法と風魔法の合わせ技『ウィンドウィング』です。
これがあれば高所に登るのもかなり楽ですよ。
「こんにちは、衛兵さん」
「あ、なぜ一般市民がここに!?」
「一般市民ならよかったんですが、今は錬金術師ギルドのギルドマスターという大役を任されています。それで、正体不明の騎馬隊と少女というのは?」
「錬金術師ギルドのギルドマスター!? いや、確かに評議会から渡された人相書きと一致しているが……」
「それはあとでもいいでしょう? それで、騎馬隊はどちらに?」
「あ、ああ。あちらの方角です。遠眼鏡を使わないとまだ見えない距離ですが」
「普段から遠眼鏡を使って警備をなさっているのですね。ありがとうございます。ですが、確かに肉眼では難しいですね。マジックスコープ」
「は?」
「ああ、遠眼鏡と同様の効果を発揮できる魔法です。どれどれ……」
うん、確かに騎馬隊が少女を追いかけています。
さて、問題の少女ですが……。
「……シャル?」
「どうなさいましたか?」
「いえ、追いかけられている少女に見覚えがあります。あいつらは僕が追い払いますので、警戒態勢をそのまま続けていてください」
「は、はい。って、飛んだ!?」
どういうことでしょう?
あの少女はシャルの面影を確かに残しています。
ですが、シャルはグッドリッジ王国のシュミット辺境伯領にいるはず。
こんな場所にいていいはずがありません。
それに後ろで追撃してくる集団、あの旗はグッドリッジ王国のものですが……なぜ、国をいくつかまたいだこの国に?
考えていてもらちがあきません、今は少女と接触して必要ならば後ろの軍勢をなんとかせねば。
「そこのお嬢さん。少しスピードを緩めてもらえますか?」
「誰!? ってお兄様! やはりこの国に!」
「……やはりシャルでしたか。後ろの集団は?」
「グッドリッジ王国、王弟派の追っ手です! やつら、国境となっている魔の森を駆け抜けてきたというのに、本当しつこい!」
「……魔の森を抜けてきたことについてはあとからお話です。あの追っ手はひとり残らず消してしまった方がいいのですね?」
「そうなります。私も道中ある程度の数は減らしたのですが、それでも諦めずに追ってきて!」
「わかりました。本当ならばコンソールから見える場所で武力行使はしたくなかったのですが、致し方ないでしょう。すぐに片付けてきます」
「お手数をおかけします、お兄様」
「いえいえ。可愛い妹……を三年も放置した罪滅ぼしの一環です」
「まったくです」
「はは……では行って参ります」
さて、ひとり残らずというオーダーですから普通の大魔法で焼き払うのは悪手でしょう。
そうなると、やはり神聖魔法で跡形もなく焼いてしまうのがベストですね。
まだ、どこの軍勢かも認識されていないようですし。
「なんだ、貴様は!」
「あなた方が追いかけていた少女の兄ですよ」
「シャルロット = シュミットの兄……まさか、スヴェイン = シュミット!」
「シュミットの名は捨てたのですが。そんなことはこれから死ぬあなた方には関係ないでしょう。それでは、さようなら。『聖獄の炎』」
「なんだ、この炎は!? 体にまとわりついて……」
それがその男の最期の言葉となりました。
ほかの騎馬隊も馬や装備も含めてすべて焼き尽くしましたし問題ないでしょう。
そう考えていると、後ろの方から拍手が聞こえてきました。
シャルですね。
「お見事です、お兄様。やはりこの三年間も鍛錬の手は抜いていませんでしたね」
「もちろんですよ。それで、シャル。あなたがなぜここに?」
「もちろんお話しいたします。……まずはどこか落ち着いてお話できる場所に案内していただきたいのですが」
「そうですね。まずはコンソールの街に入りましょう」
コンソールまでシャルと一緒に戻り、衛兵さんに頼んでシャルを街の中へと入れてもらいます。
簡単に入街できたことに一番驚いていたのはシャルでしたが。
「……お兄様。なぜ、衛兵の方とお話ししただけで私が街へ入れていただけたのでしょう」
「僕が少しばかり権力を使ったまでです。……こんなことに不要な権力など使いたくはなかったのですが」
「権力? お兄様が?」
「はい。すみませんが錬金術師ギルドに寄っていきます。今日この後のことをサブマスターのミライさんに話しておかなくては」
「サブマスターに話す? お兄様はなにをしているのですか?」
「非常に不本意ですがこの街の錬金術師ギルドでギルドマスターを務めています。後任が見つかるまでのお飾りでいたいのですが、後任がすぐに見つかってくれるのでしょうか?」
「……お兄様の後任」
少し上の空になったシャルを連れて錬金術師ギルドの門をくぐります。
錬金術師ギルドの職員たちは避難していなかった様子で、ミライさんも残っていました。
そのため今日の指示を出し、あとのことをお願いしてからギルドを立ち去ります。
「それで、お兄様。どこに向かうんですか?」
「僕がご厄介になっているお屋敷へと向かいます。事情を説明すれば大丈夫でしょう」
それにしても、本当になぜシャルがこの国に?
そして、王弟派とはなんでしょう?
グッドリッジ王国は大丈夫なのでしょうか。
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