135.弟子たちへの説明と今後の育成方針

「……というわけでして、ギルド評議会全会一致で僕の留任が決定してしまいました。申し訳ない」


 視察が終わったあと、これを見越していたかのように評議会が開催され僕の留任が決定しました。


 流れるような段取りでしたので、最初から決まっていたのでしょう。


 その日の夕食後にその結果を報告することとなりました。


「先生から教えてもらう時間が減るのは困ります!」


「ニーベちゃん、堪えて。ボクも同じ気持ちだけど」


「いや、本当に申し訳ない。ですが、ギルド評議会全体からの圧力がすさまじく、この街にいる間、一週間に一日でも構わないという条件で引き受けることになったのですよ」


「ふむ、さすがにスヴェイン殿もギルド評議会の面々にはかなわないか」


 面白そうにコウさんが言いますが……実際にそうなのですから困ります。


「そうですね。皆さん老獪です」


「それは困ったものだ。だが、商業ギルド所属の私としてはとてもありがたい」


「どういった意味でしょうか?」


「実はな、おそらくギルド評議会の終わったあとだろうが商業ギルドに主だった商会長たちが集められた。議題は『高品質ポーションの販売について』だ」


 高品質ポーション……元見習いたちのポーションを売り出す算段をもうつけ始めているんですね。


「私もそれを聞いたときは驚かされたが、机の上に三百本の高品質ポーションを積み上げられては声も出なかったよ」


「それは僕が教え込んだ元見習いたちの作品ですね。今日できているのが三百本ちょっとと聞いていましたから、それを帰る前に全部買い取っていたのでしょう」


「やはりか。私は事情をなんとなく察していたのでそこまで驚かなかったが、そのほかの商会長たちは自分の目が信じられない様子だったな」


「そうなんでしょうね。この国では高品質ポーションは非常に珍しい品と聞いています」


「うむ。それで商業ギルドマスターからそれらの販売方針を聞かされ、更に仰天していたぞ」


「販売方針ですか? この街で売るのではなく?」


「ああ。一般品ポーションも含め半数はこの街で販売するそうだ。しかし、残りの半数は違う。この街特産品として出荷するそうだ!」


「ポーションが特産品ですの?」


「ああ、そうだ。この国ではポーションと言えばよどみがあり不味いものが当たり前とされている。それなのに、交易都市産のポーションは爽やかで飲みやすい、そうなれば飛ぶように売れるだろうというのが商業ギルドマスターのお考えだ」


「ふむ……そうですか」


の考えは違うのかね?」


「いえ、でしたら国内全土に広めてしまいたいというのが僕の考えです。ですが、商業ギルドマスターがそういう考えをお持ちでしたら少し話し合ってみましょう」


「その方がいいだろうな。私は味方に付くわけにいかないが……」


「コウさんにはコウさんの立場があるでしょう。これは商業ギルドと錬金術師ギルドの問題ですのでお気になさらずに。それに、商業ギルドマスターのお考えも一理あると思いますので」


「わかった。この話は止めておこう。それで、私の娘たちへの指導だが、どうなるのかな?」


「それが非常に悩ましいところです。まさか、錬金術師ギルドのギルドマスターがギルドをいつまでも放置するわけにも参りません。かと言って、僕にとって優先順位は弟子の育成が遙かに上。ままならないものです」


「娘たちのことをそこまで考えてくれていることを聞けただけで私は満足だが、当人たちは納得すまい?」


「はい! 納得できません」


「すみません。ボクもちょっと……」


「ですよね。なにか落とし所を見つけたいところです」


「あら、そんなに錬金術師ギルドが気になりますか? スヴェイン様」


「アリア、どういう意味でしょう?」


「錬金術師ギルドの優先順位的に考えてそんなに気にするものでもないでしょう、ということです」


「それはそうですが。かと言って大任を任せられている以上、後任が見つかるまではなんとかしないと」


「そうですの? では、私の方から解決案を提示しますわ」


「解決案ですか?」


「アリア先生、どういうことですか?」


「ボクも気になります」


「簡単な話です。今は魔法の基礎を教えている段階です。魔法の方は少々覚えが悪いですので、まだこの街を離れるのは不安です。ですが、魔法の練習ばかりではふたりもつらいでしょう。ですので、これから二週間ほどは魔法の練習日を二日、錬金術の練習日の一日のサイクルでこなして参ります」


「……魔法の方が多いのです」


「うん、アリア先生も厳しいね」


「ふたりが成長すればいいだけの話ですよ。ふたりの練習日にはスヴェイン様はフリーになります。その間に錬金術師ギルドの様子を見に行かれてはいかがでしょうか?」


「……そうですね。それがいいでしょう」


「スヴェイン先生も厳しいのです」


「ボクたち、魔法も鍛えなくちゃいけないからね」


「あなたたちが頑張れば練習サイクルは考え直してあげますわ。……というわけですのでコウ様、申し訳ありませんがまた二週間ほど滞在期間を延ばしていただけますか?」


「構わんよ。娘たちのためだ。できるだけ長く留まっていてほしい」


「そうおっしゃいましても、この二週間が本当に限界です。ですから、魔法の基礎をきちんとできるようになっていただかないと宿題をこなしていただけませんもの」


「アリア先生、本当に厳しいです」


「ボクもそう感じるけど、仕方がないよ」


「あなたたちのためですわ。そういうわけですので、明日は錬金術の修練を久しぶりにつけてあげてくださいませ」


「そうですね。この十日間は完全に錬金術師ギルドにかかりきりでした。ふたりの腕前が衰えていないか、確認のためにも明日はしっかりと教え込むとしましょう」


「やりました! 久しぶりにスヴェイン先生の指導です!」


「うんうん! ボクたちが最高品質マジックポーションを作れるようになったところをしっかり見てもらわなくちゃ!」


 ふたりもやる気全開ですね。


 これは明日が楽しみです。


 ……実際問題、明日はギルド評議会としての査察が錬金術師ギルドに入る予定です。


 そのため、僕にはギルドにこないようにとの指示が出ているので助かりました。


 査察では錬金術師たちの適性を見極め、いまだに古いポーションしか作れない錬金術師は破門するか一からやり直すかを選択させるそうです。


 ギルド評議会の見立てでは、そういった者たちほどプライドが高いため街を去るだろうということでした。


 ギルド評議会としては僕の行った改革を邪魔させず、更に風通しをよくしてやろうという考えなのでしょう。


 助かりますが、あまりやりすぎないでもらいたいですね。


 僕はともかく、ミライさんに危害が及ぶと危ないですから。


 明日のうちにミライさんへ支給するローブは作って渡しましょうか。

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