651.滞在一日目:シュミットお店巡り:ジュエリーショップ・魔道具店・錬金術道具店・本屋編
さて、服屋で思いがけない逸品を手に入れた僕たちですが、お店巡りは続きます。
サリナさんも合流して。
「サリナ。あなた、ほかの服屋は?」
「えーと、午前中の間にめぼしい服屋はすべて見てしまいました。その中で気になったのがあのお店で、一時間以上ショーウィンドウ前に居座ってしまい……」
「お店の迷惑も考えなよ、馬鹿姉」
「ごめんなさい……」
「まあ、あなたの〝成果〟は夜にでも確認させていただきましょう。スヴェイン、次はどこに向かっているの?」
「ジュエリーショップにでも。皆には興味がないでしょうが」
「そうですわね。アクセサリーはスヴェイン様が作るもので事足ります」
「私もスヴェインが作ったものじゃなくちゃ嫌」
「私はメイドですので」
「私には早すぎるのです」
「ボクもかな」
「私もお仕事の邪魔になりますし……」
「まあ、エンチャントがどの程度かかっているかの確認くらいですよ。あとは、宝飾ギルドマスターへおみやげにできるものがあるかどうか」
「……あ、セシリオ様へのおみやげを買いそびれている」
「それもまたあとで見て歩きましょうか」
「うん、ごめんなさい、スヴェイン」
「気にしない気にしない。アクセサリーショップはあそこがよさそうです」
僕たち一行は表通りに面した一流アクセサリーショップに足を踏み入れました。
店員たちは一瞬怪訝な顔をしますが……僕とアリアの顔を見た途端、店の奥に駆け込んでいきましたね。
……悪いことをしてる気分です。
「ようこそ、スヴェイン様、アリア様。当店にはどのようなご用件で?」
「いえ、このお店ではどのようなエンチャントをかけたアクセサリーを取り扱っているのかと考えまして」
「はい。お店の前で妖精たちが飛び交っていましたもの。相当な腕の職人がいるはずですわ」
「……さすが目が肥えていらっしゃる。そのアクセサリーはおふたりが?」
「いえ、コンソールにいる宝飾ギルドマスターへのおみやげです。本場シュミットの技、見せつけてあげないと」
「なるほど……それは責任重大だ。軽々しく考えていましたが想像以上の大事、お許しください」
「気にしませんよ。それで、ちょうどよさげなアクセサリーはありますか?」
「はい。指輪とブローチがひとつずつございます。いま準備させますのでしばしお待ちを」
店主が指示を飛ばすと厳重な水晶の箱にしまわれた宝飾品が二点、僕たちの前に運ばれてきました。
「これがそれらの品です。指輪は【自動サイズ調整】も入ってしまっているため厳密には七重ですが、ブローチは八重でございます」
「ふむ……宝石の種類を増やすことでエンチャント枚数を増やしましたか」
「さすがはセティ様のお弟子様。宝石とエンチャントの関係性もご存じでしたか」
「一通りは。どちらの指輪も【自己修復】【エンチャント強化】はかかっていますよね。ほかは?」
「指輪は【自動サイズ調整】【全属性魔法強化】【全属性魔力消費減少】【魔法使用時魔力回復】【魔法使用時魔力吸収】【魔力急速回復】でございます」
「完全に魔法一辺倒ですね。ブローチは?」
「はい。【生命力増強】【生命力急速回復】【負傷急速回復】【反射神経向上】【疾病無効】【呪い無効】でございますよ」
「こちらは体力系ですか。組み合わせて使う前提ですね」
「そうなります。どちらも上級エンチャントばかりの組み合わせ、それも宝石を選ぶ組み合わせでございますがいい道しるべになるかと」
「わかりました。買いましょう。おいくらですか?」
「あわせて白金貨二百枚でございます。大丈夫でございますよね?」
「もちろんです。会計は奥の部屋で?」
「ええ。宝石箱もそちらでご用意いたします。宝石箱も魔法錠がかかり各種防護結界がかかる逸品でございますよ」
「至れり尽くせりですね」
「当店自慢の逸品でございますから」
会計を済ませて戻るとアリアやユイも『将来の勉強になるから』といくつかの宝飾品を買い、ニーベちゃんとエリナちゃんさえ『エンチャントの勉強になるかもしれません』と言うことで初歩的なエンチャントが施されたアクセサリーを数種類買っていました。
サリナさんはさすがに値段が高すぎて手が出ないようですが、皆研究熱心です。
宝飾品店を出たところでお店巡りを再開、ユイは早速服飾ギルドマスターのおみやげに出来そうな商品を取り扱っているお店を見つけて僕がそのお店の商品を購入。
エンチャントが十重とかかかっているマギスパイダーシルクのコートを見て心が折れないでしょうか?
その次は僕の魔法道具店巡りですが……こっちはあまり芳しくありませんね。
正確には僕が作ってしまう方が性能がいいのです。
弟子たちは初めて見る魔導具に興味津々なのですが。
「うわあ! 火の出ないランタンだって!」
「こっちは井戸水に入れておくだけでゴミや雑菌を浄化してくれる魔導具なのです!」
「あと……」
「あっちも……」
「ニーベちゃんとエリナちゃんは元気だね」
「スヴェイン先生、師匠としていくつか買って差し上げなさいないな」
「師匠として買わないでも勝手に気に入ったものは会計を済ませてますよ」
「スヴェイン様も今後発展させるためにいくつかお買い上げになっては?」
「大抵の魔導具が僕と師匠の研究成果から生まれた発展系ですが……その系譜とは違うものもありますし、いくつか買いましょう」
そういうわけで僕もいくつかの魔導具を購入。
帰ったらこれを発展させて……壊れないようエンチャントでガチガチに固めた上で錬金術師ギルドに設備として置きましょうか。
魔道具店が終わったら弟子たちの希望で錬金術道具店に足を運びましたが、こちらは満足できなかった様子。
いわく、自分で作った方が早いと。
店主も僕の顔を知っており、僕の弟子だと紹介しているので『それならそっちの方が早いでしょう』とあきらめ顔でした。
なんだか、申し訳ありません……。
最後はアリアの希望で立ち寄った本屋なのですが……アリア以上に目を輝かせていたのがサリナさんでした。
「うわあ……本の種類ごとに整頓された陳列棚……どこになにがあるかもすぐわかる……」
「サリナ、気になる本があるのでしたら読んでみなさい。その上で、デザイン見本や教本になりそうなものは片っ端から買って構いません」
「え、でも。わたし、そこまで大量のお金は……」
「ここはシュミットです。シュミットの本は安く手に入ります。ついでに言うなら私がおごりますよ。師匠にいい顔をさせなさい」
「ありがとうございます!」
あちらは大丈夫そうですね。
本命のアリアはどうでしょう?
「アリア、お目当てになりそうな本は見つかりましたか?」
「そうですね。やはりセティ師匠の系譜が強いです。それでも独自進化を遂げている本が何冊かありますし、それらは買って帰り研究対象にいたしましょう」
「それはよかった。僕は錬金術分野のところに行って弟子たちがなにをしているか見てきます」
「ええ。こちらはお構いなく」
さて、アリアは大丈夫ですね。
そうなると、問題はニーベちゃんとエリナちゃんですが、おとなしくしているでしょうか?
「あ、先生なのです」
「シュミットの本って読んでいて面白いですね」
「そうですか?」
「はい。セティ様の本よりもわかりやすく書かれているのです。内容は……薄いのですが」
「読み比べると違いがわかります。錬金台の作り方とかも参考資料にはなりそうです。……先生に教えてもらったことの方が詳しくてわかりやすいのですが」
「ふたりとも、本を褒めるか貶すかどちらかにしなさい」
「ともかく、気になった本は買っていくのです」
「そうですね。コンソールで買おうとすると高そうですし」
「高そうではなく、確実に高いですよ。輸入品になるんですから。種類も限られますし」
「なるほどです。では、時間の許す限り目を通しましょう、エリナちゃん」
「そうだね、急ごう、ニーベちゃん」
ふたりは速読で本を読み始めたので放っておいても大丈夫でしょう。
僕は魔導具学のコーナーへとやってきました。
やってきましたが……。
「うーん、いまいち魔導具学は進歩していませんね。難しいから敬遠されているのかセティ師匠があまり手を貸さなかったのか」
どちらにせよ、僕が国を出奔してから今年で七年なのです。
この内容はいただけませんね。
ああいえ、僕が古代遺跡からいろいろな魔導具を発掘して復元したせいかもしれませんが。
「面白そうなのは……これとこれ、それにこれ、あとはこれ。この四冊くらいですか」
どうにも魔導具はハズレです。
僕の求めている基準が高くなりすぎているんでしょうかね?
お会計をしようと店員のところに本を持っていけば、文字通り山のように本を持った弟子ふたりとサリナさんにユイの姿がありましたし、アリアもそこそこの冊数を持っています。
やっぱり、僕の基準がおかしいのでしょうか?
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