1015. トラージュに下す処分
「ふむ。そこまで厄介者なのか、その男は」
リッタール村の村長を連れ、ジェラルドさんに会いにきました。
商業ギルドマスターにも同席してもらっています。
さて、どうしましょうか?
「どうにも、村長さんの言う限りでは、そのような行為を繰り返している男のようです。少なくとも、今回コンソールに潜り込んだように一国の大使を名乗って国に入り込むのはいつものことらしいですね」
「なるほど。しかし、そんな男に我々が関わる必要があるのか?」
「正直に言えばありません。ですが、ここで野放しにしてシュベルトマン侯爵に迷惑をかけたくはないですし、今度はコンソールの関係者を名乗る可能性もあります」
「うーむ。物理的に排除することは?」
「コンソールの法的には不可能です。いまの彼は脱獄囚ですが、最高刑でも鉱山送り止まりです。重犯罪者の烙印押しもできません。鉱山送りにして真面目に働くならそれもまたいいのですが、彼の性格的にまったく働かないでしょう」
僕の説明を聞き、一同困り果てた顔をします。
もう一度、村長にトラージュという男の性格について話してもらいましたが、ジェラルドさんも商業ギルドマスターも呆れるばかりで声が出ません。
それほど厄介な性格なのです。
よく生き残れたものですね。
……本当に、よく生き残ってきましたね?
街を移動するときにモンスターに襲われたりはしなかったのでしょうか?
「ああ、トラージュは村一番の剣術使いでもあったんですよ。『職業』こそ生産系でしたが、戦士系の者とも遜色ない戦いができるほどでした。街や村を渡り歩く際には、冒険者として護衛を引き受けるなどしていたようです」
なるほど、冒険者。
それなら名もなき村を追放された村人でも職にありつけますし、腕がいいならランクも上がります。
ランクを上げれば護衛依頼で商人などと一緒に各地を渡り歩くこともできますか。
なかなか抜け目のない。
「ティショウさん、トラージュの持ち物に冒険者証はありましたか?」
「確かにあったな。Dランクの冒険者証だった。今回、脱獄なんて騒ぎを起こした以上、冒険者資格は剥奪だがな」
ふむ、剥奪ですか。
そうなると、ますます彼を野放しにできません。
ひとりで拠点を変えられるほどに強ければ問題ないのですが、冒険者ランクがD止まりならそこまでの強さはないでしょう。
まして、脱獄をしたとなれば、持ち物はすべて没収、装備も買い直しになります。
しかし、装備を買うにも所持金から罰金を支払わなくてはならないので、金銭はほとんど残らないでしょう。
そうなると、さらに厄介なのは……。
「裏社会に流れ着くこと、ですね」
「うん? 新市街はスヴェインの知り合いの女ボスがしきってるんじゃねぇのか?」
「彼女の影響力がおよばない範囲もあるらしいのです。いわば、モグリの勢力ですね。トラージュがそのような勢力に加われば、新市街の治安が悪化します」
「ったく。本当に面倒くさいヤロウだな!」
「本当にそうですね。これでもう少し余罪があれば、重罪人の烙印を押せるのですが」
今回ばかりは考え方が過激になっていますが、仕方ないと割り切りましょう。
性格を想像するだけでも厄介な相手、まともに相手をしたくはありません。
これがモンスターなどでしたら、切り捨てて終わるのですが、人間相手だとなかなかそうもいかず。
これも法の規制をかいくぐる小悪党のやり方ですね。
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