1014. トラージュの脱走
本当にろくでもない男なのですが、放置すればまた同じことを繰り返すでしょう。
できることならば、そうなる前に手を打ってしまいたいところです。
しかし、コンソールも法の支配によって成り立っている国、厄介者という理由だけで排除するのは難しいのです。
どうしたものか。
「お邪魔するぜ、スヴェイン! 一大事態だ!」
その後も村長と話を続けていたところ、ティショウさんが乗り込んできました。
一体なにがあったんでしょう?
「トラージュのやつが脱獄した! あいつ、衛兵に大怪我を負わせて脱獄したらしい」
「衛兵に大怪我を……。それは困りものですね」
「ん? それだけのことをすれば、鉱山送りじゃないのか?」
「ああ、鉱山送りなのは間違いないんですが、彼の場合はそれで反省せずに働こうとしないでしょう。働かねば食事も与えられないので餓死するだけでしょうが、わかりきっていることをするのもちょっと」
本当にどうしましょうかね。
鉱山送りにしても、自分は貴族の出身だと言い張って働かないでしょう。
それでいて食事は人一倍取ろうとするでしょうから、ほかの囚人といざいざを起こすことは確実です。
そんなところに、火種を放り込むわけにもいきません。
なにかいい方法はないですかね?
「……とりあえず、彼の処遇は彼を捕らえてから決めましょう。彼はどこに逃げましたか?」
「ああ、新市街方面に逃げたらしい。雑踏に紛れて追跡していた衛兵もそこで見失ったそうだ」
「なるほど。いまは新年祝賀祭の真っ最中です。旧市街に遊びに来る新市街の住人もそれなりにいます。その人だかりに紛れ込みましたか」
「どうもそうらしい。どうする?」
「どうもこうもありません。僕たちは、彼が捕まったあと、どうするかを決めてしまいましょう」
「あ? 捕まえに行かなくてもいいのかよ?」
「すでに裏社会のボスの手の者によって捕まっているはずですよ。ギルド評議会に恩を売るためにね」
「ちっ! 本当に面倒な!」
まあ、ボスもあんな小物一匹程度じゃそんな大それた要求はしてこないでしょう。
せいぜい、新市街で支給しているパンを増やすか、新市街で支給するパンを自分たちで製造する権利を求めるかくらいでしょうね。
前者は街が落ち着きし次第提案するつもりのものでしたし、後者はいずれ移していかなければいけない分野です。
ともかく、僕たちは一度ジェラルドさんのところに行って今後の対応をどうするか協議ですね。
治安方面はティショウさんと僕の担当ですが、外交はジェラルドさんと商業ギルドマスターの担当ですから。
担当を通さずに勝手に物ごとを決めてあとから揉めるのは避けたいです。
……本当に面倒くさいですね、あの男は。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます