1013. リッタール村についてもっと詳しく
ワイズの調査結果を基に、もう一度村長と面会をして確認を取りました。
ワイズの調べたことはほとんど間違っていなかったようですね。
「その、調べられた方が何者かわかりませんが、概ねあっております。リッタール国が滅び、追撃の手から落ち延びた者たちが住み着いた場所、そして他国から監視こそされ捨て置かれた場所。それがリッタール村なのでございます」
「なるほど。それでは、本当に貴族や王族の血縁者は逃げこんでいないと?」
「少なくとも『血縁者』と名乗れるような血の近いものはいなかったでしょう。あるいは、身分を隠し、みすぼらしい姿で落ち延びてきたのかもしれませんが、捜索されていない時点で重要人物ではございません」
確かに、それもそうですね。
リッタール村自体は侵略軍にも存在を知られていたはずの場所、有名貴族が紛れ込んでいれば間違いなくその者を捕らえるか殺害するかどちらかを選ぶはずです。
それをしてこない時点で、たいした重要人物ではなく、せいぜい貴族籍を持っていたかも怪しい状態だった者だったと言うことでしょうね。
「それでは、あの男はどうしてそこまで家族の話を信じ込んだのでしょうか?」
「そうですね……トラージュはとある一家のひとり息子でして大変過保護に育てられました。その家では数年前に赤子を失っていたからです。トラージュは元気に育つ一方で、非常に内向的な子どもでもありました。精神的に独善的というか、自分こそが絶対に正しい者であるという前提があり、他者の話を聞かないのです」
……それは困った性質ですね。
子どもの頃からそれでは親御さんは大変苦労していたでしょう。
そのことを、村長に話すと、いいえと首を横に振りました。
「トラージュの一家はそのようなトラージュを愛し、肯定し続けました。その結果として、自分を肯定する者の話は聞くが、自分を否定する者の話は聞かないという愚か者に育ったのです」
なんとも頭の痛い……。
ですが、村にそのような男がいたのでは迷惑なのでは?
「トラージュについては何度言っても改善しませんでしたので、村から追放処分といたしました。あの時も散々口汚く罵ってきましたが、あの頃からまったく成長していませんね」
「それは大変なご苦労を。それで、あなたはどうして彼の引き取りに? それから、彼がリッタール国の大使を名乗る理由は?」
「まず、リッタール国の大使を名乗る理由は、あの男の誇大妄想です。滅びた国の民ならば王は名乗れずとも大使は名乗っても問題なかろうと」
問題がありまくりです。
そんなことをしていれば処刑されますよ。
では、村長が出てきた理由はなんでしょう?
「私が出てきた理由ですか? お恥ずかしながら、あれがリッタール国として私の村を教えて回っているのです。それで、私の村にはたびたび国の使者が派遣されるようになり、国ではないことに怒りを覚えて帰っていき、が繰り返されました。このままでは、いずれ村にも被害がおよぶ恐れもありますので、そうなる前にあの男を取り押さえようとしていた所存です」
こっちはこっちで面倒くさい……。
あの手の輩は本当にろくでもないですね。
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