243.努力の鬼才

「……さて、私もそろそろ稽古をつけていただきましょうか」


 マーガレット共和国から招いた『聖』の皆さんの結果を見せていただいたあと、シャルが遂に動くようです。


「シャルロット様!? 私ではシャルロット様の相手は……」


「リブラに無理は言いません。ジェミニに剣の稽古をつけてもらいにきました」


「はあ、シャルロット様の相手か。俺、負け越しているんだよなぁ」


「今日は子供たちが見ているので〝シュミット流〟はなしです。普通の稽古ですよ?」


「余計勝てませんよ!?」


「ふふふ。見ていなさい、子供たち。例え魔法使い系の『賢者』であっても『剣術師』に剣で勝てるところを」


「「「うん!!」」」


「うう……手加減しませんよ!」


「望むところ。いつでも来なさい」


「うう……シュミット家は後の先を取ってくるから苦手だ……」


 今度は『賢者』シャルと『剣術師』ジェミニ教官の試合。


 ですが、試合は一方的にシャルが押し続け……。


「はい。一本です」


「……だから、勝てないんすよ」


 これには子供たちも大喜び。


 例え魔術師でも剣士に剣で勝てることを証明したのですからね。


 さて、そろそろお暇を……。


「最後はお兄様の番ですよ?」


「僕の?」


「ちょ! ちょっと待ってください、シャルロット様!!」


「無理を言わないでください!! 『シュミットの鬼才』相手じゃ剣も魔法も私たちでかなう相手じゃありません!!」


「あなたたちなにを勘違いしているんです? 『二人同時に』お兄様と相手をするんですよ?」


「……それでもムリっす」


「せめて私たちに冒険者講師三人を加えてください。そうすれば五分は……」


「子供たち。あなた方には難しいでしょうが、努力に努力を重ねた結果というのを見てもらいます。お兄様は錬金術師ギルドのギルドマスターを務める生産系職業。それでも剣、魔法ともに優秀なところを見せてあげますね」


「「「うん!!」」」


「さあ、お兄様。準備を」


 退路を断たれました。


 仕方がありませんね。


 僕はいつもの木剣を取り出してジェミニ教官とリブラ教官に声をかけます。


「さすがに一瞬で勝負がついては子供たちも理解できないでしょう。一分は受けるだけにします。全力で攻めてきなさい」


「……なんで俺らこんな目に」


「耐えなさい。『努力の鬼才』のお相手ができるなんて光栄だと思わないと……」


「リブラはそう思うのかよ?」


「……そう言い聞かせている途中」


 なにやら教官たちが途方に暮れていますが、試合は始まりました。


 さすがはシュミット本国から来ているだけあって魔法と近接、バランスよく攻めてきますね。


 でも……。


「スヴェインお兄ちゃんすげえ!」


「あんなに剣で打たれても魔法を撃たれても全部かわしてる!」


「お兄様でしたらあれくらい当然です。それよりもそろそろ一分ですよ。目を離してはいけません」


「「「うん!!」」」


 じゃあ、行きますか。


「ちょ! ジェミニ!! あなた本当に本気で攻めてるの!?」


「本気も本気だ! なんで俺の本気でそんなに魔法が飛んでいくんだよ!?」


「鍛錬がまだまだ足りません。それでは決着です」


 ジェミニ教官の剣をはじき飛ばし、リブラ教官を軽くはじき飛ばします。


 これで終了ですね。


「見ましたか、子供たち。あれが私たちの国で『努力の鬼才』と呼ばれているお兄様の実力です。……かなり手加減していますけど」


「スヴェイン兄ちゃんって本当はすごかったんだ……」


「私、感動しちゃった」


「俺、あんなにすごい人から剣の素振りを教えてもらってたんだ」


「皆さんの相手はお兄様が自分から好きでやっていることです。学びたいことがあるのでしたら、これからも遠慮なく言うといいでしょう」


「「「はい!!」」」


「よろしい。お兄様、あとはお任せいたします」


「わかりました。子供たち、そろそろ帰りましょうか。努力の大切さはわかったでしょう?」


「「「うん!!」」」


「ではこれからも努力することを忘れずに。さあ、帰りますよ」


 最終的には僕がいいところを持っていくことになりましたね。


 アルフレッドさん、テオさん、すみませんでした。



********************



「なんなのだ、あれは……」


「アタシらが触れることすらできない教官相手、それも二人同時にやってあれかい?」


「想像もできません……」


「一体どれほどの努力を」


「理解する事を頭が拒んでいる……」


「同じ人間だと思いたくない……」


 やれやれ本当に我が国の『聖』どもは情けない。


「貴様ら! あれを見てもなおへばり続けているつもりか!!」


「「「はい!!」」」


「スヴェイン殿の努力は、この私、アルフレッドですら想像できん! その次元の力を見せつけられ、その体たらく! 恥ずかしいなどと言うものではない!!」


「そこまで怒るなよ、アルフレッド」


「さすがに今日は我慢ならん。こやつらには私から居残り訓練だ」


「「「ひぃ!?」」」


「叫ぶ余裕があるなら十分だな。さあ、武器を取ってこい!」


 まったく、性根をたたき直すのにどれだけ時間がかかるのか。


 私の孫が『杖聖』になる方が早いのではないのか?

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