420.エレメンタルロード

 アリアが無事に『エレメンタルロード』となり、ユイが『天』への道をつかみ、弟子たちが焚きつけられ……あとはアリアとの約束も果たした夜が明け、翌日。


 ギルド評議会を休んだ僕はアリアや弟子たちと一緒にカイザーの元を訪ねていました。


 アリアのを確かめるために。


『ふむ。『エレメンタルロード』か。私ですら名前しか知らないな』


「カイザーでもですか」


『当然だ。存在しないとされている時の精霊以外、すべての精霊と契約し転職を果たす。それがいかに大変なことか』


「やっぱりすごいことですか」


「一夜明けてみると実感がわきますね」


「ええ。私もです。それで、カイザー。今の私の、受け止めてください」


『私でも受け止めきれるかわからぬぞ? いざとなったら天に逸らすからな? あと合成魔法ではないよな? あれは竜種障壁を易々貫通するのでやめてもらいたいのだが』


「カイザーに死なれると様々な意味で困りますからね。僕も多重結界を……普段は張らない時空断層結界も張ります」


『それはまったく安心できないぞ?』


 まあ、時空断層結界……わかりやすくいうとを使うなんて『時間の壁を突き破ります』と宣言していますからね。


 カイザーでも怯えるのは無理もない。


『それで、なんの的になればよい?』


「精霊魔法。その最上位版、の的に」


『……逃げてもよいか?』


「『竜の帝』として命じます。おとなしく的になりなさい」


『わかった。スヴェイン。時空断層結界、何重まで張れる?』


「五重ですかね?」


『では、全力で頼む。私も全魔力を集結させて壁を作る』


 それにしても『エレメンタルロード』の『精霊圧縮砲』ですか。


 どれだけの威力が出るのやら。


「先生、精霊圧縮砲ってなんですか?」


「聞いたことのない魔法? 技? とにかく知りません」


「精霊使い系職業の切り札です。契約している精霊たちに魔力を送り、その力を借り受け、圧縮して放つ。単純で力任せですが、それ故に威力の高い攻撃方法ですよ」


「先生、それを見たことがあるんですか?」


古代竜エンシェントドラゴンとの戦いの時に一度だけ。あのときでさえ鱗を砕き、角を砕き、血しぶきを上げさせて古代竜エンシェントドラゴンが逃げ帰ったほどでした。さて、今回はどれほどの威力になるのやら」


 あのときは『エレメンタルマスター』でした。


 借りる事ができた精霊の力は基本属性四属性に上位属性一属性、今回はいくつ借りられるのか。


「それではカイザー。準備と覚悟は決まりましたか?」


『う、うむ。これでも前『竜の帝』だ。かかってくるがよい!』


「では、精霊たちよ力を!」


『ぬう!?』


「あ、これはまずい」


 アリアの周囲に集まった光の色は


 つまり、すべての精霊が一度に力を貸してくれたわけで……。


『スヴェイン! 時空断層結界、五枚では足りぬ!!』


「わかっています! エリクシールを飲んで九枚張ります!」


 その言葉通り慌ててエリクシールを取り出して飲み干し、カイザーの前に時空断層結界を九枚作りあげました。


 これ、どれくらいもちますかね?


「魔力チャージ完了。精霊圧縮砲、発射!」


「うわー、チャージ時間も短いですよ?」


『暢気なことをいうな! 現帝!』


 アリアの精霊圧縮砲は僕の時空断層結界に衝突し……なんの抵抗もなく次々貫通。


 七枚目まで軽く突き破り、八枚目でようやく少し貫通速度が遅くなりました。


『みかどー!』


「はいはい。追加の結界、張りますから」


 エリクシールで回復した魔力と結界が破壊されて維持の必要がなくなった分の魔力を回し、更に五枚の時空断層結界を追加。


 ああ、でも、これが焼け石に水というやつですかね?


『みかどー!?』


「もう間に合いませんからカイザーが受け止めてください」


『わ、わかった!』


 カイザーの巨体が動き全力で各種障壁を展開しました。


 でも、これもまた焼け石に水というやつで。


『障壁、意味がない!?』


「あー。精霊圧縮砲って障壁貫通効果高いですもんね」


『みかどー!!』


 精霊圧縮砲はカイザーへとぐんぐん迫り……その身をかすめて天高く飛び去っていきました。


 うん、直撃していたら即死ですね。


「ふむ。カイザーですら耐えられませんか。私の精霊圧縮砲も禁じ手ですね」


『こ、怖かった。命の危険を感じたことはなかったぞ。死にかけたことは一度あったが』


「アリア、精霊圧縮砲をコントロールできるのならカイザーを的にしなくてもよかったのでは?」


「いえ、古代竜エンシェントドラゴンの障壁をどの程度破壊できるのかは知っておきたかったので」


『私はそのためだけに命の危険を……』


「カイザー、あとで世界樹の実をあげます。堪能してください」


『う、うむ。それと、魔力が枯渇した。しばらく聖獣の泉で回復してくる。この地の守りは最上位竜たちに任せる。任せるが……あんな真似はするなよ! 絶対だぞ!?』


「そんなことはしませんよ。『エレメンタルマスター』の時点で古代竜エンシェントドラゴンに手傷を負わせられたのです。もう用事は済みました」


『そ、そうか。それから……』


「僕のところにも竜言語で催促が来ています。怖くて近寄れないから早く帰ってほしいそうですよ」


「失礼な。十五歳の可愛い……もう乙女ではないので人妻に」


「アリア先生、自重を覚えるのです」


「ボクたちでもやり過ぎだってわかります」


「そうですか? ともかく、用事は済みましたし帰りましょう」


「反省していないのです……」


「ボクたちより酷い……」


「あなたたち、アリアの悪いところは似ちゃダメですよ?」


 この日以来、カイザーは一週間も聖獣の泉につかりっぱなしでした。


 魔力が回復しなかったのか、恐ろしくて出られなかったのかはわかりません。


 どちらにしてもアリアがやり過ぎたことだけはわかります。


 春の訪れももうすぐだというのに……とんだ爆弾がまた増えました。

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