シュミット公国誕生

153.両者への沙汰と後継者問題

「よくぞやってくれた、シュミット辺境伯。これで内乱も治まる」


 お父様に話しかけているのは少しだけ元気を取り戻したギゥナ王。


 聞けば王弟派の貴族たちは全員独房へと閉じ込められているとか。


 明日にも沙汰は下り、全員の一族郎党斬首刑が確定しているそうです。


 貴族というのはやはり怖いですね。


「そんなことはどうでもいい、ギゥナ王。頼んでいたことはきちんと果たしてもらう」


「わかっている。シュミット辺境伯一派の領地を独立国として認めることだな。明日はそれも含めて発表しよう」


「よろしく頼むぞ。それでは、王家直轄軍の軍旗、確かに返還した」


「うむ、確かに受け取った。しかし、後継者問題はこのあともついて回るな……」


「知ったことではない。王太子もこれだけ国を荒らしたのだ。欠格と言えば欠格だな」


「……やはり、そう感じるか」


「当然だ。だが、第二王子はすでに国外へと政略結婚で出ており、第三王子はあの始末、残るはまだ幼い第一王女だぞ?」


「うむ……そうなると、どうしたものか」


「それを考えるのも為政者の務めだ。ともかく、明日の公開裁判までは我々もこの国に留まる。そのあとは、王都の屋敷を整理してシュミットへ帰るのでそのつもりでな」


「わかった。……頭が痛い」


 ギゥナ王は本当に困っていらっしゃいますね。


 僕が手出しする問題でもないので、手は貸せませんが。


 シュミット辺境伯領が独立国になるのであれば、グッドリッジ王国は隣国となります。


 安定した政治を行っていただかなければ、こちらとしても困りますよ。



********************



「以上の理由を持って我が弟、フィシァーおよびこの国に内乱を引き起こした貴族には一族郎党斬首刑を言い渡す。異議はあるか?」


「兄上、あるに決まっている! 王家直轄軍と名乗っていたが実際にはシュミット辺境伯の軍だ! それを使い我々を貶めようとは……」


「今回の件ではと引き換えにシュミット辺境伯の力を借りた。それだけに過ぎぬ」


「おのれ、兄上……」


「異議はそれだけか? ならば刑を執行する!」


 ギゥナ王の宣言の元に次々と貴族たちの首が切り落とされていきます。


 アリアを連れてこずに本当によかったですね。


 それにしてもギゥナ王のいる一角ですが、ギゥナ王と軍務卿しかいません。


 宰相殿や王太子殿下はどうしたのでしょう?


「ここにいない反逆者の一族どもは国王軍が威信にかけて発見し捕縛、刑を執行することを約束しよう。そして、次に私の後継者だが……」


「父上! 私をそちらの席に通さないとは何事ですか!?」


 一般観客の入り口から現れたのは王太子殿下、後から続いてくるのは……宰相殿でしょうか?


「それについて発表しようとしていたところだ。大人しく待て」


「待てなどしません! 王城へと凱旋しようとすれば衛兵に止められ、王族や貴賓の入場門はおろか貴族門からも入場出来ない始末! 一体なにをお考えか!」


「では、話そう。第一王子シュラウド、および宰相リディガ。お前たちには内乱拡大の責として王族および貴族名鑑より除外する。好きな場所に失せるといい」


「な、なにをおっしゃいますか! 私は逆賊フィシァーを討ち取るために……」


「内乱を拡大させた。そうだな」


「いや、それは仕方のないことで……」


「実際に内乱が起こったあとの数カ月でこの国の国力がどれほど衰えたと考えている? その犠牲者の数は? どれだけの戦費を使った?」


「それは……」


「しかもお前は王室から宝剣リヴァイアスを持ち出しているな。それはどこにある?」


「もちろん私が持っております!」


「ではそれを置いて立ち去れ。一般市民が持っていてよいものではない」


「なにをばかな!」


「くどい。衛兵よ、そのものたちを捕らえよ!」


 衛兵数人がかりで元第一王子と元宰相は取り押さえられました。


 元第一王子の持っていたマジックバッグから宝剣とやらも無事に回収できたようですね。


 ちらっと確認しましたところ、多少水属性の魔法強化能力がついているだけのオモチャでしたが。


「……以上のように元第一王子も我が後継者として資格不十分とした。そしてまた、私もこの混乱を招いた責任を取らねばなるまい」


 この発言に会場は一気にざわつき始めます。


 それはそうでしょう、今この国に国王の後を継げるものなどいないのですから。


「私の後継者は我が娘セルンとする! だが、セルンは幼く国の舵取りは不可能。故にこの国の宰相としてソーディアン家当主を迎え入れ、同時に女王としての教育を施してもらうこととする!」


 会場に広がるのは困惑の渦です。


 ソーディアン家が国政から距離を置いているのは一般国民ですら知っている事実なのですよね。


 そのソーディアン家をいきなり宰相に抜擢するとなれば、困惑するなというほうが難しいでしょう。


「静まってほしい。私がソーディアン家当主ガベルだ。いきなり我が家が宰相として抜擢されたことに困惑することも無理はない。私とてこの場に立つとは考えてもみなかったからな。だが、今はそんなことも言っていられぬ非常事態。国の再建のためにソーディアン家も積極的に力を貸すこととした。国民諸君もどうか今一度力を貸してほしい」


 ソーディアン家当主の登場に会場は静まりかえり、そのあと歓声が巻き起こりました。


 ひとまず最初のアプローチは成功したと言えるのでしょう。


 このあとはまあ、頑張っていただきたいものです。


「そして、最後となるが今回、内乱の鎮圧に多大な貢献をしてくれたシュミット辺境伯家だが我が国から独立しシュミット公国となる。今後はシュミット辺境伯領およびその周囲の領地は隣国となるが、仲良くやっていきたいものだ」


 最後に発せられた爆弾発言。


 一番の混乱が巻き起こりましたね。


 もっともシュミット辺境伯家、もとい、シュミット公国公家はその騒ぎを気にせずに刑場をあとにするのですが。

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