コンソールに吹く風
314.『第二位錬金術師』の風
「やってしまった……」
私、シュミット錬金術講師ことユキエは、ウエルナさんたちのご厚意でコンソール錬金術師ギルド本部に出向することになりました。
なのに、スヴェイン様へ自己紹介する途中で泣き出して、そのあとは婚約者でサブマスターのミライ様になにか思いつく限り、自分でも訳のわからないことを話した気がして、目が覚めたらもうお昼過ぎ。
これじゃあ、本当に愛想を尽かされてしまう……。
「ユキエさん、もう起きられましたか?」
「はい!」
この声はミライ様だ!
スヴェイン様よりはいいけれど……どうしよう?
「失礼しますね。うん、お顔の色も大分よくなってます」
「あの、私、そんなに酷い顔色をしていましたか?」
「最初はわかりませんが、私と話し始めた的は真っ青でしたよ?」
「……すみませんでした」
ああ、だめだ、どうしよう。
これじゃあ、スヴェイン様にあわせる顔が……。
「スヴェイン様は本日午後からおやすみです」
「へ?」
「お弟子様……『カーバンクル』様方の訓練を確認に行きました」
「ええと……」
困った、私、お仕事がない。
「とりあえず落ち着かれたのでしたら、ギルド本部内を歩いてきてはいかがでしょう?」
「え?」
「スヴェイン様も特に指示は……ああ、いえ。あなたの好きにさせてください、とだけ指示を出していきましたので、とりあえず今日は本部内を歩いて見て回るだけでもいいのでは?」
「あの、お邪魔では?」
「そんなことはないと思います。『新生コンソール錬金術師ギルド』の風、体で感じてきてください」
「は、はあ?」
とりあえず、私はギルドマスタールームを出て一階まで降ります。
その階には『第二位錬金術師』と『一般錬金術師』のアトリエがあるとか。
ミライ様の説明によれば『一般錬金術師』は高品質マジックポーションが安定した程度の腕前、『第二位錬金術師』は更にその上、最高品質マジックポーションが安定した程度の腕前らしいです。
ただそれだけだと、ギルド支部もあまり変わらないような……。
「ん? あんた、見かけない顔だな?」
「は、はい!?」
廊下で錬金術師のローブを着た人に呼び止められました。
ミライ様の説明ではこの色は第二位錬金術師のはずですが……なんだか雰囲気が全然違う!?
「ん? そのローブってシュミットの講師の方か?」
「は、はい。本日付でしばらくの間ギルド本部に出向することとなったユキエです!」
「そっか! それはちょうどよかった!」
ちょうどいい?
なにがですか?
「いや、俺たちいまだにミドルポーションで苦しんでるんですよ。作り方の実演をお願いできますか?」
「え、あ、はぁ。実演だけでいいんですか? ミドルポーションなら講義も……」
「実演だけでいいです。あとは俺たちでやりますから」
「あ、はい」
やっぱり、私、必要とされてないのかな……。
私は第二位錬金術師の方と一緒にアトリエへ。
そこでは、同じ色のローブを着た人たちが熱心にミドルポーションを作ろうと研究していました。
でも、その方法じゃ……。
「おーい、お前ら。シュミットから来てくださってる錬金術師の方を連れてきたぞ!」
「本当か!? でも、シュミット講師陣ってギルド支部の専属だろう、なんでここに?」
「あ、はい。私、今日からしばらくの間こちらでお世話になることに……」
「本当ですか!?」
なに、この熱気!?
一気に空気が変わったんだけど!?
「ああ、本当らしい。これでギルドマスターや『カーバンクル』様方のお手を煩わせずにミドルポーションの実演をしていただく機会が増えるぞ!」
「よっしゃ! これでまた一歩先に進める!」
「進めば進む程、ギルドマスターや『カーバンクル』様方の背中は遠のくばかりだもんな! 一歩でも追いつかないと!」
「あの、実演だけじゃなくて講義もできますよ? あなたが……」
「いや、講義はいらないです」
「俺ら、ミドルポーション以上は自力でたどり着くって決めたんで」
え?
自力でたどり着く?
私も師匠から教わったのに?
「それではこの席にどうぞ」
「水ってどうします? 俺らが作った魔力水から使いますか? それとも蒸留水から?」
「ええと、それじゃあ蒸留水を。さすがに蒸留水なら品質のブレはないはずなので」
「……よし。蒸留水はやっぱり問題ないな」
「さすがにここで躓いてたら笑えねぇ」
なに、なんなの!?
「ええと、魔力水はこう作ります」
「……うん、魔力水もあまり変わらないな」
「ギルドマスターや『カーバンクル』様方とは違うが流派の差だろう。色もほとんど一緒だし」
「ここまではほぼ間違いなしか」
え、もしかして技を盗まれてる!?
「次に霊力水は……こう」
「なるほど。ここで差が出るか」
「俺たちは魔力水のやり方のまんまだったからな」
「魔力水とは逆手順か。同じ手順でも一般品質安定するから気にしたこともなかった」
やっぱり、たった一回で技を盗む気だ!?
「すみません。ミドルポーションまで見せていただいていいですか?」
「あ、ごめんなさい。ミドルポーションは……こう」
「……魔力の流し方からして俺たちとは別物だ」
「俺たちは結構力任せだったからな」
「ひょっとしてそれで魔力が行き詰まるのか?」
「もっと繊細に試すか?」
「だが、それだとポーションの反応時間内に魔力を注ぎ込みきれないぞ?」
「ああ、そうか……すみません、もう一度お手本を」
「あ、はい。ただ、中位以上のポーションは個人のやり方で少しずつ癖が変わります。私のやり方が皆さんの最適解とは限りません」
「あーやっぱりそうか」
「そんな気はしてたんだ」
「全員頭を付き合わせてもやり方がまるで違うもんな」
なに、この子たち!?
支部の人間とはまったくやる気が違う!!
「ええと、本当に作り方は教えなくてもいいんですか?」
「申し訳ありませんがお断りします」
「多分、俺たちがどうしてもダメだと判断したらギルドマスターが教えに来るはずなんで、それまでは俺たちだけで研究です」
「ポーションの最高品質まではおんぶに抱っこだったけど、さすがにこっから先はそれじゃダメだと感じるんで」
「教えたい……」
「はい?」
「あなた方みたいな生徒に教えたいです!」
「あー、でもすみません。俺たちは教わりません」
「もう決めちまったんで」
「自力でもがいて這いつくばってでも進むって」
ああ、これがここの風なんだ。
ギルド支部に流れている生温い風なんかとはまったく違う。
「ところでお手本は大丈夫ですか?」
「はい! 何度でも見ていってください! それで私程度の技、すべて盗んじゃってください!!」
「あ、やべえ。俺たちが技を盗もうとしたのばれてる」
「いや、バレバレだろ、さすがに」
「でも許可は出たんだ。しっかりと盗ませてもらおうぜ」
ああ、もう!
たった一カ所、たった一回!
それだけでここまで変わるんですか!!
楽しみになったじゃないですか!!
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