427.上級付与向けの『カット』
弟子ふたりはサンディさんが新しい技術を教え込んで数日間、毎日彼女を連れ込んで魔法研磨の練習をしていたようです。
その間もサンディさんは技を盗まれたらしく陰で泣いていたとリリスから報告が。
ニーベちゃんもエリナちゃんも止まらないでしょうし……宝飾ギルドの講師陣に少し教えてもらうべきでしょうか?
ともかく、今日は僕がふたりに研磨の方法、宝石の仕上げ『カット』の仕方を教えます。
「ふたりとも。教本は準備できていますね」
「はいです。というか……」
「今渡してもらったばかりですよね?」
「はい。それで、魔力は流しましたよね?」
「魔力……まさか?」
「はい、それも魔本の一種。持ち主本人にしか読めない本です。また、内容も持ち主のレベルにあわせたものしか読めません。先に進みたいのでしたら頑張ってください」
「「はい!」」
「それでは、この本の説明です。この本には魔宝石を作るための『カット』の仕方が載っています」
「魔宝石用のカット、です?」
「それって普通の宝石とは違うんですか?」
「大雑把には似ていますが細かく違います。注意してみないとわからないような部分、注意したとしてもわからないようなところのカットの仕方が変わります。普通の人が見てもカッティングに失敗して欠けたんだろう、程度にしか感じないでしょうね」
「それってどういう効果があるのでしょうか?」
「わかりやすく言うと宝石自体が魔法陣になります。その中にあらかじめ適切な魔法と魔力を込めることで『魔宝石』とするのです」
「『ライト』とかの魔宝石とは違うんです?」
「まったく異なります。あれは宝石の中に魔法の術式を込めただけ。なので魔力を送り込むことで魔法が発動しました。今回は魔法と魔力をあらかじめ封じておきます。そのために必要な技術は昔教えていますよ?」
「あ、『宝石保護』と『圧力分散』です!」
「正解。そのどちらか一方が欠けても、効果が弱くても宝石が内部から砕け散ります。サンディさんを呼んで魔法研磨を徹底的に教え込んでいたのは、適切なカッティング技術を教え込むためでもありました」
「ちなみに、その魔宝石ってどんな効果が得られるんでしょう?」
「まず最初に、武具錬成に組み込めば使い捨てではなくなります。短時間で何度も使って無理をすれば砕けますが、間を置きながら使えば壊れることはありません。使い捨ての魔宝石として使った場合も効果は数十倍になります」
「すごいのです」
「取り扱いには十分に注意しないと」
「その慎重さが身についているからこそ今から教えるのです。幸い、攻撃魔法を作っても的はできているみたいですし」
「カイザーです……」
「カイザー、大丈夫でしょうか」
「普通の魔法では小揺るぎもしませんよ。では最初のページ……は注意事項の説明ですので時間があるときに読み返してください。三ページ目からが本題、魔宝石用の一番簡単なカッティングです」
「これで一番簡単、です……」
「一見球面に見えるけど偏り方とか指定されているよ……」
「それでも一番簡単なものですよ? 封じ込められる魔法は各種ボルト系や『マジックショック』くらいですから」
「研磨って言うことは失敗したら終わりです」
「そうだね。まずはしっかりイメージしなくちゃ」
さすがは僕の弟子ふたり、注意しなくても大切なことはわかってくれますね。
サンディさんから技を盗むのは少し手加減してあげてほしいですが。
「……ん、イメージできました」
「僕も。先生、加工する石は何でもいいんですか?」
「初級魔法ですからね。属性違いでも込められます。まずは自分がカットしやすい石で慣れてください」
「はいです」
「わかりました。じゃあ、僕はこの石で」
「私はこっちの石です」
早速とばかりに宝石研磨を始めましたが、さすがに一回目。
わずかとは言え歪みが生じました。
この子たちはそれに気が付きますかね?
「んー、わりといい感じなのですが」
「どっちも失敗作だね。少しずつ見本と違ってる」
「はい、私のは大きくなったところが少し小さいです」
「ボクのは周りを削りすぎた」
ちゃんとそこまで気が付きましたか。
では、失敗したらどうなるかまでみせてあげないと。
「ふたりとも、その宝石に『宝石保護』と『圧力分散』を厳重にかけてください」
「え、でも」
「失敗していますよ?」
「失敗作に魔法を込めたらどうなるかを知るのも勉強です。アトリエに被害が出ないように僕も結界を張っておきますので、ふたりもそれぞれのカーバンクルで結界を」
「はいです。準備できました」
「ボクもです。宝石も大丈夫です」
「よろしい。では、『マジックショック』を極少量の魔力で込めてみせますね?」
僕はふたりの宝石を結界の中に閉じ込めて魔宝石とするための魔力を送り込みます。
すると、大きな炸裂音を上げて宝石が爆発、破片が結界内一面に飛び散りました。
「び、ビックリしたのです……」
「失敗するとこうなるんですね……」
「はい。こうなります。なので、最初の頃は少しでも失敗したと感じたら研磨の練習と考えて魔法は絶対に込めないこと。成功したと思ってもカーバンクルに隔離してもらってから魔法を込めること。いいですね?」
「はいです」
「肝に銘じます」
「よろしい。それでは続きを行いなさい。今日は僕が出来映えを確認してあげます」
「はいです!」
「ありがとうございます!」
少しばかり脅かしすぎましたが……まあ、実際に爆発するのは事実ですから慎重になってもらいましょう。
この日は一度も成功作を作れませんでしたが、近いうちに一個は成功できるかもしれませんね。
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