426.魔法研磨の発展

 父上からの依頼でマジックポーション入り錬金台を作っている最中、我が家のアトリエでは今日もニーベちゃんとエリナちゃんの元気な声が響いています。


「やりました! 翡翠の研磨、成功です!」


「宝石って今まで興味も関心もなかったけど、自分で作れるようになると愛着がわいてくるね!」


「びえーん! このままじゃ本当に私いらない子になっちゃう!?」


 ……サンディさんの泣き声も聞こえてきますが無視しましょう。


 彼女も頑張っているんですが『道歩む者』になってからというもの、ふたりの勢いが止まらないんですよね。


 神獣様は僕の劣化版と申していましたが、実際には『ノービス』の上位版。


 すべてのスキルが満遍なく上がりやすくなり、限界値もかなり高くなっているという垂涎の職業です。


 散々職業優位論を馬鹿にしていますが、道を究めようとするものに取っては職業って大切なんですよね。


「先生、見てほしいのです、この翡翠!」


「とっても綺麗に研磨できました!」


「おめでとうございます。記念にネックレスでも作ってあげましょうか?」


「いいのですか!?」


「是非お願いします!」


 よっぽど嬉しかったのでしょうね。


 普段はアクセサリーなどまったく気にも留めないふたりがアクセサリーに興味を示したのですから。


 僕は少し念入りに彼女たちに見合ったチェーンネックレスを作り、宝石もペンダントトップに加工してあげました。


「うわあ」


「自分で作った宝石……綺麗」


「今後も気に入った宝石ができたら教えてください。アクセサリーに加工してあげますよ」


「「はい!」」


 本当に嬉しいようです。


 興味を示してくれたことは……まあ、よかったと思いましょう。


「そういえば先生。宝石学の本は一通り読んだのですが硬度と入手しやすさ以外にも魔法研磨のしやすさが書いてあったのです」


「はい。それによると、単純に硬い宝石よりも柔らかい宝石の方が研磨しにくいこともあるってなっていました」


「ああ、それは……」


「魔力反応の起こりやすさです」


「サンディ先生?」


「魔力反応とはなんでしょう?」


 サンディさん、急に気を取り直しましたね。


 少しでも先生としての威厳を取り戻したくなってのでしょう。


「魔力反応とはその名前通り魔法に反応してどれだけ削りやすかったり、傷が入りやすかったりする値です。前に一度だけあなた方が研磨したルビーは非常に魔力反応が起こりにくい宝石でした。それに比べて、これ。アレキサンドライトは非常に魔力反応を起こしやすい宝石です」


「これ、サンディ先生が研磨したのですか?」


「すごい細かい傷が入っていますが……」


「もうかなり昔ですが、私の腕前ではこのレベルです。あなたたちがルビーでやったときのように力任せで削ろうとすると、すぐに大きな罅が入り割れます」


「魔法研磨も奥が深いのです」


「そうだね。慢心できないね」


「はい。まだまだ早いと考えていましたが、次からはもう一段階上の魔法研磨を教えます」


「次の段階です!?」


「どんな内容でしょう!」


「うう、子供たちのキラキラした目が突き刺さる……」


 諦めてください。


 今のその子たちに『新しい技術』なんて餌をぶら下げたら勢いよく食らいつきますよ。


「オホン。次の段階は宝石研磨と同じ手法を魔法研磨でも発生させる方法です」


「宝石研磨と同じ方法……」


「それって具体的にはどうやるのでしょう?」


「わかりやすくいえば同じ硬度の石同士で削るのです。この手法を覚えればダイアモンドだって研磨できるようになります」


「ダイアモンドですか!?」


「一度だけ研磨しようとしたけど傷ひとつつかなかったものね!」


「魔法研磨の基本は風魔法で削り取るものでした。それ故に硬い宝石を削ろうとすると強い魔法を使わなければならず、切り落としてしまうか傷ひとつつかないかの二択です。これから教える手法を身につければダイアモンドでダイアモンドを削ることができるように、魔法研磨でダイアモンドすら削れます」


「それってアレキサンドライトも削れるんですか!?」


「ああ、いえ……これには更に別の技術が必要になります。具体的にはかなり強固な魔力を原石側に通しながら少しずつ削っていくという作業です。魔力を原石側に通すので複数の魔法を同時に使うことになります。削る側の魔力が弱ければ削れませんし、原石を守る側の魔力が強すぎれば割れたり罅が入ります。傷だらけなのはそれが原因です」


「なるほど……ということは、これからは複数の魔法を同時に使う練習をしたほうがいいのかも」


「ですです。それに、原石に魔力を通せばになるかもしれません!」


「そうだね! あと……ひょっとするととかもできるのかも!」


「はい! それでは、早速試して……」


「ふたりとも、残念ですがそろそろ夕食の時間が迫っています。アトリエの掃除をしたら手を洗ってきなさい」


「「はあい」」


 新しい技術……いえを見つけたふたりですが時間切れということでアトリエの掃除を始め、終わらせたら手を洗いに行きました。


 そして残されたのは、僕とサンディさんのみ。


 彼女、泣きそうです。


「スヴェインさまあ! なんなんですか、あの子たち! 私、次の段階の研磨術しか教えてませんよね!? それなのになんで、を試してもいないのにサクサク思いつくんですか!?」


「諦めなさい。ああいう子たちなんです」


「ああ、私、本当にいらない子になっちゃう。このままじゃあと二年もしないうちに教えてない技術まで搾り取られちゃう……」


「そうなりたくないなら自己研鑽を。資料はシャルに頼んで取り寄せてもらっているでしょう?」


「しっかり読み込んで、可能な範囲で練習もしてますよ! それなのに差は詰まる一方で!」


「はいはい。ところで夕食はどうしますか? リリスに言ってあなたの分も用意させますか?」


「……はい。ご相伴にあずかります」


「よろしい。あなたも手を洗ってきなさい」


「……はい」


 しかし、あの速さで魔法研磨を覚えますか。


 かなり昔に『宝石保護』と『圧力分散』は教えていますし。最後の一ピース、『カットの仕方』も教えて上位魔法の付与を教えていいかもしれません。


 今の彼女たちなら暴発も誤った使い方もしないでしょう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る