428.セイクリッドブレイズの『変質』
「『マジックショック』なのです!」
『……ふむ、確かに威力の高い『マジックショック』だ。人には使うなよ? 大抵の障壁は貫通してショック死させる」
「やっぱりそうですか……」
魔宝石作りを教えて一週間ほど経過。
ニーベちゃんが初めて魔宝石を完成させたので、その試し撃ちをするためカイザーの元を訪れました。
『しかしよかったのか、スヴェイン。初めてできた魔宝石なのだろう。私相手に無駄遣いするような真似をさせて』
「無駄遣いではありませんよ、カイザー。あなたの言ったとおり、ニーベちゃんの作った魔宝石では『マジックショック』であっても人を殺せてしまう。それを安全に認識させるにはいい機会です」
『ものはいいようだが、理解はした。確かにこのようなもの、安全に受け止められるのは聖獣や竜族、それにお前やアリアくらいだ。半端な魔術師では受けきれぬし、『マジックショック』という名にだまされてしまうだろう。危険性を認識させるには私が一番いい的だな』
「そういうわけです。この子たちはまだ手加減が得意ではありません。どの程度の魔力を込めればどんな威力になる、その見極めができるようになるまでは的を引き受けてください」
『お安いご用だ。さすがに精霊圧縮砲はもう二度と受けたくないが』
「アリアも威力を確かめるために使ったまでです。……カイザーが余計な真似をすれば二度目があるかもしれませんが」
『……気をつけよう』
本当に気をつけてくださいね。
この子たち、新しい餌にはすぐに食いつくんですから。
『それで、今日お前が来た理由は魔宝石の試し撃ちだけが目的か?』
「いえ。この子たちに『竜種結界』の説明とセイクリッドブレイズの『変質』を教えようかと」
『あれか……あれはそれなりに効くのだが』
「僕からのお仕置きだと思ってください」
『わかった。結界の説明はともかく変質も他のものには受けさせられぬ。甘んじて受け入れよう』
「よろしい」
「先生。竜種結界とセイクリッドブレイズの『変質』ってなんです?」
「ボクたちセイクリッドブレイズはいろいろ扱えますよ?」
「まあ、先に説明を。まず『竜種結界』ですが、下位竜以上が生来備えている結界のことを指します。力が強くならばなるほど頑強になり……まあ、鱗を傷つける前にこの竜種結界をどうにかしないといけないわけです」
「そうなんですね。でも、この前カイザーは……」
『精霊圧縮砲が特別なのだ。あれは時空魔法と同種の効果を持つ。竜種結界だけでは紙切れ程度の役にしか立たん。そのため全力の魔力障壁を張ったが……それすら紙切れだったな』
「とまあ、竜種結界にも弱点はあります。そのひとつがカイザーが言ったとおり、時空魔法です。ほかにも特殊なエンチャントを施した装備など竜種結界を無効にする人の知恵はいくつか存在しています。どれも非常に高難易度ですが」
「それってボクたちが聞いてもいいのでしょうか?」
『お前たちだからこそ聞け。お前たちの向かう先には悪竜や邪竜が立ち塞がることもありうる。それに備えよ』
「そうですね。僕も
「スケールが違うのです」
「
『私たちは別格だぞ? ひとまとめに
「はい。その辺の知識もいずれ教えます。とりあえず、竜種結界は理解できましたか?」
「はいです」
「なんとなくは」
「それだけで十分です。竜は常に結界を張っている、それを認識していれば。ここからが今日の本題、セイクリッドブレイズの『変質』です」
「先生。セイクリッドブレイズの『変質』って曲げたり密度を変えることじゃないんですか?」
「ボクもそうだとばかり」
「残念ながらそれは魔法の形や密度を変えただけ。『変質』には至っていません。おさらいです、『変質』とはどういうものだったでしょう?」
「ええと、魔法に特定の変化を与えることです」
「そうすることによって効果や威力を変えるものです」
「正解です。セイクリッドブレイズに与えることのできる変質は『結界貫通』ただひとつ。これを発動させれば、相手が竜だろうと『サンクチュアリ』に閉じこもっていようと聖なる炎で焼くことができます」
「意外と怖かったのです……」
「相手を気絶させるための魔法だとばかり……」
「セイクリッドブレイズって本来の用途は浄化系魔法の上級魔法ですからね。僕はそれを応用して魔力枯渇で戦闘不能にする術を覚え、あなた方にも伝授しただけです。ああ、カーバンクルの結界は貫通できません。あれは時空魔法による結界に近いもの。ディストーションですら耐えますから」
「カーバンクルも可愛いですけど聖獣さんです」
「見た目で侮っちゃダメだね」
「わかってもらえたようでなにより。さて、それでは『変質』のやり方を教えます。まずは僕がカイザーに放ちますのでよく見ていてください」
『やはり私が的か……』
「ほかの竜では大怪我をさせます。あなた、エンシェントホーリードラゴンでしょう? セイクリッドブレイズはどこまで行っても聖属性魔法。聖属性に分類されるあなたなら重症は負いにくいはずです」
『お前の魔力で変質込みなのが怖い』
失礼な。
ちゃんと手加減はしますよ。
鱗数枚程度でとどまるようには。
「では、よく見ていてください。カイザーも僕の的には何回もなってくれないでしょうから」
『本音を言おう。一度でも嫌だ』
「……らしいので、一回だけです。始めます。『セイクリッドブレイズ』!」
僕の使った『セイクリッドブレイズ』は光の線となってカイザーまで伸び……カイザー、『結界貫通』なんですから竜種結界とか魔力障壁とかそういったもので受け止めようとしないように。
ともかく、前『竜の帝』カイザーの無駄な抵抗を無視してカイザーに突き刺さり白い炎を上げて激しく炎上、その鱗を何枚か焼いて消え去りました。
『ぐ……やはり結界貫通か。それに聖属性の竜である私でも痛みを感じたぞ』
「だからこそほかの竜には撃てません。カイザーだから鱗数枚の被害で収まっていますが、バハムートのチャリオットなどでは肉まで焼いてしまいます。もっと手加減しても」
『やはりもっと手加減できるのではないか!』
「僕だってあなたにはいろいろ言いたいことがあったんです。さて、ふたりとも今のお手本でわかりましたか?」
「なんとなくです。魔力が収束と言うよりも押し込められて一方向に放たれている感じでした」
「はい。あとは……放ったあとは押し込められていた魔力をそのままにするのではなく、更に魔力を注ぎ込んで突き進ませてもいたような」
「どちらも正解です。あなた方でもセイクリッドブレイズの『変質』を覚えるには相応の時間がかかるでしょう。アリアと魔法訓練に来たとき一緒に練習するようにしなさい」
「わかりました」
「でもカイザーが痛そうな」
『私はエンシェントホーリードラゴンだ。お前たちの『変質』ならば直撃してもたいした意味はない。安心せよ』
「よかったです」
「早速練習を始めてもいいでしょうか?」
『構わぬ。構わぬが……スヴェイン、この子供らの練習が終わったら聖獣の泉へ向かわせてもらうぞ?』
「構いませんよ。本当に
『お前のセイクリッドブレイズは鱗を焼いたあと体内まで焼くのだ。そこを理解しろ』
この日はふたりとも『変質』まで至りませんでした。
アリアによれば魔法修行の日は毎日のように練習しているようですし、そう遠くないうちに覚えられることでしょう。
ああ、あと、人に向かって撃つことも禁止させないと。
結界を貫通するほどの魔力、一瞬で魔力枯渇どころか大やけどですからね。
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