弟子たちの成長とお悩み解決

93.久しぶりのコンソール

「うん、冬でもコンソールは賑やかですね」


「はい。ですが、あちこちから咳が聞こえてきますわ」


 ヴィンドを旅立ったあと、三日ほどをラベンダーハウスで過ごし、コンソールの街へとやってきました。


 コウさんが風治薬をほしがっていた理由はこれなんですね。


「スヴェイン様、いかがなさいますか?」


「うーん、僕ひとりではこのあとの行動を決めかねます。一度ネイジー商会に行き、今後についてコウさんたちと話し合ってみましょう」


「それがよろしいですね。では、参りましょうか」


 僕たちはコンソールの街並みを眺めながらゆっくりとネイジー商会へと向かいます。


 途中、冒険者ギルドの支部なども見かけましたが……薬はティショウさんに直接納めた方がいいでしょう。


 あと、何回かスリをしようとした子供たちもいました。


 そちらはプレーリーやレイクの障壁で阻まれましたね。


 街中を歩くことしばらく、ようやく中心街へと到着です。


 さて、ネイジー商会へと向かいましょうか。


「うん? あの人だかりはなんでしょうね? ネイジー商会だけではなく、ある程度大きなお店にはできていましたが」


「……それなんですが、とりあえず中に入りましょう」


 アリアは数日前にコンソールに来ていますから多少の事情を知っているはずです。


 その彼女が話したがらないと言うことは、コウさんたちから直接聞くべき事柄なんでしょうね。


 人だかりは店の前に固まっているため、ネイジー商会の店内にはスムーズに入れました。


 そこで困った顔をしていたのはコウさんと執事のジェフさんです。


「参ったな……ここまで風邪が流行るとは……」


「お嬢様方の錬金術でなんとかなりませんか?」


「ふたりにはなんとかお願いして風治薬の増産をしてもらっている。エリナは快く承諾してくれたが、ニーベは難色を示していたがな」


「そうでございますか。ですが、作っていただくことは出来たのですよね?」


「ああ。なんとかふたりとも生産してもらっている。それでもこの騒ぎだ。むしろ、我が商会は多少とは言え風治薬を多めに販売している分、人の集まり方がな……」


 なるほど。


 風邪が流行っているため、あちこちで風治薬を求める客が後を絶たないと。


 それは深刻です。


「コウ様、ジェフ様。数日ぶりでございます。今回はスヴェイン様と一緒に参りましたよ」


「お? おお、スヴェイン殿。気がつかなくて申し訳ない。あれから二カ月経っていたのだな」


「ええ、そろそろ二カ月です。それよりも、お話を聞かせていただきましたが、やはり風治薬が足りていないとか」


「うむ。困ったことにそうなる。ニーベやエリナにもお願いしているのだが……」


「彼女たちの生産能力では一日三百程度が限界でしょう。風治草があっても、それを薬に錬金するだけの魔力が足りないはずです」


「……なんでもお見通しなのだな」


「そばにいられないとはいえ弟子のことです。成長度合いの目処はついてますので」


「そこでこのパニックだ。スヴェイン殿、なんとかできないだろうか?」


 混乱を静めることですか。


 不可能じゃありませんが、注意事項がひとつですね。


「可能不可能で言えば可能です。前に来たときお約束していましたが、風治薬は大量に用意してきましたから」


「おお! それは本当か!?」


「はい。ただし、保存瓶を作る余裕までなかったため、一般の瓶に詰めてあります。なので、二カ月も経てば使えなくなることを説明して販売してください」


「わかった。ほかに注意事項は?」


「買い占めが起こらないように気をつけてください。それと、薬の値段は一本あたり銅貨五枚でお願いします」


「銅貨五枚……一般的な値段の半分以下だぞ!?」


「はい。ただし、万単位で用意してきました。コウさんならほかの商会ともつながりがありますよね?」


「……要するにほかの商会にも風治薬を渡し、一本銅貨五枚で売るように仕向ければよいのだな」


「はい。可能ですか?」


「可能だ。それで、仕入れ値は……」


「今回はいりません。その代わり、風治薬作りで損害を被るであろう、街の錬金術師や個人商店の皆さんに見舞金を支払ってください」


「わかった。状況が状況だ、詳しい話はあとで詰めよう。ジェフ、販売の準備を」


「はい、旦那様」


「スヴェイン殿、着いたそうそう悪いのですが……」


「店の前に大量の風治薬を並べればいいのですよね? その程度なら苦になりませんのでお構いなく」


「申し訳ないな。本来はニーベとエリナの指導に来ていただいたのに」


「いえいえ。今回は風邪の治療も目的でやってきました。申し訳ありませんが少し長い間逗留することになります。構わないでしょうか?」


「ええ、もちろん! スヴェイン殿がいてもらえればニーベたちも一層気合いが入るでしょう!」


「あまり気合いが入りすぎても問題なんですが……まあ、今はよしとしましょう」


 僕とコウさんが話をしている間に風治薬販売の準備が整ったのか、ジェフさんが戻ってきました。


 店の正面に作られたそのスペースでは今か今かと大量の人が待ち構えています。


 さて、まずは安心感を与えるために薬が山ほどあることを見てもらいましょう!


「え……?」


「今、なにが起こった?」


 薬を陳列棚に並べただけですよ?


 三段にになっていた陳列棚にぎっしりと詰め込みました。


 およそ……五百程度でしょうか?


 最初は薬の値段が安すぎることに不信感を抱いていた民衆でしたが、その中のひとりが試しに飲んでみると一気に全快しました。


 それをみて、風邪の症状がある方が購入し始め、即効性のある風治薬だということが全体に伝わります。


 そのあとは、まあ、お祭り騒ぎのように薬が売れていきましたね。


 最初の五百本が限界だと思っていたのか大量に買い込もうとした人もいましたが、陳列棚のとなりにまた同じ棚を用意していただき、それにも同じように薬をぎっしり詰め込むと買い込もうという人はいなくなりましたよ。


 結局、客足は夕方過ぎまで絶えることはなく、今日一日で三千本くらい売れたんじゃないでしょうか。


 うーん、風邪の流行り方が深刻ですね……。

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