351.ウサギのお姉ちゃん、内弟子体験一日目
「……ここが……使用人室?」
私、エレオノーラがリリス様に案内していただいた部屋ですが、使用人室とは考えられない程度に広かったです。
これを複数名で使うならわかりますが、私ひとりで使うのは……。
「ここが使用人室です。ちなみに、私も同じ部屋を一室、ニーベ様とエリナ様も一室ずつ使っています」
「え? この広さでひとり一部屋ですか?」
「使用人室はもう二部屋ありますし、今のところ使用人も私ひとりで事足ります。なので問題ありません。それに内弟子なのですから、あまり気にしないよう」
「はあ。でも、この部屋って少しだけど廊下でみるより広いような?」
「ほう、やはりいい目をしていますね」
あれ、私、また変なことを言った!?
「この部屋ですが『空間拡張』がわずかながら施されています。なので、家の造りよりもクローゼットひとつ分程度ですが広くなっていますよ」
「『空間拡張』って……時空魔法がないと作れないんじゃ……」
私、すごい高級なお家に来ちゃった?
一人暮らしの練習のはずなのに、どうしよう?
「シュミットでも一二を争う棟梁たちが最高級の聖獣樹素材をふんだんに用いて建てた家です。その特性をフル活用すると、最上位竜のブレス程度は余裕で耐えられますし、『空間拡張』も魔法なしでできてしまうのです。シャル様には加減を知ってほしかったのですが」
「……ちなみに、これって使用人室ですよね? スヴェイン様や奥方様たちの私室とかは?」
「更に大幅な『空間拡張』と各種結界で守られています。ちなみに、スヴェイン様の寝室には防音結界と遮音結界が多重でかけられております。間違えてもふたりきりで入らぬよう。間違いがあっても私は責任を持てません」
「そんな事しません!」
「それはよかった。私の目から見てあなたも合格なのですが、やはり不貞は家の格を下げます。妻として迎え入れたあとでしたらいくらでもことに及んでいただいてもいいのですが…」
「私は内弟子! ただの内弟子です!」
「……残念です。今の時点ではミライ様よりあなたの方が輝いているのに」
私、ミライサブマスターより評価されてる!?
じゃなくて、スヴェイン様と男女の関係なんてとてもじゃないけど恐れ多くって!
「……ちなみにですが、シュミットには避妊の魔導具もありますよ? スヴェイン様の作った避妊のエンチャントが施されたアイテムも多数ありますし。ことに及んでもそうそう子供は……」
「本当に内弟子志望です! 男と女の関係になるためじゃありません!!」
「……本当に残念です。ですが、あなたもスヴェイン様の野望のひとかけら。自分磨きに余念がないのでしょう。そうでもなければわざわざギルド外での指導、それも内弟子になってまでの指導など望まないでしょうから」
……あれ?
ひょっとして、今までの問答って全部私の覚悟を試されてた?
もし私が迷うそぶりを少しでも見せたら追い出されていたの?
「さて、覚悟は聞きました。先ほどスヴェイン様にはああ言いましたが、このあとはどうなさいますか? 疲れているのでしたら夕食までおやすみいただいても構いませんが」
「あ、やっぱり覚悟を試されていたんですね……」
「ええ。中途半端な覚悟でしたらスヴェイン様が許しても私が許しません。……スヴェイン様のお子様を宿してくれるのでしたら許しましたが」
「どうしてそこまでこだわるんですか!」
「今の奥方様たちはまだ誰もお子様を産まない、あるいは産める状況にないからです。私だって、スヴェイン様のお子様を早くお抱きして差し上げたいのに……」
あ、リリス様もなんだかんだスヴェイン様には甘いんだ。
指摘したらあとが怖いから黙ってるけど、注意はしておこう。
「それで、このあとはどうしましょう? アトリエを見学しますか? 少し休みますか?」
「あ。ええと、アトリエに案内してください。場所だけでも覚えておかないと……」
「はい。では、夕食前にアトリエの皆様の覚悟を感じていただきましょう。こちらにどうぞ」
アトリエの皆様の覚悟?
どういう意味だろう?
リリス様に案内されて一階まで降り、アトリエだという場所まで案内され彼女がノックをして入室許可を取りました。
いつも通りのスヴェイン様の声が聞こえ、ドアを開けると。
「!?」
アトリエ内はものすごい緊張感で満たされていました。
作業をしているのはニーベ様とエリナ様のふたりだけ。
作っているのはいつも通りの高品質ミドルマジックポーションのようです。
でも……真剣さがギルドの時とまったく違う!
「あ、ノーラ。本当に来たんだ」
「ユイ。ごめんなさい、あなたがいることに気が付かなかった……」
「仕方がないって。ふたりの気迫に当てられればそうなるよ」
「ふたりっていつもこんな感じ?」
「そうだよ? 錬金術師ギルドだと周りを怖がらせるし必要以上に技を盗まれるからって本気じゃ練習していないみたい」
甘かった……。
私、なにを浮かれていたんだろう。
スヴェイン様のお弟子様、その方々直々の推薦で内弟子候補に指名されてちょっと図に乗っていた。
今の私じゃこんな気迫は出せないよ……。
「おや、エレオノーラさん。顔色が悪いですが大丈夫ですか?」
「ギルド……じゃない、スヴェイン様。私、ニーベ様とエリナ様を見くびっていました」
「ああ。普段、ギルドじゃここまで気合いを入れませんからね」
「はい……私やっていけるんでしょうか?」
「少しずつ慣れましょう? いきなり参加は難しいでしょうし、まずは見学を」
「はい。ところで、ふたりとも見慣れないブレスレットをつけていますがあれは?」
「ああ、あれは……内緒にしてくださいね? 魔力循環をかき乱すエンチャントを施したブレスレットです。いわば、今のふたりは体に負荷をかけた状態で錬金術の練習をしています」
「魔力の循環をかき乱すエンチャント……そんなエンチャントをどこで?」
「僕が古代文明の遺跡から復元しました。前にユイの治療を行ったと話しましたよね? あのときに使ったのもあのエンチャントです。もちろん、ふたりが使っているのは、ユイが使ったときのものと比べものにならないくらい効果の低いものですが」
「そうそう。本来の効果だと首を動かすどころか、話すことさえできなくなっちゃうんだから」
ユイ……そんな簡単な感じで壮絶な内容を……。
「それにしても、スヴェイン。どうしてあのふたりの指導にあのエンチャントを使うようになったの?」
「あなたのせいですよ、ユイ。あなたが治療のことをふたりに話したとき、魔力循環をかき乱すエンチャントの存在を明らかにしたでしょう? それで、あのふたりも同じ指導を受けたいといいだして聞かなかったのです。それぞれに一度だけユイの使ったアクセサリーをしてもらい、修行にならないことを痛感してもらいました。でも、今度は単純に負荷をかけるだけのエンチャントも作れるだろうとせがまれましたよ、本当に」
「あ、あはは……ごめん、スヴェイン」
「本当に反省してください。あの子たち、内弟子に来てからというもの、コウさんのお屋敷にいた頃以上にハードなトレーニングを望み始めたんですから」
すごい、これが本物の内弟子。
私は単純に朝夕の稽古だけだと考えていたのに、もっともっとハードなことをしているだなんて。
「でも、スヴェイン。この子たち、危険じゃないの? 私が言うのもなんだけど……」
「あのエンチャントアクセサリーですが、普段は僕が持ち歩いています。僕がいるとき、僕が許可している間だけ使用を認めています。誰かさんみたいに知らないところで本当に骨を折られてはかないません」
「あはは……」
私もおふたりから目が離せていませんが、それ以上にスヴェイン様とユイはおふたりから目を離していません。
わずかでも異変があたらすぐに助けるためでしょう。
その証拠に……。
「エリナちゃん。あなたはここまでです。アクセサリーを外しなさい」
「はい。二十六回、少しだけ増えたけどまだまだですね……」
「本当はこれだってかなり無茶をさせているのですよ?」
「内弟子に来たのです。これくらいは成し遂げて見せます」
「……わかりました。ニーベちゃんもストップです」
「はいです。私は三十一回なのです。いつも私の方が少しだけ多いのですがなぜですか?」
「職業差です。魔力循環をかき乱している以上、職業の優位性が見えてしまいます。本来なら【錬金術】は『錬金術師』であるエリナちゃんの領分ですが、魔力コントロールは『魔術士』であるニーベちゃんの方が一歩先を行っています。その差ですよ」
「たったそれだけの差ですか」
「なら追いつけますね!」
すごい、本当にやる気が、熱意が違う。
それなりに離れた位置から見学させていただいているのに肌が焼けそうな感覚さえ覚える。
「さて、もうすぐ夕食の時間でしょうし後片付けを。今日の夜はなにを学びますか?」
「エレオノーラさんも来てくれましたし、魔法研磨がいいです!」
「そうですね。先生に少し見ていただきたいところもあります」
「え、あの。いつから私がいることに?」
「入ってきたときからですよ?」
「集中していても周りの様子には敏感であれと学びました」
ああ、本当に甘かった。
まさか『カーバンクル』様方と私でここまでの差があるなんて。
「ともかくお片付けです」
「あまり遅くなったら皆を待たせちゃうからね」
「誰も怒りませんが肩身が狭くなります」
「うんうん。ボクたちご厄介になっているだけの弟子だものね」
その後、夕食……アリア様やミライサブマスターも一緒になっての食事を済ませたあと、夜の修行でした。
私のため本当に魔法研磨をしてくださったのですが……私は熱気に押し負けてしまい、すぐに見学を申し出ることに。
今日寝る前にもう一度覚悟を決め直さないと……。
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