729.エリナの帰郷:五日目 冒険者ギルドを訪問

 帰郷五日目。


 とりあえずニーベちゃんも錬金術師ギルドの薬草栽培についてはアルデさんに任せてくれたみたいだし、今日はなにをしようかな?


 ニーベちゃんを放っておくとまた錬金術師ギルドに行きたがりそうだから、先手を打たないと……。


 イナお姉ちゃんの歌を聴きながら朝食を食べ終わったあと、お部屋でニーベちゃんと相談してみた。


 すると、ニーベちゃんは意外なことに冒険者ギルドへ行きたがったんだよね。


 どうしたんだろう?


「ニーベちゃん、冒険者ギルドに行くなんてなにか用事があった?」


「特にないのですよ? 冒険者の皆さんがシュミット講師の方を相手に戦えているか見学なのです」


「……趣味が悪いよ、ニーベちゃん」


「特に悪くなんかないのです。冒険者ギルドだってもうすぐ一年、そろそろ上級冒険者はまともに戦えるようになっていてもらわないと困るのですよ」


「まあ、そうなんだけど」


「それに〝シュミット流〟はきっと教えないのです。その分も考えると普通の強さだけでもつけてもらわないと」


「……それもそうだね。冒険者ギルドの様子を見に行こうか」


「はいです。出発なのですよ」


 僕たちはクリスタルとルビーに乗って一路冒険者ギルド本部まで移動。


 そこの雰囲気も2年前とは大分変わっていたね。


「うん。熱気だけは入っているのです」


「あとはどれだけ強くなっているかだよね。頑張ってくれていると嬉しいなあ」


「私たちの『サンクチュアリ』に罅を入れられる程度になっていると嬉しいのです」


「……それ、アリア先生から下位竜クラスだって言われているよ?」


 ニーベちゃんはここでも無理を言ってるよ……。


 どこまで上を目指してほしいんだろう?


 ともかく冒険者ギルドの中に入ると、やっぱり熱気が違ってた。


 冒険者さんの気迫も2年前とはまったく別物だし、いい感じに熱が入っているね。


「……うん? エリナにニーベか?」


「タイガさん」


「お久しぶりなのです、タイガさん」


「2年ぶりだな。今日はどうした?」


「ボクが成人したのでお爺ちゃんのところに顔を見せに帰郷しているんです。それでいろいろなところの様子を見て回っています」


「なるほど、今回は視察とかそういう目的は抜きか?」


「はい。特に目的のない帰郷です」


「そっか。それにしても、去年の冬にスヴェインが連れてきたシュミットの講師。本当に強いな」


「タイガさんでもかなわないのです?」


「最初の頃は本当に転がされているだけだった。講師の動きを見ている間に自己強化魔法を使っていることに気がついてから、必死になってそいつを覚えてようやくある程度の勝負になってきたところだ」


「あれ? タイガさんって『魔力視』ができるんですか?」


「あー。実は春頃に数日間だけコンソールに行ってきたんだよ。そうしたらどこの本屋でも【魔力操作】の教本が置いてやがる。自己強化魔法を鍛えるのにちょうどいいかと軽い気持ちで考えて買ってきたんだが……奥が深いな」


「奥が深いのですよ。コンソールの生産職ではほとんどの職業が【魔力操作】をマスターして入口なのです」


「やっぱりそこがスタートか。やけに安い上にしっかり手順が書いてあって妙だなとは感じていたんだよ」


「はい。コンソールでは一般的な教本です」


「それ、戦闘職でもか?」


「気付いている人がどれくらいいるかは知らないのです。でも、身体強化魔法を極めていこうとすると微細な魔力操作は必須。【魔力操作】をマスターして更に上を目指すのは当然なのですよ」


「……いいのか? そんなにべらべら喋っちまって」


「禁止されてませんし大丈夫なはずなのです」


「コンソールでは上位冒険者に上がろうとすると前提知識になってきますからね」


「やべぇな。コンソール」


「竜の宝の国なのです」


「半端な覚悟じゃ冒険者だって生きていけません」


 コンソールの冒険者さんたちも上位冒険者の皆さんは本当に強くなった……らしいです。


 訓練場に行くとシュミット講師の皆さんにはじき飛ばされているところしか見ないのですが、Cランク冒険者でもBランクモンスターに後れは取らないんだとか。


 いわゆる『コンソールブランド』の装備も影響しているのでしょうが、すごいですね。


「……で、ここからが相談になっちまうが、【魔力操作】の教本って輸出してもらえないのか?」


「そこはボクたち錬金術師ギルドの管轄ではなく商業ギルドの管轄です」


「あちらが頷くかどうかなのですし、関税もどれだけかかるかわからないのですよ」


「やっぱりそうなっちまうか」


「そういう本なのです。【魔力操作】の教本は」


「コンソールでは一般的な本です。それをほかに出すかどうかはわかりません」


「なるほどなぁ。ちなみに個人が大量に買って持ち出す分には?」


「さすがに商人が大量購入して帰るとかになると問題でしょうが、冒険者が数冊買って帰る程度では気にされないと思いますよ」


「そうか。今度コンソールに渡る予定のある冒険者を捕まえて何冊か仕入れてもらうことにしよう。身体強化魔法まで気がついている上位冒険者はそれなりにいるんだ。ただ、それの効率的な運用となると難しくってな」


「頑張ってください。ボクたちにできる助言はここまでです」


「はい、あとは自分たちで気がついてほしいのですよ」


「そうか。それじゃ、俺の訓練も見ていってくれ。それで悪い点があったら指摘を。お前らなら信用できそうだ」


「お安いご用です」


「だめなところはきっちり指摘させていただくのです」


「そっちの方がありがたい。じゃあ、頼んだ」


 このあと見せていただいたタイガさんとシュミット講師の訓練はなかなかハードなものでした。


 シュミット講師もそこそこ強めの身体強化魔法を使い続けていますし、タイガさんは合格点でしょう。


 ただ、身体強化を意識するあまり魔力の消費が激しくなっていますね。


 そこが問題点でしょうか?


 実際、10分程度でタイガさんがはじき飛ばされて訓練終了。


 ボクたちはタイガさんに回復魔法をかけてあげてから悪かった点を指摘しました。


 タイガさんの方でも魔力消費が激しいのは気になっていたらしく「今度は無駄のない魔力の使い方だな」と笑っていましたね。


 向上心の高い方です。


 タイガさんになら〝シュミット流〟をこっそり教えてあげてもいいかな?


 講師の方が許可してくれたらだけど。

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