728.エリナの帰郷:四日目 錬金術師ギルドでの薬草栽培指導 三日目 日中
「そこ! また『クリエイトアース』が完全発動しているのです! いい加減魔法の扱いに慣れるのですよ!」
「うーん、こっちももう少し土を軟らかくしなくちゃだめかな。種は根付くかもしれないけれど、成長が阻害されるよ」
今日もまた朝食を食べたら錬金術師たちに対する畑作りの指導です。
本日もニーベちゃんの叱責が飛び交う飛び交う……。
ニーベちゃん、もう少し穏やかにいこう?
ユイさんの悪い影響を受けすぎだよ?
そんなこんなでニーベちゃんが『とりあえず許してあげます』という結果が出たのは昼食を食べ終わったあと。
すでに錬金術師の皆さんは三日間の指導で満身創痍です。
でも、ここまでは準備段階なんですよね……。
「さて、休憩も終わりなのです。次は種蒔きですよ!」
「種……蒔き……」
「当然なのです! 畑だけ作ってどうするんですか! 畑で育てる薬草を準備しないと意味がありません!」
「それは……そうですが……」
「ほら、早く立ち上がるのです! 時間は有限なのですよ!」
「はい……」
ジェナさんもかわいそう……。
ギルドマスターって言うことで率先して覚えなくちゃいけないから泣き言も言ってられないし、付いてこなくちゃいけない。
ニーベちゃん、もっと休ませてあげよう?
「まずは薬草類ごとの種蒔きの間隔からです! 薬草の種類によって土の中の養分、つまり魔力量の吸収度合いが違います! 魔力量の吸収率が低い毒消し草や麻痺消し草は狭めでも大丈夫ですが、魔草はかなり広くないと失敗します! まずは私とエリナちゃんで実際に蒔いてみるのです!」
「ボクも?」
「はい! 普段私たちの畑に蒔く間隔ではなく、一般的な畑に蒔く間隔です!」
「まあ、それくらいわかるけど。なにを蒔けばいい?」
「エリナちゃんは魔草の種を蒔いてください! 私は薬草の種を蒔きます!」
「わかったよ。ジェナさん、薬草と魔草の種をお預かりできますか?」
「は、はい。こちらになります」
「わかりました……うーん、最高品質と高品質がごちゃ混ぜですね。品質ごとに袋も分けましょう」
「……わかりました」
ジェナさん、更に涙目になっちゃったけど事実だから仕方がないよね。
ボクたちみたいにマジックバッグで管理しているなら望んだ種が出てくるから気にしないんだけど。
「ニーベちゃん、どうしようか?」
「高品質の種を蒔くのです! 最高品質の種は試験栽培ではもったいないのです!」
「これだけやっても試験栽培なんだね。気持ちはわかるけど、錬金術師の皆さんの心を更にへし折るのはやめてあげよう?」
「ただの事実なのですよ?」
「うん、わかってるから。とりあえず、蒔き始めようか」
「はいです。 皆さん! 間隔をよく見ているのです!」
ボクたちは薬草と魔草の種を蒔き始めました。
えーと、普通の畑で魔草を栽培するときは足ふたつ分に一個、左右に分けてだったよね。
ボクたちの畑だともっと狭い間隔でも十分に育っちゃうから感覚が狂っちゃうよ。
「あ、あの。薬草の種ってそんなに間を開けるのですか?」
「開けるのですよ? 最初はこれくらい間を開けないと十分に成長しません」
「はい。特に魔草は顕著です。……ひょっとするとこれでも狭いかも」
「ええと、アルデさん?」
「まあ、魔草もなんとかなる。だめだとしたら毎日の魔力水がだめだったときだ」
「よかった。コンソールの初期基準でやってるから心配だったんです」
「コンソールの初期基準か。つまり、畑の土壌が整備されてくればもっと間を詰められると」
「はいです。半歩ごとに左右一個ずつ種を蒔いても最高品質の葉が生い茂ります!」
「……だそうだ。今後はお前たちが頑張って土を整備しろ」
「……はい。頑張ります」
ボクたちが左右二畝ずつに種を蒔き終えると、今度はヴィンドの錬金術師の皆さんに実習してもらいます。
ただ、そこでも、同じ方に種を蒔いたり、間隔が狭かったりとニーベちゃんの檄が飛び交い、ボクの指導も幾度となく入り……うん、心配だなあ。
種を蒔き終える頃には夕方近くなり、いよいよ魔力水の指導だったのですがここでアルデさんから待ったがかかりました。
「エリナ、ニーベ。ふたりの指導はここまでで十分だ。魔力水の指導は俺が面倒を見る」
「いいんですか?」
「はい。最後まで面倒を見るのです」
「帰省とは言え二週間しかないんだろう。もう一週間の半分を費やしてもらったんだ。これ以上、時間を使ってもらうのは悪い。代わりに俺が一から十までしっかり仕込んでやるから気にするな」
ボクはニーベちゃんと視線を合わせ、まあ大丈夫かなと納得しました。
「わかりました。あとの指導はお願いします」
「畑の方は……まあまあできているのです。少なくとも石はすべて吐き出させました。今後は回数を重ねて土壌を鍛えていってほしいのです」
「わかっているさ。すまなかったな、せっかくの帰省中に時間を費やしてもらって」
「いえ、特にやることも決まっていなかったので」
「はいです。しっかりとした畑作りはこれからの錬金術師には基本になってくるのですよ」
「その基本を成人したばかりの女性にがっつり叩き込まれたんだ。こいつらはたまったもんじゃないだろうがな」
「それは不甲斐なさを思い知ってもらいたいのです」
「ニーベちゃん……」
「事実だから仕方がない。また……帰る前の日でも育成状況を確認しにきてくれ。指導は勘弁してやってほしいがな」
「じゃあ、指導はしないのです」
「本当に指導はなしだからね、ニーベちゃん」
「指導はしないのですよ。げき……」
「……激励もやめてもらいたいな」
「残念なのです」
ともかく、これで錬金術師ギルドで畑作りの指導も終了。
明日からはなにをして過ごそうかな?
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