730.エリナの帰郷:五日目 冒険者ギルドでマルグリットと

 タイガさんが訓練を終えたあと、ギルドマスターであるマルグリットさんの元へ案内してくれました。


 2年前に〝押し売り〟して行ったミドルポーションは足りていたかな?


「マルグリットさん。入るぜ」


「タイガかい? ……ん? そっちはエリナちゃんにニーベちゃんか? 2年ぶりだね。元気にしているかい?」


「お久しぶりです、マルグリットさん。ボクたちは元気にしていました」


「お久しぶりなのです。あれから2年間、しっかり修行してきたのですよ!」


「そうか。そう言えば、持っている杖と着ているローブも変わっているね? そいつは?」


「ボクたちが最初の目標を達成した証です」


「次の目標はまだまだ先が遠そうなのですが、一歩一歩進んでいくのですよ」


「わかった。まあ、話を聞きたいし座っていきな。ネル、お茶を頼んだよ」


「はい。ギルドマスター」


 ネルさんにお茶をご用意いただき、ボクたちはマルグリットさんとお話を始めました。


 主にこの2年間の話についてですね。


「……とりあえず、あんたたちには助かったよ。ふたりが置いていってくれたミドルポーション、あれのおかげで瀕死の連中をかなり助けることができた。エリナはこの街の出身だから知っているだろうが、この街に居着いている冒険者でCランクやBランクは非常に貴重だからね。そういった連中を一切失わずに済んだよ」


「いえ。お役に立てたのでしたら十分です」


「はいなのです。私たちにとっては普通のポーションなのですから」


「ミドルポーションが〝普通〟って言うのが怖いよ。旧国の連中じゃ想像できやしない。なんでも、昨日まではこの街にできた錬金術師ギルドで大暴れしていたそうじゃないか。薬草栽培でダメ出しをし続けていたとか」


「はい、ダメダメだったので徹底的に鍛え直してきたのですよ」


「……その、ニーベちゃんが止まらず」


「錬金術師ギルドの連中はたまらなかっただろうね。昨日も夜遅くまでアルデから魔力水の指導を受けていたらしいし、今朝も日が昇り始める頃から手入れをしていたとか。薬草栽培ってそんなにきついのかい?」


「それが普通なのです。慣れればどうにでもなります」


「そうだね。きついのは最初の頃だけで生活リズムが整えば大丈夫ですよ」


「……つまり、日の出頃の作業は必須って訳か。錬金術師ギルドが薬草栽培を始めてくれたおかげで高品質ポーションや最高品質ポーションが安く大量に入手できるようになってくれて大助かりだけど、本来のやり方を守ろうとすれば楽な仕事じゃないね」


「薬草栽培は畑仕事なのです。楽なはずがないのですよ」


「違いない。ところで、話は変わっちまうがコンソールからの支援って本当の狙いはなんなんだい? 景気よく金もばらまいてくれちゃいるが……それで終わりなはずがないだろう?」


「ごめんなさい。それは教えられません」


「はいなのです。想像はついているのですが、答えることはできないのです」


「……なるほど。うかうかしていると、昔のヴィンドに逆戻りか。治めてくれている貴族様も代官様も交代した。税金だって上がっちゃいない。だが、金を無駄遣いするだけじゃいけないんだね?」


 さすが、マルグリットさんはギルドマスター。


 それにボクはよく知りませんがお爺ちゃんのお弟子さんです。


 ボクたちの反応からだけで大体の予想はついているようですね。


「タイガ、あんたはどうする?」


「俺がこの街をまた離れてもいいのか?」


「コンソールに行って数日程度過ごしてまた戻ってくるだけなら居残りの冒険者だけでもなんとかなるよ。で、どうしたい?」


「そうだな……『コンソールブランド』の装備品をある程度買ってきたい。やはり地元で買うのが一番安いらしいからな。エリナ、ニーベ。お勧めの店とかはないか?」


「ごめんなさい。武器とか防具は疎いんです」


「鍛冶ギルドに行ってみるのです。そこなら最上位エンチャントを施した武器が必ず在庫されているのですよ」


「……ってことは、俺も相当な出費を覚悟しなくちゃいけないな。ちなみに、武器の『コンソールブランド』で最上位ってどの辺だ?」


「ボクたちが間違いなく知っているのは【鋭化】【硬化】【斬撃強化】の3つがついたミスリルと魔鋼合金の剣とかだけど……」


「ひょっとすると【斬烈化】や【衝撃強化】のエンチャントもできているかもしれません。鍛冶ギルドも相当熱が入っているのです」


「防具も金属製品は【装備時重量軽減】が当たり前になってきてるからね。あとは……ガルヴォルン合金かな?」


「はいです。かなり苦労しているとは聞いているのです。でも、最高級品扱いなら出てくるかもしれません」


「……ガルヴォルンってなんだ?」


「ミスリルと反対の性質を持つ金属です。とにかく硬くて頑丈。切れ味は少し鈍いそうですが、滅多なことじゃ刃こぼれしないと」


「エンチャントが施してあれば切れ味の鈍さも解決なのです。作るのが大変な金属らしいのですが、そろそろ作れていてもおかしくない頃なのですよ」


「滅多なことじゃ刃こぼれしない武器か。手入れはどうするんだ?」


「……先生はかなり特殊な砥石を使っていましたね」


「そこも鍛冶ギルドに相談なのです。さすがに武器だけ作って手入れの方法を知らないはずもありません」


「そいつもそうか。参考になった。ローブやマントがほしければ服飾ギルドだな?」


「そうなります。ボクたちの紹介だって言えば特別な布で特別なエンチャントを施していただけるかもしれません。値段もかなり高額になるはずですが」


「なに?」


「【斬撃耐性】とか【刺突耐性】のような防護系エンチャントなのですよ。効果も名前通り、ただの布なのにほとんどの剣では切ることも槍や矢で貫くこともできなくなります」


「そいつは恐ろしいな……」


「ダメ元で聞いてみるといいかもしれないのです。金貨数十枚の取引になるはずなのですが……」


「はい。かなり高額になってしまいます」


「金はそれなりに持ってるから気にするな。……しかし、どれだけ進んでるんだよ、竜宝国家は」


「いまでは錬金術師ギルド本部でミドルポーションもある程度作れているのです」


「錬金術師のみんなが去年製法を解き明かしたものね」


「……ヴィンドでも錬金術師ギルドマスターが特級品ポーションを作れるようになったが、コンソールじゃ一般錬金術師がミドルポーションを毎日作っているのかい? 本当に差を開けられているね」


「『絶対に追いつかせない』、それが新生コンソール錬金術師ギルド本部の誓いなのです」


「うん。ほかのギルドだって、将来を見据えた教育を行っているからね」


「……こりゃ負けてられないね」


「だな。ましてや、コンソールからヴィンドは馬車で一週間ちょっとの街。『コンソールブランド』の馬車なら一週間かからずについちまう。本気で独自文化を発展させないと食われちまうぞ」


「わかりやすいのは食文化。次に宝飾品や服のデザイン。それから建築デザインか。どこもコンソールの手が入っている以上、技術を盗まれるだろうがそれ以上に発展させないことには未来なんてありゃしない」


「マルグリットさん、各ギルドに発破をかけてくれるか?」


「明日から発破をかけて回るよ。エリナちゃんにニーベちゃん。今日は本当にためになる話だったよ」


「いいえ。話せる内容が少なくてすみません」


「私たちの立場もギルドマスターに近い立ち位置なのです。あまり多くは語れないのですよ」


「それでも十分だ。タイガ、あんたは準備ができたらすぐにでもコンソールに向かいな」


「そうさせてもらう。エリナとニーベも気をつけてな」


「はい。各ギルドではボクたちの知り合いだって言っても構いませんから」


「疑われるかもしれないので……これを持っていってくださいなのです」


 ニーベちゃんが取り出したのは銀でできたカーバンクルの人形。


 ボクたちが『武具錬成』の練習で作った人形で、いろいろなギルドで見せているから知り合いだって証明にはなるかな?


 普通に作ろうとするとかなり難しい作りになっちゃってるしね。


「わかった。この礼はいつか必ず」


「ヴィンドの街を守ってくだされば十分ですよ」


「街を守るのも冒険者さんのお仕事なのです」


「……助かる。マルグリットさん、俺は旅支度をするからもう行くぜ」


「ああ。エリナちゃんとニーベちゃんはもう少し話をしていかないかい?」


「そうですね。もう少しくらいなら」


「はい。もっとお話しするのです」


 このあと、マルグリットさんとはいろいろなお話をさせてもらった。


 話題は気をつけなくちゃいけなかったけど、有意義な時間だったかな。

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