23.謁見
ディーンの『交霊の儀式』が終わってから一週間はわりと自由に過ごせました。
アリアと約束したとおりウィングとユニに乗ってのお出かけもできましたし、満足のいく一週間だったと思います。
そんな一週間が明けた頃、お父様に呼び出されました。
「スヴェイン、アリアとの交際は順調か?」
「交際……ですか? アリアとはいつも一緒ですから交際という感覚が抜け落ちてました。とても仲良くしていますよ」
「それは結構。それで今日お前を呼び出した理由だが、国王陛下への謁見を行う日が決まった。明後日だ」
「明後日ですか? ずいぶん早いですね?」
「内容が内容だけに王宮としても無視できなかったのだろう。私たち辺境伯家の帰還日程も考えてくださったとも言える」
「それはありがたいですね。では、明後日に向けて何か準備しておくものは……」
「そうだな。錬金術を実践できるよう、錬金台をマジックバッグの中に入れておいてくれ。あとは、ポーション瓶と薬草類は持っているな?」
「はい。いつでも調合できるように持ち歩いております」
「よろしい。それだけ準備できていればお前は十分だ。あとは私の出番だからな」
「かしこまりました。では、お父様にお任せいたします」
「ああ。それから、報酬についても考えておくように」
「報酬、ですか?」
「これだけ大きな発見だ。無報酬で国に渡す訳にはいかない。対価を要求するのは当然だ」
「ですが、ほしいものは特にありません。報酬と言われましても……」
「言っておくが金銭や宝石はやめておけ。とんでもない量になるぞ」
「そうですか。……では、王立図書館に入る権利というのはいかがでしょう?」
「図書館に? ……魔法の研究のためか」
「はい。いろいろと学習していますが、いまだに時空魔法だけは覚えられないのです」
「……まて、その言い方だと時空魔法以外は覚えたように聞こえるが?」
「はい、冒険者の皆さんのおかげで時空魔法以外の属性はなんとか覚えられました。光魔法や闇魔法、聖魔法はまだレベル1ですが……」
「スヴェイン、疑うわけではない。だが、念のため星霊の石板を見せてもらえるか?」
「はい、どうぞ」
「うむ。……うむ、確かに時空魔法以外のすべての属性魔法が刻まれているな」
「はい。実戦で使えそうなのは土と水だけですが、なんとかすべての属性を覚えることはできました」
「わかった、石板は戻してもよい。しかし、時空魔法か……これは面白いことになるかもな?」
「お父様?」
「すまないが、お前の褒美について私が口を挟んで構わないだろうか?」
「構いませんが……なにか考えがおありで?」
「もちろんだ。悪いようにはしない」
「ではお任せいたします。僕にはどの程度の価値があるのかわかりませんので」
「任せよ。必ず最高の成果をつかみ取ってみせよう」
お父様の力強いお言葉をいただいてから2日後、いよいよ謁見が行われます。
今回の謁見には大臣の皆様もほとんどおられず、ごく一部の方々のみで行われると聞いてますが……。
「力を抜け。悪いようにはならん。シェヴァリエ子爵、いや、男爵のようにはな」
「降爵されたのですね」
「あれだけの騒ぎを起こせば当然だろう。公爵家の方々も見ておられる中で、ユニコーン様に攻撃魔法を放ったのだ。お取り潰しにならなかっただけマシというものだよ」
「……我が家も気を引き締めなければなりませんね」
「そうだな」
やがて、お父様と僕は謁見の間に呼びだされ、謁見が始まりました。
お父様が言うとおり、最初はお父様が聖獣様たちとの出会いについて説明します
その際に薬草の栽培方法について学んだことも発言されました。
「ふむ、シュミット辺境伯。薬草の栽培は私も含め、代々の国王や貴族が失敗してきたものだ。それに成功したと申すか?」
「はい。下級薬草のみでございますが栽培方法は確立しています」
「ほほう。して、その方法とは?」
「ここからは私の息子、スヴェインから報告させます。いいな、スヴェイン」
「は、はい!」
「ふぅ、シュミット辺境伯、いや、アンドレイ。いささか酷ではないか? 6歳の子供に説明させるのは?」
「薬草の栽培も聖獣様との契約もスヴェインが行っていることです。適任者はほかにおりません」
「なるほど。説明できるか? スヴェインとやら」
「は、はい。大丈夫でございます」
「言葉遣いが多少無礼になっても咎めん。今日の発表内容に比べればすべて些事だ」
「かしこまりました。それではご説明させていただきます」
そこからは薬草畑の作り方について必死に説明します。
説明すべきことは昨日の間にアリアとディーンにも手伝ってもらい、まとめていたのですがきちんと伝わったかよくわかりません。
国王陛下や同席していた宰相様、軍務卿様、宮廷魔術師長様も黙り込んでしまいました。
なんとも気まずい感じです。
「国王陛下、まず私から質問をしてよろしいでしょうか?」
「許す、宮廷魔術師長」
「ありがとうございます。スヴェイン、畑を土魔法で耕すと言ったな。普通に人力で耕した場合はどうなるのだ?」
「はい。事前に魔力を通して蓄積すれば問題ありません。それもしない場合、種が根付きません」
「では、普通の薬草を根ごと採取して土魔法で耕した畑に植えた場合はどうなる? 種まで採取できるのか?」
「それは薬草を掘り出すときの方法によります。薬草をしっかりと土魔法の魔力でくるんでやりながら掘り出し、それを畑に移植すると種まで採取できることを確認いたしました。普通にスコップなどで掘り出した場合、畑に移植しても数日間は元気なままでしたが種は取れませんでした」
「なるほど。新しい株を増やす場合、土魔法に長けたものを連れていく必要があるか。では、ここから先は憶測で構わない。中級以上の薬草を育てたい場合、どうすればよいと思う?」
「おそらくですが、魔力水を元に錬金した霊力水が必要になると思います。僕の錬金術レベルだと霊力水の錬金は確実に失敗するために試すことができませんでした」
「む? お主、錬金術師系統の職業を与えられたのではないのか?」
「いえ、私は『ノービス』です」
「ノービス……なるほど。ノービスにおける生産系のスキルレベル上限はほとんどが20と聞く。霊力水の錬金にはレベル22は必要。確かに不可能だな」
「お役に立てず申し訳ありません」
「いや、推論が立っているなら問題ない。ただ、それだけでは育たないだろうな……」
「そうですか?」
「うむ。私の推測では水は霊力水で大丈夫だろう。だが土は土魔法では不完全だと思われる。なにか別の魔法を……」
「そこまでだ、宮廷魔術師長。お前の推論を語らせていては話が長くなりすぎる」
「失礼いたしました。シュミット辺境伯、あなたはまだ王都に滞在なさいますか?」
「王宮でも薬草栽培の実験は行うでしょう? その結果が出るまでは残ります」
「おお、それはありがたい! では、時期を見てお話に伺わせていただきます」
「はぁ……好きにせい。ほかに質問があるものは?」
「では私めからも質問よろしいですかな?」
「宰相か。許す」
「ありがとうございます。薬草の種を採取した後、枯れた薬草ごと土魔法で畑を耕すと薬草の品質が上がるといったな? それは何回繰り返せば最高品質となる?」
「申し訳ありません。その頃は鑑定スキルのレベルが足りませんでした、推論になりますがよろしいですか?」
「そういうことならば仕方があるまい。申せ」
「おそらく、普通に土魔法だけで耕した場合だと6回から7回、聖魔法込みの土魔法だと5回程度で薬草の品質は最高になります。そのあとは、植える薬草の種類を切り替えても、きちんと水まき、採取、種取り、再び耕す。このローテーションを崩さなければ最高品質を維持できます」
「ふむ……最高品質の薬草を確保するのに2カ月程度か、これは素晴らしいな」
「あくまで薬草の葉を見比べた限りの目安ですので間違っている可能性も……」
「その可能性も考えている。だが、それを織り込んでおいても、上質な薬草を短期間で大量に入手できるメリットは大きい。国王陛下、これはすぐにでも薬草畑……いえ薬草園を作る許可を!」
「慌てるな、宰相。その許可はすぐに出す。それで、辺境伯は私に献上したいものがあると聞いているが」
「はい。これも我が息子、スヴェインの制作したアイテムになりますが特級品のポーションとマジックポーションをご用意いたしました」
「なに!?」
いままでは平然としていた国王陛下が驚いた顔を見せました。
……そんなにすごいのでしょうか、特級品のポーション類って。
「陛下」
「オホン。それで、それはどこに?」
「一度城の研究者の検査を受けてから息子のマジックバッグに入れて持ってきております」
「……そうか。あまり数はないか」
「申し訳ありません。時間が足りず300本ずつをご用意するのが精一杯でした」
「な、いまなんと申した」
「はい。時間が足りず300本ずつしかご用意できませんでした」
「それは時間と材料さえあればいくらでも作れると言うことか?」
「はい。なんならこの場で息子に実践させましょう。作業に必要な素材と錬金台は持ち込ませてあります」
「わかった。この場での作業を許す」
「スヴェイン、できるな?」
「はい。作るのはポーションでしょうか、マジックポーションでしょうか?」
「可能であればマジックポーションを頼む」
「かしこまりました。では、始めます」
僕は作業台の上に魔草、魔力水、水風の錬金触媒を並べて錬金を行います。
そして完成したマジックポーションを瓶に注いで蓋をすれば完成ですね。
「宮廷魔術師長、鑑定を」
「は、はい。……間違いなく特級品です」
「このような子供が、いとも容易く特級品を作るというのか……」
「もちろん種も仕掛けもございます。ですが息子にそれを語らせるつもりはありません」
「わかっておる。錬金術の秘術まで聞き出すつもりはない。それで、辺境伯領に戻ったあとも特級品のポーション類は作れるのか?」
「何らかの理由で薬草畑がだめにならない限り、作り続けることが可能です」
「よし、シュミット辺境伯よ。特級品のポーションとマジックポーション、定期的に購入させてもらう。金額と購入数は後日人を遣わす……と足元を見る愚か者がいる可能性があるか。このあと宰相と詰めよ」
「承知いたしました」
「スヴェイン、残りの特級品のポーションも取り出してもらえるかな?」
「かしこまりました。こちらに積み上げればよろしいでしょうか?」
「そうしてもらえると助かる」
「では……」
僕はポーションとマジックポーションが詰まった箱を積み上げていきます。
一箱50個入りなのでそんなに数はありませんのですぐ終了ですが。
「軍務卿、近衛騎士を連れてきてポーションを運び出せ。慎重にな」
「かしこまりました」
1つずつの鑑定はいいのかなと思ったのですが、別室で複数人をつけて行うそうです。
確かに合計600本を鑑定は大変ですものね。
「さて、今回の件の褒美だが……どの程度のものを望む?」
「やはり国王陛下でも悩みますか」
「シュミット辺境伯も意地が悪いな。薬草園が機能するかどうかにもよるが、成功すれば一大革命だ。なんなら、辺境伯領の税金を100年免除とかでもよいぞ?」
100年! それはすごい!!
ですが、お父様はまったくなびいてませんね。
「今回の褒美ですがふたつのことをスヴェインにお認めくださいませ」
「なんだ、お主はいらぬのか?」
「子の功績を取るほど落ちぶれてはおりませぬ。まずひとつ目ですが、スヴェインとその連れに対して王宮図書館の蔵書を閲覧する権利をお与えください」
「その程度か? そんなもの特級品のポーション1個でもおつりが来るぞ?」
「問題はふたつ目です。息子に時空魔法を教えられる師匠を見つけていただきたく」
「……時空魔法」
「……確かに、それは難題だ」
あれ、場が凍ってしまいました。
お父様、かなり無理なお願いをしたのでは?
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