671.滞在五日目:ディーンの帰還

 滞在五日目、昨日の夜はユイたちと一緒にお酒を飲んでから寝ました。


 ユイは本人の望み通り酔い始めると僕たちに甘えだし、最終的には『アリアと一緒に三人で愛し合おう?』とまで誘惑してくる始末。


 さすがに僕とアリアのふたりで諭し諦めさせましたが、ケチと言われて僕たちをうなりながらポカポカ叩き続けましたね。


 そして叩き疲れると僕とアリアを抱き寄せて寝息を立て始めましたし、アリアとふたりで起こさないように寝かせるのが大変です。


 そして今日目覚めると、想像通りユイは顔を真っ赤にしていました。


「スヴェイン、アリア……昨日の夜言ったことは忘れて……」


「あら、三人で愛し合う覚悟は決めましたわよ?」


「そうですね。ふしだらだとは感じますが、愛するユイの頼みなら」


「謝るから許して……」


「まあ、今日はこのくらいで許してあげますわ。次に言い出したらあなたが愛されているところをじっくり上から見物させていただきますが」


「それがいいでしょう。かわいい顔をたっぷりと見せてあげなさい」


「本当に許して……ごめんなさい……」


 かわいいユイが困り果てたところで念のためユイに二日酔い止めの薬を飲ませ、それぞれの私室へと送り出しました。


 僕とアリアはアルコールが効かないので二日酔いなどあり得ないのですが。


 さて、着替えたら朝食です。


「あら。おはよう、スヴェイン。早いわね?」


「おはようございます、お母様。お母様こそお早いですね」


「私はアンドレイ様がお酒を飲んでいないか確認していただけよ。昨日の夜、ユイには渡したけれど」


「ええ、三人で飲みました。かわいらしいおねだりをしてきましたよ」


「そう。夫婦仲がいいのはいいことだわ」


「ありがとうございます。お母様、今日の予定は?」


「私はミライを教育するだけですね。あなた方は?」


「特にこれといった用事は入っていません。弟子たちもどうするでしょうね?」


「サリナは街の仕立屋で修行させる手配がついたそうですのでそちらに向かわせるようです。コンソールでは味わえないシュミットの技術、あの子にとっても学びになるでしょう」


「それはよかった。そうなると僕たちの予定も早めに決めないと」


「昨日のようにフランカのお相手をしてあげては?」


「毎日僕やシャルが鍛えても仕方がありませんよ。それならば崩れている姿勢や歩き方を矯正していただいた方がよろしいでしょう」


「ああ、やはり崩れていましたか」


「グッドリッジにいた頃、無理をしていたせいで足の骨を痛めていました。そのせいで姿勢などが崩れています。そちらの指導もしてあげた方がよいでしょう」


「そうですね。私も貴族になったときは厳しく指導されました。フランカと相談してそちらの講師も決めましょう」


「はい、お願いします。そろそろ皆が集まる時間ですね」


「ええ。スヴェインも席に着きなさい」


「わかりました」


 席に着いて少し待っていると全員が続々と集まってきて朝食となります。


 朝食後は本日の予定確認ですが……やはり僕たちのやることがありませんね。


「お兄様、この四日間はなにかと動き回っていたのです。公王邸でゆっくりしていてもいいのでは?」


「うーん、最近コンソールでなにかと忙しかったせいかのんびりするのももったいない気がするんですよ」


「私は公太女のお仕事として各講師たちの視察に行って参ります。お兄様はついてこないでくださいよ?」


「ついていきませんよ。シャルのお仕事は邪魔しません」


 ですが、そうなると本当にやることのない一日です。


 明日には錬金術と服飾の養成所を回るのですが……。


「ちなみにニーベちゃんとエリナちゃんはやることがありますか?」


「買ってきた錬金術の本を読んで実験するくらいなのです」


「それくらいしか今日はやることがありませんね」


「アリア、ユイ。なにか希望は?」


「あえて言うならスヴェイン様とゆっくり庭園散策を楽しみたいです。幼かった頃のように」


「あ、私もそれを体験してみたい」


「では夫婦三人で楽しみませんか?」


「そういたしましょう」


「賛成」


「では決まりましたね。お兄様たちものんびりしてください」


「今日はそうします」


 ニーベちゃんとエリナちゃんはまたアトリエにこもると言うことなので僕たち三人は公王邸の庭園に。


 本当はニーベちゃんとエリナちゃんにも研究以外の事を楽しんでもらいたいのですが……初日に子供たちが襲ってきたのを恐れているのでしょうね。


「ここは昔とあまり変わっておりませんね」


「公王邸の庭園ってこういう風になっているんだ……」


「ユイは初めてですから。感動もひとしおでしょう」


「うん! ありがとう、アリア、スヴェイン!」


「いえいえ。私も七年ぶりに見てみたくなりましたから」


「そう言えば動乱で帰ってきたときは一カ月間があっても庭園でのんびり過ごす余裕はありませんでしたね」


「あの時はカイザーたちと共に念のための国境警備などを行っておりましたから」


「あの動乱の時、ユイはどうしていたのですか?」


「私? カイザー様が使う旗の作製を手伝っていたよ。少なくとも街の機能を死なせない範囲で可能な限りすべての服飾師が集められていたから……待機している服飾講師は全員参加していた」


「そうでしたか。カイザーの持ち運ぶ旗です。相当苦労したのでは?」


「言いたくはないけれど苦労したよ。カイザー様が持てるだけの大きさの旗を用意しなくちゃいけないんだもの、生地を集めるだけでも一苦労。それを縫い合わせるのだって竜が持って飛んでも破けないように強く縫わなくちゃいけないから【頑強】のエンチャントを複数名で多重処理。布地だって同じことをしたし……旗の形を作るだけでもそれ。そこから更に辺境伯家の家紋をその巨大なサイズの旗に施さなくちゃいけないんだから、最上位講師の皆様が頭を抱えるほど細かい作業になってた。それを毎日、日の出から日没まで繰り返して一カ月に間に合わせたけど……二度とあんな日々は送りたくない。私、最終日に帰ってそのままベッドで眠って目が覚めたのって三日後だったから」


 ……そこまでぎりぎりでしたか。


 黄龍の示した期間が短く早め早めに動かないとどうなるかわからなかったとはいえ急かしすぎたのでは?


 結果として春の三カ月で内乱終結が出来ましたが……遅れればどうなっていたかわかりませんからね。


「あの時は街の聖獣様や精霊様、妖精たちもピリピリして非常事態なのは全員知っていたから無理をしてでもがんばれたけれど、二度と同じことはしたくないからね、スヴェイン、アリア」


「わかっていますよ」


「かわいいユイに無理などさせませんわ」


「ありがとう。ところであの花って私の知識が間違っていなければ春の花だと思うんだけれど……」


「そう言えばあちらにある花。あれも秋に咲く花ですわね……」


「確かに。昔と変わらない庭園だ、としか見ていませんでしたが……細かく見てみるといろいろ変わっています」


「……これって確実に聖獣様か精霊様、妖精のどれかが絡んでいるよね?」


「ええ、間違いありませんわ」


「この様子だと花が咲かないはずの冬でもこの庭園では花が咲いていそうです」


 この日の午前中はこのまま庭園探索をして過ごしました。


 のんびりとした時間を過ごせてよかったですね。


 アリアとユイも楽しんでくれましたし。


 さて、昼食の時間となり食堂に向かってみると人影がひとり分増えていました。


 そう言えばシャルが呼び出していると言っていましたね。


「久しぶり、兄上!」


「ええ。久しぶりです、ディーン。変わりないようでよかったですよ」

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