644.第零泊目:シュミット家の歓迎
「「「お帰りなさいませ、スヴェイン様、アリア様。ようこそいらっしゃいました、ユイ様、ニーベ様、エリナ様、リリス様、サリナ様、ミライ様」」」
「な、なに!?」
「び、びっくりしたのです!?」
「先生!?」
「これって!?」
「なんなんですかぁ!?」
「デビス、やっぱりですか」
「デビス、私どもはただの『里帰り』ですよ?」
「毎年これをやるつもりですか、デビス?」
「毎年やりますとも、リリス。スヴェイン様とアリア様がお帰りになるのですからな。それに、今後は第二夫人にお弟子様まで一緒なのでしょう? 実にめでたい!」
「スヴェイン、アリア、リリス! 三人で納得していないで説明!」
ユイ、半泣きで怒りだしてしまいました。
よっぽど驚いたんでしょうね。
「これは……まあ、貴族式による賓客の招き方です」
「上級使用人たちを集め、玄関ホールで待ち構えて一斉にあいさつを行う。一般的な儀礼ですわ」
「私はスヴェイン様とアリア様付きになってから外されましたが、それ以前はよくやっていました」
「賓客……私たち、賓客?」
「賓客に決まっているでしょう、ユイ。お兄様の妻なのですから」
「え? シャル様? どうしてここに?」
「ユイ。私、シュミット公国の、公太女、忘れてませんわよね?」
「いえ、忘れてませんけれど……コンソールにある大使館は?」
「オルドに預けてきました、お兄様たちの宿泊予定に合わせて。私の最終決裁が必要な書類以外が溜まっていたら指輪を投げ返すと耳元でささやいてきましたので必死でしょうね」
「シャル様、耳元でささやくのは愛の言葉だけで……」
「覚えの悪い補佐への愛の鞭です」
「そうですか……」
ユイもシャルに口げんかで勝てるわけないでしょうに。
諦めの悪い。
「お兄様たちもなぜ今回の帰郷予定を教えてくださらなかったのですか。水くさい」
「そんなことしたらついてくるでしょう。実際、今ここにいますし」
「当然です。半月くらい私がいないところで機能不全を起こすほどやわではありません」
「……そんなに甘えたかったんですか?」
「っな!? 断じて違います!! そんな不純な動機ではありません!! ただ、家族の時間をほしかっただけです!!」
「まあ、そういうことにしておきましょう。シャルとばかり話していると先に進みません。お父様とお母様にも会わせてください」
「あ、そうでした。お父様、お母様、どうぞ」
シャル、あなたもお父様とお母様の扱いがなにげに酷いですよ。
さて、シャルが退いたことでお父様とお母様が登場したわけですが……この空気、どうすればいいんでしょう?
「……あー、去年の秋以来だな、スヴェイン」
「ええ、お久しぶりですわ。スヴェイン」
「お久しぶりでございます。お父様、お母様」
「お久しゅうございます。お義父様、お義母様」
「お久しぶりでございます。アンドレイこうお……お義父様。ジュエルお義母様」
「おお、ジュエル! ユイも私のことを義父と!」
「そうですわね。アリアから呼ばれるのとはまた違い、こみ上げるものがあります」
「その……この一年でいろいろと覚悟を決めさせていただきました」
「そうか! ところで、アリアよ。その……ミライはまだ〝妻〟の座は剥奪したままか?」
「当然でございます。仕事で大失態を犯すような不届き者、居候として家に残してあげているだけでも感謝していただかねば。〝妻〟に戻りたいのでしたらより一層の努力と成果を出していただかないと」
「……スヴェイン、お前の意見は?」
「概ねアリアに賛成です。やり過ぎたら止めますが」
「厳しすぎるぞお前たちは。それからお前たちの弟子もよくきてくれた。そちらの新顔は?」
そういえばお父様はサリナさんに会ったことがありませんでしたっけ。
彼女の紹介はユイがしてくれるでしょう。
「私の弟子でエリナの姉、サリナです。エリナに比べ遙かに努力の足りない未熟者ですが、私の弟子と認められるだけの結果は出しましたので弟子にいたしました。いまはスヴェインの家を間借りして子供服専門の洋服店を修行とし営ませています」
「ふむ、腕は確かか?」
「〝シュミットの賢者〟の服飾学中級編、それの中程までならマスターしております。あとはエンチャント容量圧縮が覚えられれば服飾学から学べるエンチャント系技術はもうありません」
「もうない? 服飾学には【斬撃耐性】や【刺突耐性】なども……」
「彼女は【付与術】しか持っておりません。【付与魔術】が必要な防護系エンチャントは不可能でございます」
「そうか……サリナと言ったな。お前はそれでよいのか?」
「はい。構いません。【付与魔術】の存在もユイ師匠の元に弟子入りしてから初めて知った次第です。それに私のお店は下町の〝子供服専門店〟です。防護系エンチャントが必要になるような重要製品は手に余ります。そういった製品はふさわしい方に回していただければ嬉しく考えます」
「……それだけの考えを持てるのであれば防護系エンチャントを扱えないのは実に惜しい人材なのだが。扱えぬのであれば仕方があるまい。それよりいつまでも玄関ホールで立ち話もなんだ。バルコニーにでも行って茶にでもしよう。お前たちもそれで構わないな?」
「あなた、部屋に案内して着替えさせるとか考えさせたら? スヴェイン以外は皆女性なんだから」
「う……うむ。済まぬ」
「そういうわけだから、あなたたちを各自の部屋に案内させるわ。ユイとリリスの専用部屋も用意してあるから気軽に使ってね」
「私もですか!?」
「ジュエル様。私は使用人なのですが……」
「ユイはちゃんと夫人の寝室を用意してあるわ。スヴェインとアリアの寝室の側にね。リリスの寝室もその近くよ。なにかあったとき、すぐ駆けつけられないのは不便でしょう?」
「それは……はい」
「それ以外の子たちは客間ね。アリアの指示通りに割り振らせてもらったけど……いいの?」
「構いません。文句があるのでしたら蹴り出します。それでも泣き言を言うのなら、シュミットに置き去りにします」
「アリア様。それ、遠回しに私の扱いが最低ランクだって言ってますか?」
「はっきり言います。公王家の中で最低ランクの客間を用意していただきました。それでも普段の使用人室より遙かに広いですし、ベッドも寝心地がいいはずですよ? 寝過ぎて朝食の時間に遅れたりしたら街に蹴り出しますが」
「気をつけます!」
「アリアも第一夫人として家庭を支えられているようで安心したわ」
「当然ですわ」
アリアはやり過ぎな気がしますが……女の問題には口を挟まない方がいいでしょう。
あとが怖いですし。
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