353.ウサギのお姉ちゃん、内弟子体験二日目 後編

 内弟子体験二日目早朝、上薬草と上魔草、それも最高品質の薬草畑という衝撃の光景を見せられて私は軽いパニックを起こしてしまいました。


 薬草の収穫作業が終わったあと、ニーベ様とエリナ様は着替えを済ませて朝の指導を受けられています。


 私も魔法研磨の指導を受けようとしたのですが、原石を取り出すことすらできず朝食の時間に。


 私、なにをしにきたんだろう……。


 そして朝食を食べ終わったあと、かなり厳しいを受けることになってしまいます。


「エレオノーラさん。あなた、今日は子供たちの講習をおやすみしてください。こんなところで使いたくないのですがギルドマスター命令です」


「え、でも! 講習は……」


「講習は僕が午前午後ともに代理として実施します。あなたは今日一日休んでいなさい」


「ですが……」


「気が付いていないでしょうが、かなり顔色が悪いです。今のあなたを講習に出せば子供たちにも心配をさせますし、最悪教えている途中であなたが倒れます。なので、あなたは今日お休みです」


「は、はい……」


「今日の講習の内容と子供たちの様子は、明日の朝にレポートを出しますのでご心配なく。ニーベちゃんとエリナちゃんは……」


「家で自習しているのです」


「先生がいないのにギルドに行くのもちょっと」


「わかりました。エレオノーラさんはくれぐれも無理をしないよう。リリス、このあとエレオノーラさんを自室で休ませてあげてください」


「かしこまりました」


「では、僕はこれで。……本当に無理はしないでくださいね、エレオノーラさん」


「申し訳ありません、ご心配をさせてしまい」


「いえいえ。それでは」


 私、本当になにをしにきたんだろう?


 お勉強に来たはずなのに姉弟子たちの覚悟と気迫に圧倒されて、家の皆さんの勤勉さに驚かされて、薬草畑なんていう重大な秘密まで見せていただいて……。


 こんな覚悟じゃ、私……。



********************



「……あれ?」


「気が付きましたか?」


 なんで私ベッドで寝ているの?


 それに窓から見える空もあんなに赤く染まって……。


「エレオノーラ様、どこまで覚えていますか?」


「どこまで?」


「はい。です」


 今朝……確か薬草畑を見て、朝食を食べて、講習会を休まされて……。


 あれ?


 なんでもう夕方なの!?


「……そのご様子ですと何も覚えていませんね」


「申し訳ありません。なにがなんだか……」


「あなたはスヴェイン様とミライ様が出勤されたあと少し立ち尽くし、そのまま気絶いたしました。さすがの私でも少し焦りましたよ?」


「……申し訳ありません」


「いえ。この家は刺激が強いですから」


「刺激……そうだ! スヴェイン様は!?」


「もうお帰りです。アトリエにてニーベ様とエリナ様の指導をされています。伝言ですが、あなたは今日アトリエに立ち入り禁止だそうです。今日一日たっぷり英気を養って明日の業務に備えてほしいと」


 うう……。


 本当に情けない。


 朝から今まで気絶していた上にスヴェイン様にまでそこまで心配されるだなんて。


「ともかく、もうすぐ夕食です。ここで食べますか? それとも……」


「皆さんとご一緒させてください。そこまで甘えてしまってはこの家にいられなくなります」


「……もう少し甘えてもいいのですが。ともかく、今日のあなたは静養です。それだけは守るように」


「はい」


 リリス様の言いつけ通り、夕食の時間までベッドで横になり夕食は皆さんと一緒にとりました。


 その際、全員から心配されてしまいましたが……こればかりは本当に心配をかけてしまったので仕方がありません。


 そして、夕食が終わったあとはスヴェイン様たちはまたアトリエに向かい指導をされるそうです。


 ……悔しい。


 私もあの輪に加わるためにここに来たのに。


 リリス様からはそんな焦りを見抜かれたのか『気分の落ち着くお茶です』と言われてお茶を差し出される始末。


 本当になにをしにきたんだろう、私……。


 その夜、夜が更けてから喉が渇いたので一階にある食堂まで水を飲みに行こうとしましたが、二階の一室から灯りが漏れていることに気が付きました。


 そこはスヴェイン様の書斎で、そっと中をのぞき込むと熱心になにかをまとめていらっしゃるスヴェイン様が。


 スヴェイン様もこの時間まで作業されているんだ……。


 私も本当に覚悟を決めないと。


 翌朝、アトリエの入室制限が解除されたため朝の指導に混ぜていただきました。


 そのとき、スヴェイン様に少しだけお願いも。


「ニーベちゃんとエリナちゃんが薬草畑の管理をしている間、指導をしてほしい?」


「はい。毎日とは言いません。子供たちに心配をかけないよう、講習会の日はたっぷり眠らせていただきます。それ以外の日はご指導をお願いできませんか?」


 私はスヴェイン様の目をじっと見つめながら必死に視線で訴えかけます。


 返ってきた回答は。


「無理だと判断したら自室に戻らせますがそれでいいなら。あまり急いでこの家に慣れなくても大丈夫ですよ?」


「いえ、お試しとは言え内弟子になる覚悟を持って来たんです。その程度はさせてください」


「はあ、あなたも頑固者です。本当に無理そうなら休ませますからね? あと、子供たちに心配をかけさせないように。昨日も僕しかいなかったせいで『ウサギのお姉ちゃんはどうしたの?』とたくさんの子供から聞かれて大変だったのです」


「はい。申し訳ありませんでした」


「あなたの覚悟、受け取りました。それでは指導に入りましょう」


「はい!」


 これでようやく。


 にしてようやくです。


 まずは朝の指導をこなしたあと、ギルドで業務を集中してこなさないと。


 それから子供たちにもこれ以上心配させないようにもね!

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