627.見習い錬金術師 トモ 6
「まりょくすい~まりょくすい~今日も元気にまりょくっすい~」
あの一件から一週間ちょっとが経ちましたが今日も私は元気!
あの数日後に行われた蒸留水の作製テストで不合格になり支部送りにされた人も何人かいてアトリエが再編、いまはふたつのアトリエで新規入門者が指導を受けていた。
蒸留水習い始めてから四日目で並行して習い始めたのが『魔力水』です。
これは蒸留水の中に魔力を流し込んで作る錬金術の基本素材らしい。
先輩たちのやり方を見て学んだ私は『魔力水』作製も何回かで安定するようになった。
魔力水からはまた魔力を使うようで魔力枯渇を起こすようになっちゃったけど……気持ち悪いのにも慣れてきたから平気!
それに、最近はお友達も増えてきたし!
「あ、トモちゃん、おはよう」
「おはようございます。トモちゃん」
「おはよう、ネーヴちゃん、メアリーちゃん!」
ネーヴちゃんとメアリーちゃんはアトリエが再編されてからのお友達。
ふたりとも本当に優秀で私も負けてなんていられない!
「トモちゃん、昨日って何回くらい仮眠室に行ったの?」
「うーん、八回くらい? ネーヴちゃんとメアリーちゃんは?」
「私は五回」
「私は六回ですわ」
「じゃあ、あまり変わらないね!」
「トモちゃんは一日の半分くらいを仮眠室で過ごしている計算だよ? もう少し加減しよう?」
ネーヴちゃんは昔の錬金術師ギルド本部があった付近で暮らしている女の子。
赤茶色の髪が少しくせっ毛になっていてとってもかわいい。
去年の冬にはあの近辺でお買い物をしたら子供服専門だけど自由にエンチャントもかけてくれるお洋服屋もできたみたいで、お金が貯まってお休みがもらえるようになったら三人で一緒に行こうって約束してるの。
私たち三人とも背が小さいから着られる服があるかも知れないし。
「そうですわ。トモちゃんはもう少し自制なさい。私も多いのですが」
メアリーちゃんは古くからある大店のお嬢様。
金髪に大きなリボンが特徴でこっちはこっちでとってもかわいいの。
錬金術師ギルドに通うようになってからは一般庶民向けの服を着て歩くようになったらしいけれど、こっちの方が動きやすいって。
なんだか綺麗なドレスとかの方がイメージに合ってるんだけどなあ。
「あら、今日も早いわね。問題児三人組」
「ジャニーン先輩おはようございます」
「おはようございます。ただ問題児は……」
「そうですわ。さすがにその呼び名は……」
「今のところ新人で魔力枯渇を起こすほどはりきっているのは、あなた方を含めて六人だけよ。まったく、トモは魔力操作から毎日魔力枯渇を起こしていたし、あなた方は魔力水で魔力枯渇を起こすし。明日からはポーション作りの指導も始めるけれど……魔力枯渇を起こす回数は減らすように心がけてね?」
「約束できません!」
「トモ。力いっぱい断言しないで」
「ギルドマスターからいただいた指輪があると錬金術を使いやすいんです! 仮眠時間が短くても大丈夫だし!」
あの騒動があった翌々日、就業時間後にギルドマスタールームに呼び出されて各個人に渡されたのがこの指輪。
見た目が綺麗なデザインリングなんだけれど……これをはめてからすっごく調子がいいの。
「あ、私もそれは感じた。前は三十分くらい寝てなくちゃ気持ち悪いのが治らなかったけれど、いまなら十分くらいでも大丈夫だからね」
「私もです。先輩方には『二十分は寝ろ』と指導されていますので二十分寝ておりますが……」
「ギルドマスター。【魔力運用効率上昇】はいいですけれど、なんで【休息時魔力回復速度上昇】なんてエンチャントをかけた指輪を渡しているんですか……」
「あ、これってやっぱり特別製ですか?」
「特別製です。個人認証……あなた本人以外ではエンチャントが発動しないように細工もしてあるでしょうがギルドマスター以外には作れません。くれぐれもなくさないように」
「はい!」
「わかりました」
「承知いたしましたわ」
「結構。ギルドマスター、この子たちに渡すならせめて【魔力回復速度上昇】に……」
うつむいちゃったけど……ジャニーン先輩、大丈夫かな?
ともかく、私は自分の席へ。
ネーヴちゃんやメアリーちゃんと並びの席。
先輩方が『お前らはいろいろ心配だからくっついて見やすいように側にいろ』って言われてこの配置なの。
私たちは都合がいいんだけれど……なんでだろう?
私のあとも続々新規入門生が集まって来て就業時間、いよいよお仕事、錬金術のお勉強です!
「とりあえず魔力水だけを作るのは今日で最後よ。明日からは傷薬とポーションの作り方を並行で教えるわ。ただし、満足に魔力水も作れていない連中には作り方の指導はしても練習はさせない。作りたければ今日中に結果を出すこと。傷薬もポーションも一般品質になっていればギルドで買い取るからお給金に反映されるわ。今月は初期研究参加名目で成果物がなくても多少の給金が出るけれど、来月以降は納品がなければ給金もなし。覚悟しなさい」
「「「はい」」」
あ、今月って納品しなくてもお給金もらえるんだ。
意外と優しいのかも。
「それでは各自好きなように練習を。問題児三人組は……加減してね」
「酷いです先輩」
「トモちゃん、私たちは言われても仕方がないよ」
「でも上を目指すためには仕方がないですわ」
「メアリーちゃんもそういう問題じゃなくて……」
「ネーヴちゃんは止まれますの?」
「……止まれない」
「……止まってちょうだい、三人とも」
********************
「ん……」
私は今日も絶賛魔力枯渇を起こして仮眠を取りました。
今日は……四回目かな?
でも、ネーヴちゃんとメアリーちゃんも私より先に魔力枯渇を起こして休んでいたから強く言えないはず。
「あ、起きましたの。トモちゃん」
「おはようトモちゃん」
「おはよう。ふたりはアトリエに戻ってないの?」
「多少の時間、誤差ですわ」
「そうだね。それより魔力視でお互いの魔力操作を確認しあってたの」
はい、私たちは三人とも魔力視が使えます。
最初は私が意図的に使っていただけなんだけれど、ふたりにやり方を教えたらすぐにできたみたい。
こんなところでも負けられないなあ。
「そっかー。私も見てみたい」
「いいよ。トモちゃんのも見せて」
「私も見てみたいですわ」
「いいよ。私のはこんな感じ」
「……なるほど。左手が起動で右手は補助、渦を拡大するときは右手側の魔力を弱めて空気を取り入れているんだ」
「そんな感じ。ネーヴちゃんは?」
「私はこう」
「右手が起動で左手は補助、拡大するときは……渦の真ん中から空気を取り入れてるんだね」
「そうかな、私は右利きだから。メアリーちゃんは?」
「私はこうなりますわ」
「……? 渦が両手の中央からできて両手で補助しているの? それに空気も下から取り込んでいる?」
「私はこれが一番安定しましたの。右手や左手から渦を発生させると大きくするときに不安定になってしまいまして」
「魔力操作だけでこれだけ差があるんだね」
「魔力水作りで手順は参考にしてもいいけどそれをなぞっちゃダメって言うのもわかるかも」
「傷薬やポーションでもきっとそれはありますわね」
「もっと先のお薬でもあるよね」
「便利なだけじゃないね、魔力視」
「お父様も言っていました。便利なものに頼りすぎると落とし穴に落ちる、と」
「じゃあ、使いすぎないようにしようか」
「そうしよう」
「そういたしましょう。そろそろアトリエに戻って練習再開ですわね」
「あまり休んでいるとジャニーン先輩に怒られるね。頑張らないと!」
「……多分、私たちは頑張りすぎだって怒られるよ?」
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