622.見習い錬金術師 トモ 4
錬金術師ギルド入門一週間目が終わり二週間目。
今週は『蒸留水』の作り方から始まるそう。
ニーベお姉ちゃんはこれも簡単に作っていたけれど……大変なんだろうな。
「さて、今日からは本格的な錬金術指導の前段階、『蒸留水』を指導していくわ。これが作れないなら本部も支部も関係なしについてくることができないから死ぬ気でついてきなさい」
今日もジャニーン先輩は発言が過激だ。
でも、具体的に『蒸留水』ってどんなお水なんだろう?
「一言で『蒸留水』と言われてもわからないでしょうが、簡単に言ってしまえば水以外の不純物が極めて少ない水のことよ。『蒸留水』を使っていないポーションは買い取りしないから注意なさい」
不純物が極めて少ない……どんなお水?
「まあ、これでもわかりにくいでしょうし実演してあげるから前へ集まるように」
ジャニーン先輩に促されるまま私たちは前の方に集まった。
そして、ジャニーン先輩が取り出したのは……井戸水……かな?
「見ればわかる人も多いでしょうけどこれはただの井戸水よ。私たちは濾過とかそういう工程を省いていきなり『蒸留水』を作っているの。あなた方には危ないから最初から湯冷ましを使わせるけれど、濾過用の布も渡すので好きに使って」
それだけ言うとジャニーン先輩は井戸水をすくって錬金台の上へ。
それから錬金術を発動。
すると、水の色がわかるくらい透明な色に変わった!
「これが『蒸留水』よ。井戸水はいろいろと不純物が多いから水の色すら変わってわかりやすかったでしょう? あなた方にもすぐに井戸水から作れるようになれだなんて言わないけれど、湯冷ましを作る時間も結構かかるから待ち時間を短縮したかったらいずれは井戸水から蒸留水を作れるようになってね」
「あの、本部錬金術師ってどれくらいの人ができるんですか?」
「全員できるわよ? 湯冷ましを作るための装置はあるんだけれど誰も使ってないわ。一週間に一回、機能テストで動かすだけね」
「ほかに蒸留水を作る方法は?」
「あるにはあるけど、錬金術師を目指すなら自力作成以外の道は目指さない! これが作れないとなにもできやしないんだから!」
「は、はい!?」
「『蒸留水』をマスターするまでの猶予は一週間。四日目からは別のことも教えるけれど六日目の帰り、確実に蒸留水を作れるかのテストをするわ。それに失敗したら問答無用で支部送りだから本部に残りたいなら頑張りなさい!」
「「「はい!!」」」
一週間で『蒸留水』を完璧か……きっと難しいよね。
でも、ニーベお姉ちゃんの指導を受けるためだもん、頑張らなくちゃ!
具体的な指導内容は各自の席に配られた湯冷ましをビーカーに移し、それを蒸留水に錬金術で変えるというもの。
蒸留水に変わったかどうかは飲めばわかる、と言うことだったので試しに湯冷ましを飲んでみたけど……いつものお水だ。
さて、今度は錬金術で『蒸留水』に変わるかどうか試してみなくちゃ。
魔力の流し方は……ジャニーン先輩はこれくらいでこうだったから、それを真似して……こう!
一瞬水が光って、透明度が増した……気がする。
さて、味に違いがあるか飲んでみよう……あれ?
「ジャニーン先輩、すみません」
「トモ、どうしたの?」
「水の味がしません」
「……なんで個別指導に入る前にできるわけ?」
「え?」
「おめでとう。それが『蒸留水』よ」
「え?」
「水の味ってね、不純物によって生まれるのよ。わかりやすく言えばお塩とか」
「はい。それはわかります。水に溶かしたら塩の味がしますから」
「『蒸留水』ってね、それらすべてを取り除いた水なのよ」
「なるほど。それで飲めばわかるんですね」
「そういうことよ。まぐれ当たりもあるし、何回でも試して頂戴。『蒸留水』の作製には魔力をほぼ使用しないはずだから」
「わかりました」
……こんなに簡単でいいのかな?
それともこんなに簡単だからこそ失敗したらいけない?
ジャニーン先輩に言われたとおり何回も、何十回も試していたけど毎回水の味はなくなっていて……。
試しに湯冷ましの味を確かめて見てから蒸留水にしてみたけれどやっぱり味はなくなっていて……どういうことだろう?
そんな中、ジャニーン先輩は同期たちをひとりひとり指導しながら回って来て最後に私の元にやってきてくれた。
ものすごく難しい顔をしながら。
「……その様子だと蒸留水に失敗した気配はないわね」
「はい。皆はできているんですか?」
「今のところはまぐれ当たりが数人。誰ひとりとして安定していないわ」
「……どうしてでしょう?」
「こっちが聞きたいんだけれど……どうしてあなたは蒸留水作りに失敗しないの?」
「ええと……先輩のお手本を見たからです」
「私のお手本? 普通に錬金術しか使っていなかったはずだけれど」
「そうですね。手つきとか、あとは……魔力の流れとか、魔力の強さとかを参考にさせていただきました」
「……え?」
「はい?」
「あなた、もう魔力視ができるの?」
「まりょくし、ってなんですか?」
「魔力操作の教本、持って来ている?」
「はい。休み時間に復習しようと思って」
「復習は構わないけれど魔力枯渇は避けてね。それで、この教本だけど魔力操作について書かれているのはこのページ、大体三分の二くらいまでしかないの」
「あ、本当だ」
「そこから先は魔力操作の応用技術、魔法に使う魔力収束法や魔力制御法、あとは魔力を一部分に集めてそれを動かす方法などね」
「そうなってますね。これも覚えた方がいいですか?」
「時間があれば覚えた方がいいかも。魔力収束や魔力制御は錬金術でも応用が利くから。錬金術師で重要なのはこっち、魔力視よ」
「魔力視」
「魔力視って言うのはその名前の通り魔力を見るための技術。この技術があれば相手がどんな魔法を使おうとしているか、どの程度の威力で使おうとしているか、あと、見えない場所にいるモンスターの居場所もわかるようになるって言っていたわね。ニーベ様とエリナ様は」
「そんなことまでできるんですか?」
「私は冒険者でも魔術師でもないからよくわからないけれど可能だそうよ。それで、錬金術師にとって重要な部分は他者の魔力の流れや強さを知れることなの」
「それができるとどうなるんですか?」
「錬金術を学ぶ上でいくつかの過程、魔力の強さを推し量ると言う段階をある程度省くことができるわ」
「それって便利なんでしょうか?」
「便利でもあるし真似しすぎると癖まで移ってしまってうまくいかなくなる場合もある。少なくとも蒸留水程度なら癖なんて気にしなくていいからその手順を頭と腕に叩き込みなさい」
「わかりました」
「次段階、『魔力水』以上は……個人の癖も出てくるから完全に真似しないように。最初は真似をしてもいいけれど、それがあなたの癖になってしまうとダメになるわ。手順を見いだすための能力と考えてそれ以上は頼らないようにしなさい」
「はい。ご注意ありがとうございます」
「わかってくれれば結構。とりあえず、あなたも蒸留水を作り続けて頂戴。あまり無理を……無理をしても蒸留水なら大丈夫なのよね……」
「ええと……ほどほどにします」
「くれぐれもほどほどにね」
魔力視かぁ。
知らない間にすごいことができるようになっちゃってたみたいだけれど、慢心しちゃいけないよね。
もっともっと上を目指さなくちゃ!
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