623.見習い錬金術師 トモ 5
「……トモ、本当に蒸留水を失敗しないんだな」
「はい! ユルゲン先輩の技術も真似してみました!」
「……本当に魔力視もできているか。ジャニーンが言っていただろうが魔力水以降ではあまり過信するなよ?」
「はい!」
蒸留水の作り方を教えてもらってから三日目。
今日も私は蒸留水作りです!
家に帰ってからは毎日魔力操作の練習を繰り返していますし、本当に毎日が楽しい!
そんなことを考えていたら終業時間を知らせる鐘の音が響いてきました。
今日もこれで終わりですね。
「それじゃ今日はここまでだ。蒸留水のテストまでは残り三日、手を抜くなよ」
ユルゲン先輩も出ていったし、ほかの同期の皆も帰り支度を済ませて帰って行っている。
私も早く帰らなくちゃ!
「おい、お前、トモだよな?」
「はい? トモですが……なにか?」
「ちょっと俺たちについてこい」
「え、いいですけれど……なんのようですか?」
「ついてくればわかる」
「はあ……」
一体なんのようだろう?
見たことのない人たちばかりだし……。
連れて来られたのは仮眠室前、一体?
「お前、もう蒸留水を完璧に作れるんだってな?」
「はい!」
「それも初日から、失敗することなく」
「失敗……したことはないですね」
「それに魔力操作も完璧だそうじゃねえか」
「完璧ではないですよ? まだまだ家では失敗しますから」
「だが、講師に入っている先輩方からは褒められているんだろう?」
「褒められていると言うか……やり過ぎだって注意されています」
「……生意気だな、年下のくせに」
「はい?」
「生意気だっつってんだよ! テメエ、十三歳だろう!? だったら年長者に道を譲るくらいしろ! ガキ!!」
「ひぅ!?」
怖い!?
どうしてこの人たちこんなに怒っているの!?
「俺たちはな、〝栄誉ある〟錬金術師になるためコンソール錬金術師ギルドに入ってんだよ! お前みたいなガキとはわけが違う!!」
「〝栄誉ある〟錬金術師?」
「そうだ! 『コンソールブランド』の発祥! コンソール革命の象徴!! そんなギルドに入るため苦労して錬金術師ギルドに入ってんだ!! それをお前みたいなガキが一番目だって許されるとでも考えて……」
「考えているのですよ?」
「誰だ!?」
「ニーベお姉ちゃん?」
「はい。『新生コンソール錬金術師ギルド』ギルドマスター直下特別錬金術師のひとり、ニーベなのです」
私を連れてきた人たちのあとから来たのは間違いなくニーベお姉ちゃん。
でも、その瞳はすごく怒っていて……その周りにいるのは多分聖獣様たちだけれどそちらも皆、いまにでも獲物に飛びかかろうとしている。
一体なにが……。
「……先生から今年は質が悪いとは聞いていたのですが、ここまでとは予想を遙かに上回るのです。明日は支部に押しかけてシュミット講師の皆さんに文句を言うことが決定なのですよ」
「な、なんの話を……」
「選ばせてあげるのです。この場にローブを置いて錬金術師ギルドから永久に立ち去るか、私の聖獣さんたちによってコンソールの外に捨てられるか。……ああ、安全のために聖獣の泉近辺に捨ててもらうのです。市民証とかを持ってなくて再入国できなくても私の知ったことじゃないのですがね」
「え……」
「判断が遅い! 強制退場! 聖獣さんたち、やってしまうのです!!」
ニーベお姉ちゃんの指示によって聖獣様たちが私の前にいた方々に襲いかかり、ローブを奪い取ると意識を刈り取ってどこかに消してしまいました。
一体なにが!?
「……遅くなってしまったのです、トモちゃん。ごめんなさいですよ」
「ニーベお姉ちゃん!」
私はニーベお姉ちゃんを見ると今更のように怖くなって泣きついてしまった。
ニーベお姉ちゃんもそれを突き放すことなく抱きしめてくれて……とっても心地いい。
「本当に遅くなってしまったのです。私も聖獣さん並みの移動速度があればいいのですが、『ワープ』の魔法はまだ習っていないのですよ。申し訳ありません」
「ううん、お姉ちゃんは悪くない。悪くないよ」
「私はギルドマスター直下特別錬金術師のひとり、正式なギルドの研究職ではないのですがそれでも指揮系統で言えばいまは第二位なのです。その管理者が悪事を未然に防げなかったことは私の罪なのですよ」
「お姉ちゃん……」
「だから、いまは思いっきり甘えるのです。それくらいしかしてあげられることがないのです」
「……ありがとう、お姉ちゃん」
私はそのままお姉ちゃんに抱きついたまましばらく過ごし、気分が落ち着いたら離れた。
気が付いたらかわいらしい聖獣様たちが私の周囲を取り囲んでいて……こういうのもいいな。
「もういいのですか?」
「うん。ありがとう、ニーベお姉ちゃん」
『まったく。我も数カ所同時に守ることはできぬぞ』
「ひゃう!?」
気が付いたらお姉ちゃんの後ろに普段は前庭で横になっている聖獣アーマードタイガー様が!?
「アーマードタイガー。先にトモちゃんを守ってもらいたいのです」
『ほかにも動いた愚か者どもが先にいた。我はそちらの対処に行っていてこちらまで間に合わなかった。済まぬ』
「ほかは大丈夫だったのですか?」
『聖獣郷の主も手勢を動かした。すべてを制圧したので問題ない』
「すべて……そこまで愚か者が多かったのです?」
『ほかにも被害を受けそうだったものが数名。まったく、我の守る城をなんだと心得ているのか』
「アーマードタイガー、数年後に私たちはいなくなるのですよ? ひとりで守り切れますか?」
『む……我が誇りにかけ守り切ろう』
「よろしく頼むのです。トモちゃん、家まで送るのです。アトリエに戻って荷物を取りに行きましょう」
「はい!」
お姉ちゃんに言われたとおりアトリエに戻ってみると、もう誰もいなくて……でも、荷物は残されているのが不思議かな?
荷物を持ったらお姉ちゃんに家まで送ってもらい、ギルドマスターからの計らいと言うことで数日休んでも構わないと言われたけれど……怖くてもやっぱり上を目指すなら立ち止まれない!
そういうわけなので翌日もギルドへ出勤、そうしたらアトリエの中の人たちが結構減っていて、どうしたんだろう?
「ああ、トモ。あなた、出勤してきて大丈夫なの?」
「はい。昨日は怖かったけど、その程度で負けていられません! でも、アトリエの人数がかなり減っていますがこれって?」
「それも含めてギルドマスターから全新規入門者に説明があるわ。始業時刻になったら講堂へ移動するわよ」
「わかりました」
始業時間後講堂でギルドマスターから説明されたのは、私のような成績上位者を脅してギルドから立ち去らせようとしていた愚か者や嫌がらせをしようとしていた者たち、それにそれを黙って見て見ぬ振りをしていた者たちの除名処分だった。
私以外のアトリエでも対象になった錬金術師が複数名いたらしく、そういった愚かな行動に出た者や私たちの持ち物にいたずらをしようとしていた者たちは国外へ追放処分。
それ以外の見て見ぬ振りをした者はギルドからの追放処分。
国外へ追放した人は追放する際に市民証も奪っているので再入国をするにも時間がかかるかできないかのどちらかだろうとのこと。
今後、ギルドマスターの監視下にある錬金術師ギルド内で同様のことを起こせば更に厳しい処分を下すらしい。
最後には『若僧であってもギルド評議会の一議員でありコンソール錬金術師ギルドを改革した自分を舐めるな』もおっしゃっていた。
私も気を抜かないようにしないと……。
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