146.『黄龍』との対話

「黄龍様。先ほどは出迎えありがとうございます」


『黄龍で構わない。それに我と同格の存在に乗っているのだ、今さら格式張った話し方をする必要もなかろう』


 僕とアリアは会議室の窓から飛び出し、そのままカイザーの頭上と乗せていただきました。


 本当はあまり使いたくないのですが、主従関係を示すにはわかりやすいですからね。


『それで、我々となにを話しにきた?』


「端的に言ってしまえば、グッドリッジ王国への侵攻を待っていただく事です」


『なるほど、わかりやすい。細かく言うとどうなる?』


「はい。攻めてくるグッドリッジ王国の兵士は、これまで通り撃退していただけると助かります。ですが、こちらからグッドリッジ王国王国領への進軍はやめていただきたいのです』


『話はわかった。だが、大本を断たねばいつまで経っても兵を送り込んでくるのではないか?』


「そちらについても考えがあります」


『聞こうか』


「わかりました。進軍してくる兵士の宿舎などは僕たちで攻め落とします。そうすれば、グッドリッジ王国がシュミット辺境伯領に手を出す余裕などなくなるはずです」


『確かに。人間どもは互いに小競り合いをやっている様子。今いる兵士が壊滅したとあれば、次の兵士が送られてくるのは当分先かもう来ないかのどちらかであろう』


「僕たちの見立てではもう来ないと考えています。あの部隊が第一王子派にせよ王弟派にせよ、それだけの損壊を出した以上、シュミット辺境伯領一派へと大々的に構っていられる余裕はありません」


『大々的にか。散発的な攻撃は続くと?』


「すでに山間部に潜んでいる部隊をしらみつぶしに叩くことは……不可能ではありませんが非常に困難です。そういった部隊からの攻撃は続くと考えられます」


『ふむ。そういった場所こそ聖獣の出番か。さすがにそういった連中まで見逃せとはいわぬであろう?』


「はい。ですが可能であれば各部隊一名ずつは生かして連れ帰ってほしいです」


『ほう。その意味は?』


「この攻撃がどちらの軍隊によるものかをはっきりさせるためです。僕としては王弟派だと感じていますが、念のため証言は取っておいた方がいいでしょう」


『聞くが、シュミット辺境伯は『王弟派』と言う連中とは仲が悪いのかね?』


「王弟殿下そのものとはそれほど。ですが、その支援についている貴族主義者どもからすればシュミット辺境伯は邪魔者でしかないでしょう」


『その理由は?』


「貴族主義者は民から可能な限り税金を搾り取り享楽にふけっている連中がほとんどだと聞きます。そういった連中にとって、中央に対し大きな発言力があり、なおかつ質素倹約を心がける辺境伯は邪魔者でしかない。そういう構図だと昔聞きました」


『そうか。それならばその、王弟派を滅ぼせばこの内乱は終結するのでは?』


「事はそう簡単に参りません。すでに多くの死者が双方に出ています。それも国中に点々と。そのような状況になった国を治められる為政者など本当にわずかしかいませんよ」


『人間どもの恨み辛みか。我々には関係ない話だな』


「はい。ですが、そういった状況下で聖獣たちが前線に出て国を焼き払ってしまうと、その憎しみは聖獣様やシュミット辺境伯領に向けられます。それはとても面白くないことでしょう?」


『確かに。我々は、シュミット辺境伯領とその周囲を守れればそれでよい。人間が攻めてくるならばいくらでも対処するが……いつまでも襲ってくるのは正直面倒だな』


「そうでしょうとも。なので、事態の鎮圧は人間である僕たちにお任せいただけないでしょうか?」


『人間とはいえ、聖獣であるエンシェントホーリードラゴンたちも連れて行くのであろう? それはどう説明をする?』


「エンシェントホーリードラゴンとエンシェントドラゴンの見分けがつく人間はほぼいませんよ。それに、エンシェントホーリードラゴンにお願いするのは、僕たちが軍部の中央に到達するための足です。エンシェントホーリードラゴンには手出しさせません」


『そうは言っても、お前たちに……』


 黄龍がそこまで言ったとき、僕は抑えていた魔力を開放しました。

 アリアも開放したので、相当なプレッシャーがかかっているはずです。


『なるほど。それがお前たちのか』


「本性と言うほどでもありません。普段は無駄な争いを避けるために力を抑え込んでいるだけです」


『いや、合点がいった。なぜエンシェントホーリードラゴンともあろうものがこのような少年少女に従っているのか不思議でならなかったのだ』


「カイザーは力尽くで仲間にしたわけではありませよ? 死にかけていたところを助けてあげたら、契約をしたいと何十日もしつこく追いかけてくるので、契約するに至ったまでです」


『はっはっは! それは愉快! エンシェントクラスの竜は助けられたとき、その恩義を決して忘れぬ! 何十日でも追いかけ続けるだろうさ!』


 黄龍が愉快そうに笑いますが事はそう簡単ではなかったんですよね……。


 僕が『聖獣郷』に戻ったときなど、聖獣や精霊たちが殺気だって堪らなかったものです。


「ともかく、カイザーが従ってくれているのはカイザー自身の意思です。強制はしていません」


『強制などせんでも、お主が死ぬまでそばを離れんだろう。エンシェントドラゴンとはそういう存在だ』


「やはりですか。エンシェントドラゴンは威圧感も半端ではないので、あまり人里の近くにも置いておけないですし……困ったものです」


『さて、話が大分逸れたな。本題に戻ろう』


 黄龍が真面目な雰囲気を取り戻して語りかけてきます。


 最初からそうしてほしいものです。


『お主たちはこの内乱をどれくらいの期間で鎮めるつもりだ?』


 そうきましたか。


 内乱を鎮めるにあたって、必要なのは……現国王であるギゥナ王や軍務卿、宰相などの意思確認ですかね。


 それも考慮して、主立った連中を捕らえるとなると……。


「少なく見積もって三カ月。遅くとも五カ月で結果を出して見せましょう」


『わかった。それで結果を出せなければ我々も動かせてもらう』


「仕方がありません。ただ、無辜の民にはなるべく被害を出さないようにしてください。それでは」


 黄龍へのお願いとあちらの要望は聞きました。


 あとはこれをお父様に伝えてどう動くかを決めることです。


 はあ、忙しいことこの上ない。



********************



『なあ、黄龍よ。あの口ぶりだと我々が無辜の民まで皆殺しにしようとしていると勘違いされているのではないのか?』


『我らが決めた殲滅対象はこのくだらない争いをしている軍勢のみのはずだが……』


『……すまぬ、我の言葉が足りなかったようだ』

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