シュミット辺境伯領の電撃作戦

147.動き出すシュミット

「なるほど。黄龍様の願いは遅くとも五ヶ月以内の戦争終結か」


 黄龍との対談を終えたあと、僕たちは再び会議室に集まりました。


「はい、そうなります」


「あまり猶予はないな」


「ですねぇ。シュミット辺境伯領を襲っている軍の殲滅だけでしたら僕でもできました。ですが、内乱状況にあるこの国を五ヶ月で鎮めよと言うのはちょっと……」


「うむ。原因を取り除ければ楽なのだが」


「と言うことは、第一王子殿下か王弟殿下にご退場願えればそれで済みますか?」


「それでは終わらんだろう。すでに事は貴族派対王権派の対決になってしまっている。例えば王弟殿下を捕らえたとしても、貴族派は偽物だと主張して譲らないはずだ」


 うーん、本当にめんどくさいですね、政治というものは。


 これだから関わりたくなかったんです。


 研究の時間が取れやしない。


「さて、どうするべきか……」


「まずは近くにある病巣を取り除きませんか?」


「シュミット辺境伯領への侵略軍本部か? 偵察に出したことがあるが、幅広くなっていると報告を受けたぞ」


「カイザーの背に乗って僕とアリアが大魔法を撃っていればすぐに壊滅します。残党狩りは……シュミット辺境伯領方面に逃げられないよう細工しますので問題ないでしょう」


「う、うむ、そうか? ではふたりに……」


「いえ、僕も行きましょう」


「セティ殿も?」


「教え子ばかりにいいところを持っていかれても困ります。人手は多い方がいいでしょう?」


「その方がうち漏らしが少なく助かりますね」


「では、そういたしましょう」


「具体的に、明日のいつ決行するのだ?」


「日の出前が効果的かと。僕は水属性、アリアは土属性で攻撃します。灯りがない以上、余計混乱するでしょう」


「僕は風魔法にしましょうか。ちなみに、ふたりはどこまで魔法スキルのレベルを上げましたか?」


「僕の水魔法は73、アリアの土魔法は……100でしたっけ?」


「はい。その通りです」


「かなりあげましたね。では、それぞれのもっとも得意とする属性は?」


「僕は回復属性と聖属性、光属性、闇属性、時空属性が限界まで上がっています。アリアは……」


「火と水、土、風、雷、光、闇、聖、時空が上限ですわ」


「ふたりとも素晴らしい。ですが、三年でそこまで上げきるのは相当な無茶をしたのでは?」


「そうですね……【精霊の錬金祭壇】を作る時にかなり無茶をしました。それを使うときも毎回無茶を通していましたし、それでスキルレベルが上がっている感じでしょうか」


「【精霊の錬金祭壇】! あの伝説にしか残っていない最大の錬金台を復活させましたか!」


「ええ。本当に作るのには苦労しました」


「まったくです。必要なのが錬金炉ではなくレイラインだなんて、気がつきもしません」


「レイライン……地脈ですか。それは興味深い。この紛争が解決したら、是非詳しい話を聞かせてもらいたいものです」


「もちろんです」


「師匠に変わったおみやげ話ができるなんて光栄です」


「はは。さて、今日はもう休みましょう。明日に備えておかなければ」


「その通りだな。今後のことについては明日の午後にでもあらためて話し合おう」


「はい」


「かしこまりました」


「そうしましょう」


「承知いたしました、お父様」


 この日はそのまま解散となり、それぞれの寝室で一夜を明かすこととなります。


 僕とアリアは懐かしの自室で寝ることになりましたが……家具などもそのまま残されていたのですね。



********************



「ふぁーぁ、夜警の仕事なんて退屈で仕方がないぜ」


「まったくだ。シュミット辺境伯領の腰抜けども、一切攻めてきた試しがねえからな」


「本当だ。……まあ、攻め込んだ連中が生き残って帰ってきたことがないのも事実なんだが」


「それを言うなよ。おかげでお偉いさんたちもこれ以上攻めるのか退くのか考え込んでいて、動けないんだからよ」


「ああ、うるさい下民から巻き上げた飯だって無限じゃないのによ」


「ここいらは王権派の勢力圏。食料を奪い取るのだって命がけだ」


「ったく、早く夜が明けないかな……」


「そうだな、早く夜が明けて見張りを交代……」


「おい、どうし……」


「なんで防護柵が!?」


「遂に攻めてきやがったか! 敵し……」


「なにがあっ……」



********************



 僕たちが放った魔法、それによって敵兵の命がどんどん狩り取られていきます。


「ふむ、『樹氷山脈』で逃げ場をなくし『地神の針山』ですか。確かにこれなら、気付かれずにほとんどの敵を殲滅できますね」


「あまり気持ちのいいものではありませんわ。人殺しというのは……」


「アリア、仕方のないことです。それが戦争なのですから」


「はい……」


「相変わらずですね。これだけの力を持ってしまっている以上、その方が望ましいのですが」


「そうですね。さて、僕も残りの敵を討って行きましょう」


「今度はなにを使うのです?」


「『百舌の氷槍』を。これならば、生きている人間のみを狙って魔法が発動しますから」


「恐ろしい魔法を普通に使うものです。しかし、極めた聖属性魔法よりマシですか」


「聖属性魔法も極めると生者死者関係なしに焼きはらいますからね。ですが、この広範囲には少々効率が悪い」


「では私も魔法を使うとしましょう。宣言どおり風属性の『嵐王の千刃』です」


「……僕のことをとやかく言えないほど凶悪な魔法では?」


「さて、なんのことやら」


「師匠らしいですわ」


「さて、逃げられる前に処置してしまいますよ」


「はい!」


 こうして僕たちの魔法により侵攻軍は殲滅されました。


 聖獣たちと違って、器用に生かしておくことはできませんのでご容赦を。

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