242.『聖』の実力
「スヴェイン様、ようこそ大使館へ。……おや、その子供たちは?」
子供たちを引き連れて大使館にやってくるとやはり怪訝な顔をされました。
当然ですよね。
「錬金術師ギルドの近所にある公園で遊んでいた子供たちです。どうしても『聖』の方々を見てみたいと……」
「あれを……ですか?」
「あれをです」
「なになに?」
「なにかあったの?」
「さて、どうしたものか……」
門衛さんも困りますよね。
自分より弱い『聖』を見せてもいいものかどうか。
「通してはもらえぬか?」
「アルフレッドさん?」
「最強の称号である『聖』を授かっても修行を怠ればああなる。いい反面教師だ」
「俺からも頼むよ。子供たちにはスヴェインみたいないいところばかりじゃなく、あいつらみたいな悪いところも知らなくちゃダメだ」
「ですが……」
「通してもいいのでは?」
新たに現れたのは公太女、つまりシャルです。
「シャルロット様」
「テオ様の言うことも一理あります。子供たちはお兄様のような努力を重ね続けた天才ばかりではなく、努力を怠った結果の愚か者を知ることも学びになるでしょう」
「ですが……あまりにも酷いですよ?」
「その方が都合がいいというもの。公太女命令……はあまり使いたくないのですが、通しなさいな」
「かしこまりました。……子供たち、本当に、本当に期待しちゃダメだからね?」
「「「はーい?」」」
「では、私が案内します。こちらへどうぞ」
「そう言うシャル。あなたも訓練に参加するつもりだったのでは? それ、訓練服ですよね?」
「体がなまってはいけませんから」
アルフレッドさんとテオさんは、シャルが魔法使い系の最高職『賢者』だと説明しながら子供たちを連れてきます。
シャルは……子供たちのまなざしを受けて上機嫌ですね。
わかりやすい。
「さて、ここが訓練場になります。……ですが静かですね。おそらく、『聖』の皆さんはまた転がされているのでしょう」
「『聖』なのに?」
「『聖』だろうとなんだろうと努力しなければ弱いものです。中に入りましょう」
訓練場に入ると本当に転がっている影が六名分。
嘆かわしい……。
「スヴェインお兄ちゃん、あそこで倒れているのって誰?」
「お恥ずかしいことに、あそこで倒れている皆さんが『聖』の皆さんです。『剣聖』『斧聖』『槍聖』『爪聖』『拳聖』『盾聖』の六人なんですが……」
「『聖』なのに倒れているの?」
「ええ。仕方がありません、少し……」
「お兄様がする必要はありません」
僕が喝を入れようとするとシャルに引き留められました。
代わりにものすごい怒号が訓練場に響き渡ります。
「お前ら!! いつまで休んでいるつもりだ!! 戦場では休ませてなどくれないぞ!!」
「しかしだな、教官殿……」
「アンタ、なんで六人相手で息一つ切らさないのさ……」
「毎回武器も壊されますし……」
「攻撃がかすった試しすらねぇ……」
「それどころか届く前に吹き飛ばされてる……」
「盾の意味がない……」
まったくもってふがいのない。
やはり連れてきたのは間違いだったでしょうか。
「ご覧の通りです。『聖』の称号なんて何の役にも立たないのですよ」
「なんだか残念……」
「もっと強いと思ってた」
「うん」
そのとき、僕たちの様子を見つけたらしい教官が僕たちの元へとやってきました。
うん、キビキビしていますね。
「シャルロット様、スヴェイン様。今日はどうしてこちらに? やつらはまだまだ……」
「はい。彼らの無様を子供たちに見せてやろうと考えて」
「シャルロット様?」
「例え『聖』であっても努力を怠ればこうなる。いい反面教師です」
「そういうことでしたら止めませんが……失望させるだけでは?」
「子供たちはそこからでも学びますよ。さあ、訓練を再開させなさい」
「はあ。子供たちに無様を見させるのはあまり気乗りがしませんが……シャルロット様のお望みでしたら。お前ら! 一対一の訓練だ! 街の子供たちも見に来ている! いままで以上の無様を見せてくれるなよ!!」
「街の子供……スヴェイン殿!?」
「本当は僕も連れて来たくなかったのです。ですがアルフレッドさんとテオさんの発案で」
「お前たち、仮にもマーガレット共和国では『最強の『聖』だった』のだ! 少しは気概を示して見せろ!」
「いや、しかし……」
「御託をぬかしている暇はないぞ! まずは『剣聖』ジェレミ!」
「は、はい!」
最初はジェレミさんですか。
ですが……ああ、一振りするだけで蹴りを食らって吹き飛ばされ気絶。
ほかの方々も似たようなものですね。
容赦のない。
「……子供たち。いくら『聖』でも努力しないとああなるんだ。よく覚えておくように」
「おじちゃんの職業は?」
「『剣術師』だ。まったく。あれで『聖』など……」
「すげぇ! 『剣術師』でも『聖』に勝てるんだ!!」
「あれが特別弱いだけだ。シュミット本国にいる『剣聖』ディーン様には私が彼らのような目にあう」
「本物の『聖』ってやっぱりすごいんだな!」
「当然だ。あれらも昔はすごかったんだろうが……」
「どれ、ジェミニ教官。たまには私の稽古もつけてはもらえぬか?」
「アルフレッドさんの? 少しだけですよ。ご老体なのですから無茶をしてはウィル君に心配をさせます」
「少しは『聖』ができるところを見せねば。子供たち、私も教官殿には勝てぬがそれなりには戦ってみせる。よく見ているといい」
「「「うん!」」」
そのあと始まった教官とアルフレッドさんの稽古は……先ほどまでとはうって変わって激しいものです。
アルフレッドさんは杖の長さを巧みに生かし、教官はそれをかいくぐりながら攻める。
その熱い戦いに子供たちの目は釘付けでした。
「む」
「ここまでです」
「いや、また一本取られたか」
「アルフレッドさんとの戦いは俺程度じゃかなりキツいんですからね?」
「なにを言う。一度も勝てた試しなどないわ!」
楽しそうに笑うアルフレッドさん。
世界の広さを知り、本当に楽しいのでしょう。
そして戻ってきたアルフレッドさんを待っていたのは、子供たちの拍手でした。
「アルフレッドの爺ちゃん、すげえ!」
「お爺ちゃん、すごかった!」
「俺でもああなれるのか!?」
「うむうむ。鍛錬を積み重ねればなれるぞ」
アルフレッドさんもご満悦な様子。
さて、このあとはどうしましょう?
「よっしゃ。俺も少しは頑張ってみせるか」
「テオさん?」
「アルフレッドには負けるが、最近は教官に攻撃できる程度になってきたんだよ。いいだろう、姫さん」
「構いませよ。リブラ!」
「聞いてました。テオさん、もう少し休んだ方が魔力も回復するでしょうに」
「俺だって子供にいいところを見せたい。それじゃダメか?」
「……気持ちはわかります。手加減はしませんからね?」
「望むところ!」
テオさんと魔法教官の稽古は魔法合戦。
武器による稽古よりも派手で子供たちも驚いています。
……確かにテオさんの宣言どおり、魔法教官の魔法障壁にも数発ですが魔法が届いていますね。
ですが、さすがに耐えきれなくなったのはテオさんでした。
「うわっぷ!?」
「魔力の練り方がいま一歩です。そうすれば私の『マジックウォール』に罅も入るでしょう」
「そこまで行ったか! これは楽しみだ!!」
こちらも楽しそうに笑うテオさんに子供たちがじゃれつきます。
魔法合戦は派手ですからね。
迫力もあったのでしょう。
子供たちにもいい刺激になりましたね。
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