155.国交樹立に向けて

 昨日一日はお父様もシャルもダウンし、あれからずっと寝室で寝ていたようです。


 翌日には復活しており、元気になっていましたが。


「さて、スヴェイン。昨日話せなかった聖獣様との契約を急いだ理由なのだが、これから私たちが国交を各国と結ぶためにその移動手段が必要となるためだ」


「グッドリッジ王国に向かうだけなら馬車でよいのでは?」


「グッドリッジに向かうだけならばな。私はそれ以外の諸外国とも関係性を築きたいと考えている」


「お父様、それはどうしてですか? 近隣国以外と関係性を強める狙いは?」


「まずは交易だ。我が国ではこれから薬草栽培を強化していく。その結果としてポーションの生産量が需要を大きく上回るであろう。それらを諸外国へと販売したい」


「ふむ、ポーションの販売ですか」


「スヴェイン、なにか妙案でも?」


「いえいえ。コンソールがある。あそこは非常に錬金術が遅れております。コンソールもそこに商機を見いだして販売戦略を立てておりますが、シュミット公国もそちらを狙うことを考えてもよろしいかと」


「……いいのか。コンソールの内情を話してしまって」


「少し調べればすぐにわかる程度の話ですよ。……ああ、今では魔の森だけではなく、聖獣たちが作った崖も問題でしたか」


「うむ、そこが悩ましいところだ。だが、まずは国交を持ち交易ができる準備をせねばならぬ。我が国にはまずそれが足りない」


「ですね。まだ国となってから一カ月すら経っていません。外交関係などあろうはずもない」


「移動するために空を飛べる聖獣様を選んでもらったのだ。聖獣様の気を悪くするだろうか?」


「そんなことはないんじゃないですか? ウィングとユニが人との生活に馴染みすぎたと言う問題はありますが、聖獣にとってもっとも大切な問題は自分たちの気持ちのいい環境にいられるかどうかです。契約した人間がいるのでしたら、そのそばにいるのがもっとも好ましいはずですよ」


「そうか。それならば助かる。……まあ、国王ひとりだけで国を相手取るなど侮られはしないか心配だが」


「それでしたら、出かける前に聖獣たちに声をかけていくといいでしょう。物見遊山がてら興味を持った聖獣たちがついてくると思いますよ」


「……聖獣様とはそんなに簡単なものなのか?」


「気を許している存在には気軽に接する存在ですね。この国の国民が聖獣や精霊、妖精たちと共存できているのを見ればよくおわかりでしょう」


「そう言われると確かに。それでは、どこかの国に行くときは誰かともに行くものがいないか聞いてから行こう」


「ええ、そうしてください。ただ、ロック鳥や黄龍などの大きすぎる存在がついてこようとしたら、なんとか思いとどまらせてくださいね?」


「……その可能性もあるのか」


「聖獣というのは意外と好奇心も強いですから。あまり多くで行くと攻め滅ぼしに来たのではないかと勘ぐられますから数は慎重に、なおかつ連れて行くものたちは同じ聖獣ばかりを選ばないようにしてください」


「やはり気難しいな」


「聖獣によって興味も感心も異なりますからね。そこは人間たちと同じですよ」


「それを軽々しく言えるお前がうらやましい」


「はは。慣れですよ慣れ」


「そういうものか」


「そういうものです」


「納得はできないが、一応理解した。国を出る際は供を慎重に選ぼう」


「そうしてください。それで、ほかにも理由がありますよね?」


「うむ。今度またなにかあったときのため、架け橋となってくれる存在がほしかったのだ。ディーンやシャル、オルドの聖獣様だけでは歯止めがきかなかったからな」


「……黄龍を止めるのは無理ですよ?」


「いや、さすがにそれは理解しているが」


「あまり無理は言わないでください。それ以外には?」


「我々もスヴェインの拠点とやらに行ってみたい。その上でスヴェイン、お前との技術交流を望む」


「ふむ……それは少し考えさせてください。僕の研究は世の中に出しては危険なものも多数含まれます。なにを出していいか、なにを出してはダメか。それをまとめ上げねば」


「弟子を育成しているのにまとめていないのか?」


「ハイポーションより先の薬の話ですからね。弟子たちに教えるのは……彼女たちが望みを果たせた後になるでしょう」


「ほほう。【精霊の錬金祭壇】を再現したと聞いたときから気になっていましたが、ハイポーションを超える薬にも手を出していましたか」


「はい。一般的な霊薬や神薬がほとんどですが、中には使い方次第で毒や呪いにもなり得るものがあります。そこは注意しないと」


「なるほど。理解しているようで結構です。弟子を取っていると聞いたときはどのようなことを教えているのか心配でした。ですが、その様子ですと一般的なことしか教えていないようですね」


「はい。四カ月ほどで最高品質のマジックポーションが作れるようになったくらいです。伸びとしてはいい感じですよ」


「確かに。いい感じですね」


「そうでしょう。自慢できる良い弟子たちです」


「防備は固めているのですか?」


「プレーリーとレイクがカーバンクルの卵を持ってきていたので、彼女たちに渡して契約させました。それから、僕お手製の指輪とローブも渡してあります。国が動いたとしても大丈夫でしょう」


「それならば結構。弟子の安全に気を配るのも師匠の役目です」


「もちろんですよ」


「……カーバンクルを渡すことが師匠の役目か?」


「絶対に違うと思います、お父様」


 そのあとも話し合いは続き、お父様は国内のいろいろな場所を転々として国民の声を拾い集め施策の細部を詰めていくことになりました。


 ディーンとオルドはこれまでと変わらず、国軍の任務に就きます。


 最後、シャルなのですが……。


「シャル、お前はスヴェインとともにコンソールという独立都市に向かえ」


「お父様?」


「独立都市なので直接交易するのは難しかろうが、交流を結ぶ価値は十分にある。お前はしばらくその街に滞在し公太女としてシュミット公国の名を広めよ。スヴェインはその都市のギルドマスターらしいので広告塔にはなれないからな」


「かしこまりました。それでは、お兄様が戻るときにご一緒します」


「そうしてもらいたい」


「それでは僕もしばらくコンソールにお邪魔いたしましょう」


「セティ殿が?」


「セティ師匠が来るのですか?」


「おや、困ることでも?」


「いえ、一切ありませんが……珍しいですね、師匠自ら動き回るなんて」


「せっかく聖獣とも契約できたのです。僕だけなにもしないというのは聖獣がかわいそうでしょう?」


「そういうことでしたら。……ああ、でも。住む場所はどうしましょう?」


「スヴェインたちはいつもどうしているのです?」


「弟子のお父様の家に泊めていただいております。弟子たちもその方が勉強がはかどるため、旅立とうとすると引き留められるくらいですね」


「ふむ、そうなると僕たちがお邪魔するわけには行かないですね」


「セティ様、私たちは普通の宿を取りましょう」


「そうしましょうか。ところでスヴェインたちの弟子に会っても問題ありませんか?」


「もちろんです。ただ、あまり難しいことはさせないでくださいね?」


「無論手出しはしません。孫弟子の様子は見ても間違った方向に進んでいない限りは手出し無用です」


「それを聞いて安心しました。……そうそう。師匠がコンソールの街に来てくださるのでしたら、師匠の著書をコンソールの図書館に売ってもらえませんか?」


「うん? 僕の書いた本くらいでしたらいくらでも差し上げますよ」


「いえ、コンソールの図書館には師匠の本を探すようにお金を払ってお願いしてあるのです。師匠が直接来たからといってそこを通さないような不義理はできません」


「相変わらず妙なところで義理堅い。ともかく、構わないでしょう。それで、出発はいつにしますか?」


「師匠とシャルが構わないのでしたら明日朝にでも。まずはカイザーに乗って僕の拠点まで全員で移動。そのあと、拠点からコンソールまでウィングとユニに乗って三十分ほどです」


「わかりました。旅支度は今日中にすませましょう」


「承知いたしました。お兄様」


「セティ殿、娘のことお願いいたします」


「任されました。身を守ってあげる程度しか手出ししませんがね」


 師匠も相変わらず厳しいですね。


 ですが、シュミットのことをコンソールで広めるのはシャルの役目です。


 師匠が出しゃばることでもないでしょう。


 それにしても約三カ月、本当に長い間離れることになりました。


 課題やいない間の備えはしっかりしてあるのですが、大丈夫でしょうか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る