551.サリナ、店員兼弟子候補と会う

聖獣とともに歩む隠者第二巻好評発売中!

よろしくお願いいたします!


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 スヴェイン様よりエンチャント付きの指輪を頂いて以降、あまり寒さを感じなくなりました。


 ひょっとして指輪に【快適温度保存】をかけてあるのでしょうか?


 それに、お店の掃除は毎日行っているし服とエンチャントの値付けも終わりました。


 あとは……あれですね。


「ユイ師匠。私のお店の店員候補ってどうなっていますか?」


「あなたが忘れていなくて安心しましたよ、サリナ」


「……ユイ師匠が忘れていたとか?」


「そんなはずがないでしょう。今日、これから相談してくる予定でした」


「相談……ですか? 商業ギルドに?」


「もっといい場所にです。それで、あなたに聞きたいことがあります」


「はい、なんでしょう」


「あなたの店員候補、つまりは弟子候補ですがどのような方がいいですか?」


「あ」


「下着を脱がされてお尻百叩きがよろしいでしょうか」


「それだけはご勘弁を!?」


 そうです!


 店員候補ということは私の弟子候補でもあるんでした!


 軽く考えすぎていました!!


「今日は時間もないですし許してあげます。それで店員兼弟子候補、どのような方がお好みで?」


「それって私の希望が通るのでしょうか?」


「可能な範囲でしたら」


「では。女性がいいです。男性に教えるのは……まだ怖いです」


「女性ですね。ほかには?」


「できれば私よりも年下が。私のような未熟者の弟子候補になっていただくのに、年上は申し訳なさ過ぎます」


「あなたよりも年下が好み。次」


「あとは……この近所に住んでいいる方でしょうか。私より年下で店員候補と言うことは帰りの時間、長距離を歩かせるのは心配です。聖獣様たちが見張っているとは言ってもやっぱり近所の方がいいです」


「近所の人。ほかには?」


「ええと……特にありません。あえて言うなら子供服の作り方しか教えなくてもいい方ですけど、大前提ですよね」


「当然です。整理しましょう。子供服の作り方のみ教えることに同意できる近所に住まう年下の女性。それで構いませんか?」


「はい。……ですが、そんな都合のいい人、見つかりますか?」


「おそらく何人かは。実際に店員兼弟子になってもらえるかどうか、それはあなたの腕を見せなさい。その際にはマジカルコットンを使った実技披露で構いません」


「わかりました。準備しておけばよろしいですか?」


「そうしてください。では、私はあなたの店員兼弟子候補を探してきます。帰りは……夕方近いかも知れません。実技披露もそれまでに間に合えば十分ですよ」


「……まだ朝食を食べ終わったばかりですよね?」


「あなたの好みに見合う候補を探すのに苦労しそうだということです」


「……申し訳ありません」


「その程度、苦労は惜しみません。では行ってきます」


「はい、行ってらっしゃいませ」


 師匠は見つかるっておっしゃっていましたが……本当に見つかるのでしょうか?


 もちろん、実技披露の準備はしておきますが……不安です。



********************



「ふむ、サリナの要望は『彼女より年下でユイ師匠の家の側に住み、なおかつ女性』と」


「はい、そうなります。様」


 私は家を出たあと面会予約を取ってあったのセシリオ様と面会中だ。


 目的はしてもらうため。


「ちなみに、ユイ師匠。いつ頃からこの計画を立てていましたか? サリナに出店許可証を与えたのは夏の終わりですよ?」


「あの子にはすぐ店を出せる知識も技術もありませんでしたから。あと、服飾ギルドの支部を建て始めているのは同じ時期に耳に入っていましたよ?」


「なるほど。さすがはユイ師匠、抜け目がない。確かに支部の規模は大きくできましたが、一回目の採用はそれに対して非常に狭き門にせざるを得ない状況でした。なぜなら」


「教育用の素材がないから、ですよね?」


「……なんでもお見通しですね。さすがは元シュミット講師のリーダーです」


「私でも何百人と教えるには素材が大量に必要となりますから」


「でしょうね。それにしても、商業ギルドを通さず私のところに直接来るなんてユイ師匠だからこそできる行為ですよ?」


「私だからこそできる真似をしただけです。その代わり、サリナには厳しく指導します」


「優しいのか厳しいのか……」


「弟子には厳しいですよ?」


「そういうことにしておきましょう。さて、それでは事務室の人事課に行きます。そこからご希望に合った人材をピックアップさせましょう」


「お手数をおかけします」


「いえいえ。ユイ師匠に育てていただいた恩を考えれば容易いご用です。ちなみに、この事スヴェイン殿は?」


「……気付かれていると」


「そうでしょう。その上で好きにさせてくれているのでしょうな。いいご主人ではありませんか」


「はい。自慢の夫です」


「夫婦円満を祈っております。しかし、子供服専門となると難しいかも知れませんね」


「私もそう感じています。だからこそ私が出向くのですが」


「サリナは自信不足ですからね」


「あの子ももう一人前の服飾師なのに」


「少しばかり急がせすぎでは?」


「エリナちゃんより遅すぎるペースなのでダメです」


「『カーバンクル』と比べても……」


 サリナの成長目標はエリナちゃんになってもらわないねばなりませんからね。


 スヴェインの前でになることを誓ったのですから、その程度の覚悟はあると信じています。


 さて、人事課で紹介していただけたのは三十名あまり。


 やはり私の家周辺でも服飾師見習い希望者はこれだけいましたか。


 問題は『子供服専門』の服飾師見習いにどれだけの希望者が集まってくれるかですね。


 可能な限り集めますが……そのあと、その人たちを引きつけられるかはサリナ次第です。


 頑張ってもらいましょう。



********************



「失礼しました」


「いえ、こちらこそ」


 ふむ、やはりここもダメでしたか。


 既にリストの半分は回っているのですが好感触は一件もなし。


 どうしても『子供服専門』というのが痛い。


 ですが、サリナにはそれしか教えていませんし、その弟子にもそれしか伝えさせません。


 服飾ギルドへ入門したあとは自由に学ばせますが、サリナの元にいる間は『子供服専門』です。


 ……大見得を切っちゃったからひとりでも見つけて帰らないと師匠の威厳が。


 さて、次はここの家ですね。


「失礼します」


「はーい。……ええと、どなたでしょう?」


「私はこの近所に住んでいる服飾師のユイと言います。オリビアさんはご在宅ですか?」


「はい……オリビア、お客様だよ!」


「はーい! えっと、どなたですか?」


「近所に住んでいる服飾師のユイです。オリビアさん、私の弟子の元で店員として働くつもりはありませんか?」


「ええと、店員?」


「はい。店員募集です。空いている時間には弟子に指導もつけさせます。ただ……」


「オリビアお姉ちゃん。その人だあれ?」


「あ、私のお客さんだよ」


「弟さんですか?」


「はい。私の家は弟と妹がいて……」


「そうでしたか。話の続きです。店員のお仕事の合間には弟子に指導させます。ただし、指導内容は『子供服専門』です。弟子には子供服の作り方のみ教えていますし、自分の服以外それしか作らせていません。もちろん、途中で服飾ギルドの募集があり、そちらに合格すればいつでも抜けさせるようにいいます。いかがでしょう?」


「子供服専門……それって弟や妹の服も作れるようになれますか?」


「弟さんと妹さんの年齢は?」


「弟が七歳、妹が五歳です」


「その範囲でしたら大丈夫です。幼児服はまだ教えていないので怪しいですが、四歳以上の服なら店の商品として作り置きもありましたので問題ありません」


「本当!? お給金とかは?」


「申し訳ありませんがそれも弟子に決めさせます。今のところ、あなたが働く意思があるかどうかの確認のみです」


「お母さん! 私、働いてみたい!」


「そうね……近所といいましたがどの辺でしょう?」


「ええと、地図ではこの家になります」


「ああ、いつも聖獣様が休んでいる家ですか」


「はい。私も聖獣使いのひとりですので」


「それなら安全そうだし家にも近いから帰り道も安心だわ。オリビア、とりあえず話だけでも聞いてきなさい」


「うん!」


「それではほかの家でも意思確認をして回って参ります。それが終わりましたらまた呼びに来ますので、その際にご案内いたしますね」


「はい!」


 よし、とりあえずひとり目確保!


 師匠の面目は立った!


 そのあとも教えられた家をすべて回り、合計四人の店員候補を見つけることに成功。


 あとはサリナ次第ですね。



********************



「うーん、夕方になったから実技披露の準備は終わらせたけど……不安だなあ」


 私の出した条件、かなり厳しいよね……。


 スヴェイン様の家の近所って言うだけでも少なそうなのに、その上女性で年下だなんて絶対難しいです。


 ユイ師匠、大丈夫でしょうか。


「サリナ、戻りましたよ」


「あ、ユイ師匠。……ええと、その子たちは?」


「朝伝えてあったでしょう? あなたの店の店員兼弟子候補です」


「え、四人も?」


「ちなみに『子供服専門』という条件を除けばこの家の近所だけで三十名あまりいました。それくらいこの街では服飾師希望者が多いのですよ」


「あ、はい」


 いきなり四人……私、大丈夫かな?


「とりあえず自己紹介しなさい、サリナ」


「そうでした。私が表通りに面している洋服店の店長になるユイ師匠の弟子、サリナです。よろしくお願いいたします」


「これでも、服飾ギルドは春に入門して夏の終わりに免状をもらい卒業しています。その時、出店許可証も頂いているので正式な服飾ギルド認定の洋服店になります」


「え、春に入門して夏の終わりに卒業、ですか?」


「はい。私の元で服飾ギルドを卒業できる程度の腕前を持たせてから服飾ギルドに送り込みましたので」


「ええと、服飾ギルドってかなりきついと聞いておりますが……」


「ああ、伝え漏れていました。私は元シュミット講師。去年の夏の初め頃までは服飾ギルドで講師陣のリーダーを務めていましたので」


「「「ええっ!?」」」


「頼りないですがサリナにもその技術の一端は叩き込んであります。サリナに技術披露をお願いする前にあなた方も自己紹介を」


「あ、そうでした。私はオリビアといいます。十三歳、職業『裁縫士』。この冬始めに行われた服飾ギルドの採用面接までは進めたのですが、そこで不採用となった身です」


 え、十三歳で服飾ギルドに入門?


 服飾ギルドって十五歳からじゃ?


「サリナに聞きたいことがありそうですが、あなたの質問はあなたの実技披露が終わってからです」


「あ、はい……」


「次の方、お願いします」


「はい。エヴェリン、十四歳。職業『服飾師』。同じく採用面接で不合格になりました」


「私はナディネ、十三歳、『お針子』。私も採用面接で不合格です」


「あたしはメラニー、十五歳の『裁縫士』。皆と同じく採用面接で不採用」


 え、皆が皆、採用面接で不採用?


 どういうことでしょう?


「サリナ。質問はあるでしょうが先に実技披露です。この子たちがあなたの店員兼弟子になるか決まる大切な実技、失敗は許しません」


「はい」


 質問したいことはあるけれど……目の前のことに集中しなくちゃ。

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