錬金術師になるために必要な最初の一歩

55.スヴェイン先生による生産スキル講義(準備編)

「お昼ご飯、とってもおいしかったです! ありがとうございます、ラベンダーちゃん!」


「ううん、喜んでもらえて嬉しいです! ニーベちゃん!」


 マオさんのお店で合金の作り方を教えたあと、今度はコウさんのお店へと案内していただきました。


 そこで冒険者向けのアイテムをいろいろ見せていただきましたが、とても新鮮な気持ちですね。


 セティ様からも旅の道具などは説明を受けていましたし、騎士たちと旅をすることもありました。


 ですが、少人数で旅をするために開発されたアイテムというのは、また違った作り方がされており新しい発見がいくつもあります。


 いくつかのアイテムは購入させていただきました。


 ラベンダーハウスに戻ってから、魔導具の参考にさせていただきましょう。


 コウさんともそこで分かれて僕たちは馬車でお屋敷へと戻り、昼食をいただいたところです。


 ちなみに、昼食はピザという薄いパン生地にさまざまな具材を載せ、チーズをかぶせて焼いたものでした。


「いや、しかし、驚きました。チーズが焼くだけであれほど香ばしくなるとは」


「チーズはそのまま食べてもおいしいよ? 塩分がきついからお酒のおつまみとしてだけど」


「ほほう。それは今晩にでも旦那様に試していただかないと」


「それならおつまみ用のチーズの作り方を教えてあげるね。またね、ニーベちゃん」


「またね、ラベンダーちゃん」


 ふたりは本当に仲良くなったようですね。


 ニーベちゃんも元気になったみたいですし、よかったです。


「そういえばニーベちゃん。魔力操作の訓練はどうなりましたか?」


「ええと、レベルが1あがったところで気持ちが悪くなって寝ちゃいました。ごめんなさい」


「謝ることではありませんよ。気持ちが悪くなったということは魔力枯渇のサインですからね」


「この先の生活でも同じようなことがあったら気をつけてください、ニーベちゃん。どのような職業を目指すにしても、自分の魔力量を理解できていないのが一番危険ですよ?」


「はい! スヴェイン先生、アリア先生!」


「先生、ですか」


「お嫌でしたか?」


「いえ、自分がそう言われるだけ教えられるのかと」


『考えすぎじゃ。お主の知識量は並みの大人よりもはるかに多いわ』


「あ、ワイズ先生!」


『うむ。頑張ったようじゃな、ニーベ』


「はい、頑張りました!」


『しかし、昨日から今日の昼までで魔力操作が15まであがるか。すぐにでも20になるのではないか?』


「その可能性がありますね。そうなると、次の課題も準備しておいてあげないと」


 さて、次の課題はどうしましょうか。


 魔法レベルも高くないといけないので、そちらの修練をさせてもいいのですが……。


「ニーベちゃん。あなたは魔法と生産、どちらの才能を先に伸ばしたい?」


「はい、アリア先生。私は生産スキルを先に伸ばしたいです」


「それはどうして?」


「生産スキルがうまくなればマオお姉様のお仕事も少しはお手伝いできます。魔法はそのあとでも練習できるからです」


「だそうですよ、スヴェイン先生?」


「先回りされましたね。では、錬金術に付与術、それから鑑定を伸ばすようにしましょうか」


「はい!」


「……と、言いましたが付与術はともかく、錬金術はそれなりに設備や道具が必要になります。コウさんにお願いして設備をそろえていただかないと」


「そうですわね。主人にはあとで許可をいただきます。錬金術の修行に必要な設備を教えていただけますか?」


「はい、ハヅキさん。まずは錬金台、これは必須です。どんな錬金術を行うにもこれがないと始まりません」


「わかりましたわ。どのような錬金台がよろしいのでしょう?」


「最初は初心者用の機能が限定されているものの方がいいですね。スキルレベル20まではマジックポーションまでを作るだけでも到達します。魔力水やポーション関係、それから錬金触媒を錬金するための錬金台が売っているはずなので、そちらを買ってあげてください」


「承知しました。ほかにはありますか?」


「それと初期で必要なのは蒸留装置ですね。魔力水を錬金するために蒸留水が必要になります。蒸留水を理解できれば蒸留水自体を錬金できるようになるのですが、まずは蒸留の仕組みを理解しないことには蒸留水の錬金も理解もできません」


「蒸留装置ですね。ポーションを作るための装置などはいらないのでしょうか?」


「ああ、あれは機械的にポーションを増産するための装置ですので必要ありません。錬金術を極めていこうとすれば、そういった装置に頼らず自力で数をこなす必要があります」


「あらあら、大変ですね。そうなると、ポーションの素材になる薬草なども大量に必要となりますわね」


 そうでした、ポーションを大量生産してスキルを鍛えるにはそれに見合うだけの薬草が必要です。


 僕の場合、薬草畑を作って自家栽培自家消費をしていたので問題ありませんでしたが……どうしましょう?


「困りましたね。薬草栽培を行えれば話は早いのですが……」


「確か、いくつか離れた国のグッドリッジ王国では薬草栽培もできるようになったと聞きます。その正確な方法までは伝わってきていませんが……」


「え、方法は伝わってきているのですか?」


「はい。土魔法で畑を耕し、水魔法で水分を与えるのですよね? 我が家でも何回か試したのですが、1回も成功しませんでしたわ」


「ふむ……」


「スヴェイン様……」


『スヴェイン、そこまで伝わっておるのならいいのではないか?』


「スヴェイン様、なにかご存じですの?」


「……はい。薬草が育たない理由ですが、薬草を採取するときに土魔法で根こそぎくりぬき、薬草の魔力を保存しないとだめなのです。普通に掘り返しただけでは薬草栽培はできません」


「そうだったんですの! でも、なぜそれを?」


「……まあ、いろいろとあるのです。ただ、その方法を使っても薬草栽培には時間がかかります。明日にでも薬草畑を作りますので、目立たなくてこの屋敷から近い土地をご用意していただけますか?」


「構いませんが……屋敷から近い理由は?」


「基本的に管理はニーベちゃんに任せます。土魔法と水魔法を育てる機会でもありますので」


「それでしたら我が家の中庭に土地を用意させますわ。薬草の採取の手配は……」


「それも最初は僕らで用意したものを使います。土地さえ用意していただければ大丈夫です」


「かしこまりました。追求はいたしません。娘のためにご助力感謝いたします」


「いえ。あとは、鑑定と付与術ですか……」


『鑑定は地道に自分で作成したアイテムや、採取した薬草などを鑑定するしかあるまい。お前もそうじゃったじゃろう』


「……それもそうですね。僕はいろいろなものをひたすら鑑定していたらいつの間にか、という感じでしたが」


 僕の場合、ウィングとユニの助力もありましたが、自分で作ったアイテムやセティ様が作ったアイテムをひたすら鑑定していましたからね。


 鑑定スキルはぐんぐん伸びていましたよ。


『その知的好奇心がなければ鑑定は育たぬ。そうなれば、今日教えられるのは付与術だけじゃな』


「付与術にも付与板があると楽なんですけどね。……ハヅキさん、手に入れるのが少々手間かも知れませんが探してみてもらえますか?」


「付与板ですのね。主人に聞いてみます」


「はい。今日は僕の付与板を使って実践してみましょう。ハヅキさん、どこか作業部屋のような場所……汚れても掃除が簡単な場所はありますか?」


「作業部屋……でございますか?」


「はい。この先も生産スキルを鍛えるのでしたら、錬金術用の設備などを置く作業部屋は必須になります。その部屋には燃えやすい敷物などはひかず、また掃除などもしやすいほうが便利です」


「……ちなみにスヴェイン様の実体験に基づく話です」


『スヴェインも小火を何度も起こしていたからのう』


「若気の至りです……」


「そういうことでしたら部屋をひとつ用意させますわ。広さはどれくらいがよいのでしょう?」


「そうですね……あまり広すぎるとものを取りに行くときに困ります。ですが、狭すぎると機材にぶつかったりして危ないんですよね……」


「それでしたら、空き部屋を実際にご覧くださいませ。ちょうどいい部屋を改装させますわ」


 ハヅキさんからの申し出があったのでいくつかの部屋を見せていただきました。


 最終的には、1階にあった中程度の部屋を使うこととします。


 都合がよかったのが、扉で仕切られてもう一部屋とつながっていることですね。


 そちらの部屋を資材置き場や資料室などに利用もできますので、整理が楽になります。


 改装はコウさんの許可が出れば明日にでも始めるそうでし、そちらはお任せしましょう。


「さて、作業部屋も決まりました。いよいよ、付与術のお勉強ですよ」


「はい! スヴェイン先生!」


「付与術についてはどの程度の知識がありますか?」


「ええと……魔法を魔石に定着させて相手に投げつけることで発動させる、としか」


 うーん、やっぱりこの都市、あるいは国では魔石を使った付与術しかないのでしょうか。


 基礎となる知識から覆すことになりますが、大丈夫ですかね?

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