ミスリル合金アクセサリーの評価と反響

54.挿話2-合金アクセサリーの反響

「オーナー、今回のアクセサリー、売れますかね?」


「自信を持ちなさいな。十分にほかのお店とは差別化できていますわよ」


 あの後、従業員総出に私も加わり金のネックレス5本と銅のネックレスを8本作りました。


 逆を言えば、錬金術師4名、彫金師5名、宝飾師6名の15名でお昼返上をしてまで頑張っても、それだけしかできなかったと言うことですわ。


 錬金術師の子たちが言う通り今回のインゴットは非常に扱いが難しく、魔力が少なければ変形せず、多ければ曲がってしまうと言うものでした。


 失敗したものについては錬金術師の子たちがインゴットに戻してくれますが、それも1時間ほどで魔力切れを起こすほどの重労働だったようですわね。


「それにしても、オーナーの実家から差し入れしてもらった食事。ピザって言いましたっけ? あれ、うまかったですね」


「本当ですわね。私も初めて食べましたわ」


「……オーナーも初めて食べたんですか?」


「今日の朝から料理人たちがはりきって新しい料理を研究しているんですの。あれはそのひとつらしいですわよ」


「へえ……。さすがオーナーの実家は裕福ですね」


「……材料費を聞いたら驚きますわよ? ものすごく安いですもの」


「へ、それはどういう……」


「しっ。お客様のご来店よ」


「はい、いらっしゃいませ。スノウフラウへようこそ、カペル婦人」


「お久しぶりですわ。カペル婦人」


「久しぶりね、マオさん。今日は面白いものがあると聞いて立ち寄らせてもらったの」


「面白いもの……でございますか?」


「ええ。お昼前にあなたのお父様のお店に伺ったのだけど、うまくいけば今日からあなたのお店で一風変わったアクセサリーを販売すると聞いたもので。新しいものには目がなくって」


 そう、カペル婦人……オーロール様は新しいものが大好きです。


 父の縁でお付き合いがありますが、私のお店をひいきにしていただけているのも、女性ならではのアイディアを買っていただいているようなもの。


 本当の意味での『お客様』にはまだなっていただけていません。


「それで、あなたのお父様が言っていた一風変わったアクセサリーというのはもうできているかしら?」


「ええと……おそらく、このネックレスのことだと思いますわ」


「ネックレス? ……うん、きれいな色をしているとは思います。ですが、コウ様がお勧めするようなものには見えませんわね?」


「カペル婦人、このネックレスを手に取って光にかざしてみていただけますか?」


「光にかざす? よろしいですが……まぁ! これは!?」


 さすがのカペル婦人も驚きの声をあげられましたわ。


 私も初めて見たときは同じ感想を抱きましたもの。


「マオさん! あなた、これをどうやってお作りに!?」


「はい、製法については商業ギルドで技術登録をさせていただきました。幸い、同じ技術登録はありませんでしたので」


「むむ……私の鑑定でも原材料が銀となにかの合金だとしかわかりません。これは脱帽です」


「お褒めにあずかり光栄です。カペル婦人」


 私とお話をしながらもカペル婦人はいろいろな角度から光を当て、ネックレスの色合いが変わることを楽しんでらっしゃいます。


 これは気に入ってもらえましたわね。


「マオさん、2種類あるようですが、そちらのネックレスはどのようになるんですの?」


「はい。そちらのネックレスは鮮やかな金色をベースに輝きます。こちらのネックレスはあかね色をベースに輝きますわ」


「……確認させていただいても?」


「どうぞ、お手にとってご覧ください」


 もう1本のネックレス……銅合金のネックレスもカペル婦人にお渡しします。


 するとカペル婦人は2本のネックレスを並べ、それぞれの色合いの違いを確認するように光をかざしていますわ。


 いろいろな角度から光を当て、色合いを確認し終えたあと私にネックレスを戻してくださいました。


 ……お気に召しませんでしたでしょうか?


「マオさん、お手数ですがあなたにそのネックレスをつけていただきたいのですの」


「私が……でございますか?」


「ええ。そのネックレスをつけたとき、他人からどのように見えるかを確認したいのですわ」


「かしこまりました。……これでよろしいでしょうか」


「ええ、それでこちらに歩いて……そう! それから振り向いてもらって……」


 カペル婦人にお願いされていろいろな姿勢を取ったりポーズを取ったり……かれこれ20分は経ったでしょうか。


 気がつくと、お店の前には人だかりができていましたわ。


「……リーン、この状況は一体?」


「オーナーがカペル婦人の要望に応えている姿を窓から見ていた人たちが集まってきたんです!」


「……そうだったんですのね。気がつきませんでしたわ」


「私も気がつきませんでした。申し訳ありませんわ、マオさん」


「いえ。それで、カペル婦人。ほかにご要望は……」


「いえ、もう十分ですわ。イメージも十分にわきました。確かにこれは素晴らしいアクセサリーですわね!」


「あの、カペル婦人?」


「ひとまず、金と赤の二色、両方とも買いますわ! お値段はおいくらですの?」


「金色の方が大銀貨8枚、赤色の方が大銀貨6枚となります」


「なっ……」


「申し訳ありません。当店としては高いのは十分に承知しているのですが、何分生産量と原価が……」


「逆ですわ! 安すぎますわよ!」


「え、ですが。カペル婦人の鑑定通り主材料は銀でございます。使っている量もそうたいした量ではございませんので、これくらいがちょうどよい値段かと……」


「ああ、コウ様が私をこのお店に寄越した理由がわかりましたわ! マオさん! あなた、原材料費にばかり囚われていて技術料の価値観が薄すぎますわ!」


「あの、カペル婦人?」


「ちなみに聞きますが、この材料が完成したのは10時ごろだと聞いています。私は開店と同時に参りました。3時間で何本のネックレスが作れまして?」


「え? はい、金色の方が5本、赤色が8本です」


「……ちなみにお昼休みは取りましたか?」


「いいえ、お昼休み返上で私も含めた店の従業員総出で取りかかりましたわ」


「では次の質問です。同じ時間で普通の銀のネックレス。あなた方なら何本作れます?」


「それでしたら50本以上は……あ」


「そういうことですわ。宝石を売るだけでしたら、仕入れたものの品質とカットの美しさが値段の決め手です。ですが、装飾品のような手作りのものにはかかった手間を値段に上乗せすることが必要なんですのよ」


 うう……そういうことですか。


 私のお店では宝石以外ほとんど売れませんでした。


 なのであまり気にしていませんでしたが……本当に未熟ですわ。


「と言うわけですので、このネックレスの値段設定はやり直しですわ。おいくらになさいます?」


「……そうですね。私のお店で高額な装飾品を扱うのは心苦しいですが、金色の方が金貨2枚、赤色の方が金貨1枚と大銀貨3枚でしょうか?」


「……まあ、及第点ですわね。私でしたら、金貨3枚と金貨2枚にしますわ」


「それほどですか?」


「それほどですわ。それに……」


「オーナー! 例のアクセサリーの試作品……あ、失礼しました」


「セシル、なにができたのですか?」


「はい、その……」


「私のことは構わずお話しなさい。例のアクセサリーというのは私も気になります」


「ええと……ペガサスとユニコーンの形をしたペンダントができたのですが……」


 まあ、セシルに任せていたペンダントができたのですね!


 それは私も早く確認したいですわ。


「ほほう、それは私も気になりますわ。マオさん、見せていただいても?」


「オーナー。まだ全体的な縁取りと目の部分に小さな宝石をはめ込んだだけの試作品ですが……」


「カペル婦人が見たいとおっしゃっているのです。見せないわけにもいかないでしょう」


「わかりました。こちらになります」


「まあ! この金属、ネックレスのものと同じね!」


「はい。まだ不格好ですがなんとか形だけは仕上がりました」


「これで完成ではないんですの?」


「イメージ画はもっと繊細なイメージなんです。ペガサスはもっと凜々しく、ユニコーンは優雅に」


「……いいわね。これはとてもいいわ」


「カペル婦人?」


「マオさん。このあと、時間を空けてくださる? 1時間ほどあとからお茶会がありますの。それに出席してくださいな」


「え!? いまからお茶会の準備ですか!?」


 さすがにいまからでは困ります。


 せめて明日なら、家に帰ってドレスの準備なども間に合うのですが……。


「ドレスは私が貸し出すから大丈夫よ。あなたはそのネックレスとペンダントをつけて、にこやかにお話をしてくれていればいいの」


「さすがにそれは、ほかの出席者の皆様に失礼なのでは……?」


「私主催のお茶会ですもの。文句は言わせない、いえ、文句は出ないでしょう」


 困ったわ、これはお断りできません。


「わかりました。それでは一緒に参ります」


「ああ、商品のネックレスも忘れずに持ってきて頂戴。その場で販売してもらうわ」


「え? さすがにそれは本当に失礼なのでは……」


「その場で売らないと、ご婦人たちがこのお店に詰めかけるわよ。それを少しでも軽減するためだと思って頂戴」


「……わかりました」


「ああ、その前に。私には1本ずつ売って頂戴ね」


「お買い上げありがとうございます」


 そのあとはカペル婦人に連れられてドレスに着替え、お茶会へと参加いたしました。


 カペル婦人はネックレスとペンダントをつけてにこやかにお話をしていればいい、とおっしゃってくださいましたが……。


 参加したご婦人たち皆様が私を見ると、私の胸元に輝くネックレスとペンダントに気がつき、その話題に終始することになりましたわ。


 持ち込んだネックレスはすぐに……と言いますか、ほぼ争奪戦となりカペル婦人の提案でくじ引きに。


 ペンダントについてはまだ試作段階で販売できるのはまだ先だと告げると、皆様のご予約をいただきました。


 ネックレスについても翌日販売分以降のご予約をいただき、しばらくは予約数を作るので精一杯です。


 ……お店に戻りましたら従業員のみんなにお願いして増産体制に入ってもらい、その分お給金を増額いたしましょう。


 なお、ペンダントのモチーフとしてワイズマンズ・フォレストやカーバンクルがあることも知られると、そちらもものすごい勢いで予約が入ったのは……うん、お店としては喜ばしいですわね。

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